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野村 |
職業柄、悩みを聞くことが多いんですけど、
僕はすぐ感情移入しちゃうんですよ。
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ほぼ日 |
それじゃ診察もたいへんですね。 |
野村 |
そうですよ。ですから、
飼い主が症状を話す前に
「こうでしょ?」「ああでしょ?」って
言い当てられます。
「朝から晩まで、水飲んでるんじゃないですか?
おしっこが近いでしょう」
「生理が長かったんじゃないかな?」
「最近、ちょっと太り気味ですね」
全部当てます。
「毎日ドッグフード何粒に、
鶏のササミのゆでたものを食べて、
あとはおやつがビーフジャーキーなんじゃ
ないですか?」
とかね。
ガッと、相手の立場になっていくと、
見えてくるんです。 |
ほぼ日 |
すごい。食べものも当たってるんですか。 |
野村 |
いろいろ言っているうちに、
「そうです!」って
立ちあがっちゃう人もいますからね。
「何で知ってるんですか!」 |
ほぼ日 |
完全に患者の気持ちになっていくんですね。 |
野村 |
うん。そこまで入りこまないと、
わからないことが多いからです。
飼い主は、動物を病気にさせてしまったという
良心の呵責からウソをつくものです。
しかも、動物は「こうなんです」と
口で言ってくれないんですよ。
だから、全部見抜かなきゃいけない。 |
ほぼ日 |
それは獣医になられてから
磨かれてきたことなんでしょうか。 |
野村 |
そうです。必要だからです。
この仕事をしていくうえで、
動物とも人間とも
つき合っていかなきゃいけないからね。
僕は、人間も好きなんです。 |
ほぼ日 |
両方と‥‥
それから、こんなふうに取材を受けたりして。 |
野村 |
それは、申し込んでくれる人たちがいるからです。
相手が本当に必要としていることを
断るということは、基本的にしません。
犬が「骨を折りました」って、病院に来て
「いやぁ、面倒くせぇな、やりたくねぇな」
なんて言ったりすることと同じことです。
そんなふうに思ったら、
全部やらなくなっちゃう、そんなの。
ほんとは、楽なことだけやって
稼いでりゃいいんだもん。
でも、それじゃ真心不在の人だと思う。
僕は、仕事というのものは
等価交換だと思ってます。
何かをしたことで、感謝の気持ちが生まれて、
そこで出てくる何かによって
僕たちは生きてんじゃないかなと
思っているんですよ。 |
ほぼ日 |
でも、何でも引き受けていると
重荷になることもつけ込まれることも
あるんじゃないでしょうか。 |
野村 |
うん。でも、
許せなくちゃいけないと僕は思います。
僕の好きな人間は、許せる人間です。
「許せる」ということは、まさしく人間が
ほかの動物と違うところでしょう。
まぁ、許せることにも限度はあるけどね(笑)。 |
ほぼ日 |
人間らしさとは、
「許せること」‥‥。 |
野村 |
ゴミみたいな人間のほうが
絶対に楽です。
でも、それじゃ人間でいる意味がない。 |
ほぼ日 |
いやぁ、「いきもの」を軸にして
どんどん人間が見えてきますね。 |
野村 |
そうでしょ?
人間も含めたいきものの、
それぞれの持つ独特の十字架──つまり、
きまりごとのようなものを
全部ひっくるめて丸裸にして、
分析していくとわかるんです。
そうやってわかることを
整理していきます。
そして、ひとつひとつの事象について
結論を出し、納得し、整理整頓します。
それが、即座に戦力になって
僕の仕事に役立っていくんです。
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ほぼ日 |
先生は獣医──というより
「いきものの先生」と呼ぶのが
ぴったりですね。 |
野村 |
うん。
その根底には、自分で言うのは何ですが、
やさしさがあると思います。 |
ほぼ日 |
そうなんですか。 |
野村 |
そうじゃなかったら、
脳みそを開ける研究をすると思います。
このやさしさは、
僕のおふくろからもらいました。
でもいまは、やさしすぎて、痩せちゃって、
ヨレヨレのライオンみたいに
なっちゃったよね! あーあ! |
ほぼ日 |
ははははは。
先生は、この病院の院長ですが、
いつもむずかしい手術を
ご担当なさっているとか。 |
野村 |
僕は、言うなれば
ここの病院の最終兵器なんですよ。
うちの勤務医や
ベテランの看護婦さんたちが
「はぁ〜だめだ」と言って次の人に相談し、
「私でもだめだ」って、次の人に相談する。
もう「どうにもなんねぇ!」っていうときにだけ
「院長〜」って、やってくるんです。
そしたらボスキャラが
「ど〜れ〜?」って出ていく。 |
ほぼ日 |
ああ、だから手ごわいものが。 |
野村 |
そう。みんな、むずかしい症状ばかり。
全部手術になるんですよ。 |
ほぼ日 |
なるほど。 |
野村 |
今日も手ごわいのが3件ありました。
多いときは
1日で手術を12件やるんです。
1991年から2003年までの間には、
合計1万6000件の外科手術をやりましたよ。
そのうちの80%が、ガン・腫瘍の摘出でした。
だからほら、手術ダコできてんの。
必ずここに力がかかります。
人間の手術でも同じ。
だから病院で
「私が外科を担当します。安心してください」
なんて言われたら、
「先生、手、見せて」って言うといいですよ。 |
ほぼ日 |
手術ダコができているかどうか? |
野村 |
「先生、利き手右? 左?」
「右ですよ」
「どれ?」
って、利き手の人さし指の第一関節を
見てください。
タコができてなかったら、
あんまりやっていない人です。 |
ほぼ日 |
そこで判断していいんですか? |
野村 |
だってさ、
ヨレヨレのタケヒゴみたいな体の人が
「僕は関取なんだ」って言ったって、
信じられないでしょう? |
ほぼ日 |
そりゃそうですね。 |
野村 |
ものすごーく太った人が
「中国雑技団です」と言ったって、
「どうやってそんな体で
アクロバットするんだよ」
と思うでしょう? それと同じ。
カモシカは走るのが速いから
ああいう格好をしてるんです。
チーターも速く走るから、
頭がちっちゃくて、しっぽなんて縦に細くて、
10頭身をしてるんです。
外科医はやっぱり、
手術ダコができていないと。 |
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(つづきます!
次回は最終回です) |