糸井 芝居を見ているという目で見ると、
このシーンがどうだとかああだとか言うけど、
人はね、まず肉がいっぱい映ってるというだけで
うれしいんですよ。
そういうことをもっとちゃんと
言わなきゃダメだと(笑)。
染五郎 言わなきゃダメ。正直に。
糸井 正直に。
で、演出家はわかってやってますよね。
染五郎 わかってやってますね。
今のカット(顔がアップになって、
画面から見切れている)だって、
なんで顔が切れてんだろうみたいなね。
糸井 でしょう、でしょう?
糸井 わかってやってますよね(笑)。
もうちょっと肉見せろみたいな。
染五郎 そうですね。
もうそれに理屈は要らないですね。
見せてくれさえすれば、みたいな(笑)。
糸井 要らない。それはだから、
富士の山が美しいのと同じように、
あるものについてちゃんと採点してくれというか。
(裏町の女が手にする徳利が
 マイクになっていて、
 歌をうたうシーンで)
この徳利のマイクも!
染五郎 新感線、いろんなマイクがありますねえ。

糸井 そのしょうもないところの工夫が(笑)。
染五郎 いや、この小道具っていうのも
ひとつ注目していただきたいんですけど、
これはもう本当に
見事な仕事っぷりですね。
糸井 すごいよね。
それって複数の人間ですか。
染五郎 作る人たちは複数います。
その中で
劇団のインディ高橋さんという方が、
高橋岳蔵という名前で
小道具を受け持っておられるんですけども、
それはもう1秒、2秒しか使わないような小道具を
ガッツリ作りますからね。
糸井 この徳利と同じようなサイズの
さっきの仏像というか、
兄弟の契りに使う人型の像があったじゃないですか。
あれなんかでも、もっとそれらしい形のものって
いろいろあったかもしれないけど、
これはハンパじゃないですか。
あのハンパさが‥‥
染五郎 ハンパさがね(笑)。
糸井 新感線のマンガ的距離感というか。
あれ例えば、キリッとしたモノリスだったら、
もっと観念的に見えるし。
染五郎 なるほど。
糸井 そういう油断のつけ方が
この劇団はもう本当にうまいですね(笑)。
染五郎 そうですね。
糸井 2人の位置がものすごく
端っこにある場面がありますね。
端っこで芝居をやるというのを
ものすごく強調されてるのは、
歌舞伎もそうですよね。
一緒にヒソヒソやりながら入ってくるだとか、
「さて」と言ったら中心のとこに行くみたいな。
やっぱり相当歌舞伎の引用が
あるような気がしますね。
染五郎 うん。その歌舞伎らしさが、
いわゆる表面的な“らしさ”じゃないんですよね。
なんかそこがね‥‥
糸井 そうですね。隠し歌舞伎?(笑)
染五郎 ええ、いのうえ歌舞伎の
そこがいいとこのような気がして。
これで今度もうすぐ、
ついに古田新太さんが登場なんですけどもね。
糸井 ドンと登場ですからね。
染五郎 このワサワサいる中に
村木仁さんと逆木圭一郎さんという方が
いらっしゃるんですけど、
それはほかの役で出てるので、
ここでは顔はわからないようにということで、
ヒゲをつけたり‥‥
糸井 あ、ダブルキャスト。
染五郎 ええ、モジャモジャ頭になってんですけど、
一応その2人は‥‥
糸井 二役ってやつか。
染五郎 ええ、ザ・たっちという設定で。
糸井 あ、そうなんですか(笑)。
染五郎 「ちょっとちょっと」も入ってたりして。
糸井 ああ、気がつかなかった(笑)。
この人も凛々しかったねえ。
染五郎 秋山菜津子さんですね。ツナという役で。
糸井 うん。渡辺綱(わたなべのつな)ってのは
史実では男のはずですもんね。
染五郎 そうです。
シュテンっていう真木よう子さんの役は
酒呑童子から取ってるらしいです。
あ、古田さん出てきました。
糸井 古田新太さんがいつ出るんだろうと
いつでも待ってるはずの客席ですもんね。
染五郎 そうですねえ。
糸井 セックスシーンから出てきたんですね。
染五郎 そうですね。これはけっこう毎日いろいろ違って。
糸井 あ、そうなんですか。
染五郎 はい。相手の女性の方に
いろいろ注文をされてたみたいですけどね。
糸井 あ、じゃ、このようなじゃない
登場のしかたというかセリフとか。
染五郎 ええ、
けっこうなかなかずっとあえぎっぱなしで
出てこなかったりするときもありますし。
糸井 はぁ‥‥間を持たせるんだ。
染五郎 そうですね。相手の方、保坂エマさんって
新感線の方なので、いろいろ‥‥
糸井 2人だけで打ち合わせをしておいて(笑)。
染五郎 そうそう(笑)。
糸井 はぁー‥‥。

染五郎 ただ古田さんはもう、
僕の目標みたいなところがあるので。
この色気がやっぱり。
とくに新感線のお芝居って、
色気がどんな役でも必要な感じがするので、
その色気があるんですよね。
で、このあと一太刀で斬るんですよね。
そのまた太刀筋がやっぱ
メチャクチャかっこいいんですよね。
糸井 え、それをもうちょっと
プロ的に言うとどういう説明?
染五郎 何ていいますかね、
もちろん持ってるものは軽い刀なんですけど、
その重さもあるし、ただ速いだけではないし、
何ていいますかね‥‥きれいなんですよね、
それだけで。
糸井 ほう!
染五郎 この一太刀なんですけどね。
こうはいかないなあと思いながら
いつも袖で見てましたね。
糸井 それは稽古のときからその感じはあるんですか。
染五郎 ありますね、もう。最初からですね。
糸井 で、あの斬り方をするのは
古田さんの考えなんですか。
それとも演出家との。
染五郎 これはもう殺陣師です。
一手だけでも殺陣師がつけますんで。
糸井 あ、そういうものなんですか。
染五郎 はい。それをまた古田さん流の斬り方といいますか、
手は一緒なんですけども斬り方があるんで、
またカッコいいんですよねえ、本当に。
糸井 そういうときに本人に
言ったりすることはあるんですか。
染五郎 いや、それは自分で
いいなあと思って見てますね
糸井 へぇー。これでこの人の大きさを
だいぶ出しましたよね、あの一太刀で。
染五郎 本当そうですね。
糸井 それでなくても獣の服着てますから(笑)。
染五郎 (笑)すごい衣装ですけどね。
糸井 すごい衣装ですよね(笑)。
このときの染五郎さんの衣装も、
軽いんだけれども何かありそうで面白いですね。
首に巻いてるじゃないですか。
これはちょっとアイディアですよね。





2008-01-07-MON

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN