染五郎 |
カツラもけっこう本当にひとつひとつ
こだわって作ってましたからね。
高橋功亘さんって方が
ヘアメイクで入っておられるんですけど、
この方もやっぱり職人でして、
もうその僕の頭も、
もう舞台稽古初日ギリギリまでいろいろ工夫して、
「プランが、あたしのプランがある」って。 |
糸井 |
完全にオリジナルのヘアスタイルですよね(笑)。
こんなカツラ売ってないですよね(笑)。 |
染五郎 |
そうですね。
売ってないし、もうこの時代的にも
まったくそういうものはないんですけども、
でも、もうビジュアルで行くからみたいな感じで
オリジナルな。 |
糸井 |
そういう人が集まったっていうこと自体が‥‥ |
染五郎 |
集まるんですよ。で、舞台のスタッフも、
要するにこの場面への場面転換というのも、
本当にもう流れるような感じなので
何ともないじゃないですか。 |
糸井 |
うん、何ともない(笑)。 |
染五郎 |
でも、あそこに赤い柱があったり、
もちろん小道具なんてワサワサ出てるは、
提灯はああやって出て、
そこに火っていうか電気が入ってるは、
それだけのものをいつの間に?
っていうところがあったりするんですけど、
舞台監督にしても、もちろん照明にしても、
もちろんそこには演出ってものがありますけども、
そういうのがすごくもうそれぞれが、
もちろん小道具もこだわって作ってるんで、
それが集まるんですね。 |
糸井 |
役者さん以外のスタッフが
いるってことを感じますよね(笑)。 |
染五郎 |
うん。もう本当にこのスタッフは、
もう僕は日本一だと思ってますから。
|
糸井 |
どうしてそんな集まったんだろう。 |
染五郎 |
ねえ。いや、本当すごいですね。
本当にこだわりの塊みたいなのが。
ただ、お芝居自体は、
エネルギーだったりパワーだったり
ライブ感みたいな臨場感というものを感じられる、
ある意味勢いでというところを感じるんですけど、
緻密ですね、それぞれが。 |
糸井 |
緻密ですよね。
つまり、最初に殺陣の話をしたときもそうだけど、
間違ったら怪我するようなことばっかり
やってるわけだから。 |
染五郎 |
いや、本当そうですね。
ひとつ間違うと本当に危ないんですけど。 |
糸井 |
丁寧さと大胆さが両立してるんですよね。 |
染五郎 |
うん。で、稽古のときでも
いのうえさんがけっこうひとつひとつ
細かく作っていくんで、
通してみるとえらい運動量に
なってたりするんですけど(笑)、
でも、確かにやっぱりそういうふうにやったら
カッコいいし面白いしって、
やっぱりやる側は思っちゃうんですよね。
「じゃあ、やらなきゃいけないな」
っていうふうにやっぱり思っちゃうんで、
そのへんの妥協のなさというのが
作品全体のテンションにつながってる感じがしますね。 |
糸井 |
稽古の分量は多いほうですか。 |
染五郎 |
今回はひと月半弱ですけども、
かなりギリギリでしたね。 |
糸井 |
あ、そうですか。じゃ、
ホン(台本)は早くできてるんですね、ちゃんと。 |
染五郎 |
はい、早くできてました。 |
糸井 |
つまり、そこをちゃんとやってないと、
1か月半が無駄になっちゃうんだ。
ホンが遅れるってあるじゃないですか、よく(笑)。 |
染五郎 |
ありますねえ。 |
糸井 |
それはここではありえないですね。 |
染五郎 |
ありえない‥‥ありえないですね。
おそろしいことですね、それは。 |
糸井 |
できないですもんね、そのさっきの段取り全部。
殺陣から髪型から音楽から全部ですよね。 |
染五郎 |
できない、できないですねえ。
そういう意味ではもうひと月半前に
大まかなプランができてないと、
やっぱり道具にせよ照明にしろ、
作れないですからね。
前回『髑髏城の七人』という芝居をやってたときに、
白髪の長髪だったんですね。
殺陣の場面ではやっぱり髪が顔にかかるんで、
殺陣はまったく見えずにやってましたね。 |
糸井 |
うわあ。
|
染五郎 |
ただ、これを
「見えないんでなんとかしてほしい」
って言うのも逆に悔しいんですよね。 |
糸井 |
うんうん、意地でね。 |
染五郎 |
意地で。もう足数の感覚を体に覚えさせて、
殺陣の感覚を覚えさせてやってましたから、
ほとんど目つぶって
殺陣してるみたいな感じでしたけどね。 |
糸井 |
はぁー‥‥。 |
染五郎 |
逆に、それができたらカッコいいんじゃない?
みたいなふうに思っちゃうんで。 |
糸井 |
自分への約束でね。 |
染五郎 |
ええ。‥‥あ、このシーン、
(「シキブ」役高田聖子さん登場のシーン)
これも扇子にマイクが
ついてるんですよね(笑)。 |
糸井 |
あ、本当だ。本当だ。看板女優。
マイクの位置に関しては、
ちょっとみんなで相談して
ふざけてる感じがしますね(笑)。 |
染五郎 |
そうですね(笑)。
ここは振付けさせていただいたんです。 |
糸井 |
振付けの基礎になる部分というのは、
やっぱり自分が踊りを習ってたことですか。 |
染五郎 |
そうですね。もちろんその
引き出しの中だとは思うんですけども、
いわゆる古典的なというか歌舞伎を
意識したり日本舞踊を意識した振りにしないで、
やっぱり曲を聴いて出てくる振りをと思って付けてます。
それとか、自分にできない振りとか付けますね。 |
糸井 |
あ、こういうときは。 |
染五郎 |
ええ。音を聴いたりして、
このテンポでこの間でこう動けたら
カッコいいなとか思って。 |
糸井 |
え、それは自分にできないことなんですか。 |
染五郎 |
僕はできないけどやってくださいみたいな。 |
糸井 |
へぇー。 |
染五郎 |
で、できちゃったりするんですよね。
そうすると、付けた自分が
「あ、できた、できた」って
どこかで思いながら(笑)、
「そうそうそう、カッコいい、カッコいい」
とか思いながらやってます。 |
糸井 |
ああ、文体変えちゃうみたいなのものですね、自分の。
(高田聖子さんのカツラを見て)
巻貝みたいになってますね。
はぁー‥‥。
これ、衣装、髪型、ライティングみたいな人たちの
打ち合わせっていうのは、
どういうふうにやってんですかね。
稽古場にはいるんですか。 |
染五郎 |
ええ、稽古場でもやはり動きを見たりしながら、
あとはどういう役者さんかっていうのを見ながら
プランを考える。
もちろん事前のプランはあったりしますけれども、
また、芝居によって全然その人の見方ってのは
変わってくるので、
その人をイメージしてひとつの形が
出来上がってくるんですけどね。 |
糸井 |
なかなかそうなると
外部のスタッフというのは、起用しにくいですね。
相当わかってる人じゃないと。
たまにはあるんですか。
「照明さん変わりました」みたいなことは。 |
染五郎 |
えーと‥‥あると思いますね。
比較的今は固定されてますけれども、
やっぱりこのテイストがかなり個性的というか。 |
糸井 |
つまり、無理をし合って
生きてきた人たちでしょう。 |
染五郎 |
うんうん。そこはやっぱり
チームワークはいいですね、今。 |
糸井 |
これ、マイクはどういう‥‥
セリフのマイクはどうなってるんですか。 |
染五郎 |
耳の横についてるマイクがあって、
それで拾ってるんですけれども。
歌の場合はもっと口に近くないといけないので、
ああいう小道具を使っての
マイクになってるんですけどね。 |
糸井 |
あ、そういうことなんですか。
つまり、楽器の音に消されないように。 |
染五郎 |
そうなんです。拾っちゃうんで難しいみたいですけど、
まあ僕はもう散々、
携帯も骨伝導みたいなのができたんだから
骨伝導のマイクを開発してくれって。
汗で水没するんですよ、たまに。 |
糸井 |
マイクが(笑)! |
染五郎 |
マイクが。水には弱いですからね、
汗が入り込むともうえらいこと。
この『朧』のときも何度か。 |
糸井 |
水没が?(笑) |
染五郎 |
汗で水没ってありましたね。
もうそのときはえらい騒ぎ。
もう命綱みたいなものですからね。 |
糸井 |
え、つまり自分のセリフが
通らなくなっちゃうんだ。 |
染五郎 |
スピーカーも舞台向きに入ってるんですけど、
アッと思ったときには、
もう逆にメチャクチャ張って
しゃべったりして‥‥ |
糸井 |
肉声が聞こえるように。 |
染五郎 |
ええ。引っ込んだときにもう、
「音響さん、音響さん、音響さん」
って言って泣きすがって、
「換えるなら換えよう、
新しいのに換えよう、換えよう」と言って、
急いで換えたりすることもありますね。 |
糸井 |
それは水没の経験があった人でないと
そんなことは思いつかないですね。 |
染五郎 |
そうですね。
|
糸井 |
初めてのときはどうでした?(笑)
聞こえてないこと自体を気づけないですよね。 |
染五郎 |
わかんないとこありますね。
だから音響さんももう、
これだけの人数マイク付けてるので、
そういう意味では、
すごく音響さんももう神経すり減らす
仕事だなあと思って(笑)。 |