ほぼ日 | トレーラーには、 何度も何度も弾き直し、歌い直す、 矢野さんの姿がうつっていますね。 |
篠崎 | 矢野さんは、いいフレーズを思いついたら、 そっちへどんどん行く タイプだと思うんですよね。 なので、回を重ねるごとに、 本当に、整っていくんですよ。 |
ほぼ日 | じゃ、終わりがない‥‥? |
篠崎 | ないですね、多分。 |
ほぼ日 | だから、吉野さんに最後を託すのかな。 最後は吉野さんに判断を委ねるじゃないですか。 「これでいい?」 「‥‥OK」。 |
篠崎 | そうですね。 根本的には、その手前では 「こんなのダメ、あんなのダメ」とかって (紙を丸めて捨てるしぐさ) くしゃくしゃパーン、 くしゃくしゃパーンという感じで どんどんどんどん行って、 ある程度のとこまで来たものに関しては、 もう、委ねていますね。 「いい日旅立ち」の時に アレンジをどんどん変えていったんですよ。 どんどん作り上げていってて、 すごく新鮮にあの曲をあの場で 作っていったって感じだったんですけども、 その最後のほうに「♪いい日」って (オリジナルとは異なる) 半音で下りるフレーズにアレンジして、 矢野さんがちょっと歌い、 何回かトライして、まだ完璧にならない時、 「どうかな、吉野さん」という矢野さんに、 吉野さんがこうおっしゃったんです。 「あの『♪いい日』って 半音で下がるとこがとても面白い」。 そしたら、その次のテイクから 後半のアレンジがとんでもなく 発展していきました。 ちいさなこころみを、 エンディングにふさわしいほどのフレージングに アドリブで発展させる感じとかが、 2人のコミュニケーションの面白さです。 ポンと投げた石がバーッと 音楽的に広がっていくというのが面白いんです。 そういうクオリティで、 すぐに対応できる矢野さんも面白いし‥‥ |
ほぼ日 | 「面白いね」って石を投げられる吉野さんも。 |
篠崎 | そう、そうなんです。 ポンと面白いところを引っ張ってくるんです。 |
ほぼ日 | それにしても矢野さんが 「いい日旅立ち」を 歌うとは思いませんでした。 ご自分で選ばれたんですか。 |
篠崎 | そうです。 大阪のフェスティバルホールがなくなる、 一番最後に、南こうせつさんとかいろんな方々が 一堂に会したコンサートがあって、 その時に久しぶりに谷村さんと 矢野さんが会ったんです。 |
ほぼ日 | 面識があるんですね。 |
篠崎 | すごく昔から関わりがあったみたいで、 谷村さんは矢野さんのことを 音楽的にとてもいいと 思ってくださってるみたいです。 その時に「『いい日旅立ち』っていい曲だよね」 みたいなことを ちょっと矢野さんが言ってたなと思ったら、 ここで突然バッと出て。 |
ほぼ日 | はぁ‥‥これ意外でした。 好きな歌ですけど、ビックリしました。 |
篠崎 | でも、全然悲壮感がなさ過ぎて、 いいのかって(笑)。 |
ほぼ日 | 明るい旅立ちですよね。 「あれ? メジャーだっけ、この曲」って(笑)。 |
篠崎 | じつは谷村新司さんが、 「いい日旅立ち」を聴き、 コメントをくださったんですよ。 |
ほぼ日 | わぁ、読ませてください! |
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ほぼ日 | うわぁ。 谷村さんといい、吉野金次さんといい、 矢野さんの歴史をすごく感じますね‥‥。 あの、話がトレーラーにもどりますが、 矢野さん、『ピアノが愛した女。』のときは もっと厳しかったですよね。 |
篠崎 | 私、怖くて見れないくらいです。 |
ほぼ日 | ものすごく厳しいですよね。 撮ってる人に対して カメラの音が気になるということについて はっきりおっしゃったりもして。 その点、『音楽堂』の レコーディング風景は、 じんわり、やさしかった気がします。 |
篠崎 | でも今回も、まず矢野さんに 映像を撮りたいという話をした時に、 「うーん?」って言われたんですよ。 |
ほぼ日 | やはり、あまり好ましくはなかった? |
篠崎 | 「カメラマンがいるってことは 気になるのよ、それだけでも」 「じゃあ、全部据え置きにします」 ということで、無人カメラなんです。 |
ほぼ日 | へぇー! そうか! |
篠崎 | 無人のカメラの据え置きだから、 矢野さんがカメラを考えずにいられた、 というのもあると思いますし、 休憩時間などをハンディで追っかけてるのは、 昔から矢野さんをよく知っている ウェブデザイナー兼カメラマンの方でした。 その彼が本当にプライベートな 矢野さんの顔を撮ってくれるオフというのが 入ってるから、 「やさしい」という印象が 強いかもしれないですね。 |
ヤマハさん | あの、いいですか。 |
ほぼ日 | どうぞどうぞ。 |
ヤマハさん | 僕も『ピアノが愛した女。』を見てたので、 とても現場には近づけないなと 思ってたんです(笑)。 だけど、厳しさの内容が違うというか。 まわりのスタッフも、 矢野さんが苦しむってことがあるというのを 知らなかったという者がけっこういました。 「矢野さんとピアノが向き合えば、 自然ともうメロディが湧いてきちゃうとか、 曲ができちゃうとかって そういうイメージがあったけど、違うんだ」 ──そういう感想を何件か聞きました。 |
篠崎 | いまの矢野さんは 「音楽堂」のトレーラーの印象ですよ。 みんなに対しての気遣いもこまやかだし、 音楽的な部分では、 「ああ、まだまだだ!」って。 |
ほぼ日 | その自分を責めてる姿にも、 ちょっとビックリしたんです。 |
篠崎 | ほとんどいつも、 そういう姿のほうが多いです。 「まだまだだな、まだまだだ!」 と言ってる。 |
ほぼ日 | えぇー。 |
ほぼ日 | 自分に対してあんなに厳しいんだ。 |
ヤマハさん | 地方を回ってても、 「どこかに音楽教室あいてないかな」って、 ピアノの弾ける練習場所を探したりしますよ。 |
篠崎 | さらに、キーボードはホテルには 必ず持ち歩いてますしね。 ずっと(ピアノのことを) 考えてるんじゃないかな。 好きだからだと思いますけど、根本的に。 ものすごく本当に。 |
ほぼ日 | トレーラーの矢野さんを見ていると、 「そういったものがおまえにはあるか」 って突きつけられる気がします。 |
篠崎 | ああ‥‥。 |
ヤマハさん | 最近ちょこちょこインタビューで、 「私はこれしかできないから」 とおっしゃっています。 「だから、これを一所懸命やるんだ」と。 「お店に勤めたこともないし、 何か物を売るとかそういうこともしたこともないし、 私は音楽しかできない人間だから」って。 |
ほぼ日 | でもほら、吉野さんの復帰を 成功させてますよ! |
篠崎 | ああ、そうですね。 本当、すごく、ありましたねえ‥‥。 あとね、私、今回のことで ほんとうに驚いたことがひとつあって、 それは何かというと、調律なんです。 |
ほぼ日 | 調律? |
(つづきます)
2010-02-09-TUE