ほぼ日 | ここまで大向うのお話をうかがいまして、 たいへん興味深かったです。 |
堀越 | そうですか。 ちゃんとお話しできたかどうか。 |
ほぼ日 | ほんとに、おもしろかったです。 それで、最後にですね、 これはおまけのようなものに なるのかもしれませんが、 大向うの堀越さんから 「歌舞伎の楽しみかた」を 教えていただけるとうれしいのですが。 |
堀越 | 「歌舞伎の楽しみかた」ですか。 |
ほぼ日 | はい。 正直なところ、歌舞伎というのはちょっと まだまだ敷居が高いといいますか、 何度か観にいったのですが、 実は居眠りしてしまったこともあって‥‥。 楽しみかたを、もっとちゃんと知りたいなあ と思っていたんです。 まだ観たことのない人たちにも ハードルを下げてあげられるような、 アドバイスがあれば‥‥いかがでしょう? |
堀越 | そうですね、何といいますか‥‥ 「わからなくてもいいかな」って、 最近ぼくは思っているんです。 理解しなくていい。 けど、「泣ける人」にはなってほしい という感じがあって。 |
ほぼ日 | 泣ける人。 |
堀越 | たとえば大向うに必要な資質って、 けっきょくは芝居を見て感動できる人かどうか、 というのがとても大切だと思うんです。 詳しい人は別にいらないというか。 それは劇評家にまかせておけばいいというか。 「歌舞伎をわかる」人よりは 「歌舞伎で泣ける」人の方が 大向うに向いている気がします。 そしてそれはそのまま、 歌舞伎を楽しむための資質だと思うんですよ。 「わかること」と「感じること」は たぶん違うじゃないですか。 ブルース・リーが、 たしかそんなことを言ってましたよね? |
ほぼ日 | ええと、「考えるな、感じるんだ」。 |
堀越 | そうそう、 それはほんとうにそうだなあと。 ですから歌舞伎に関しては、 「セリフがわからないから楽しめない」 と思い込むのは、やめたほうがいいと思います。 だって映画を観に行っても、 洋画の字幕って、ものすごく情報が トリミングされてるじゃないですか。 |
ほぼ日 | ああ、そうですね。 |
堀越 | でも、ぜんぶわかんなくても、泣けますよね? 英語の歌詞だってそうです。 もっと言えば、 フランスの歌だって感動できますでしょ。 英語ならまだ断片が理解できても、 まったくわからないフランス語でも伝わる。 つまり、ぜんぶの情報がなくたって、 目に入ってくる美しさや、 役者の表情を感じるだけで、 ずいぶん楽しいんです、歌舞伎は。 「この役者さんは今、どうやら悲しいらしい。 何で悲しいのかな?」 そんなふうに思いながら観ているだけで、 最初はいいんだと思います。 そうすると、わかろうとはしなくても、 「あ、もしかすると‥‥」 っていう発見があったりするんです。 自分なりに答えが見つかれば、 それが間違っててもいいじゃないですか。 「なるほど」って感じることで、 どんどん楽しくなってくると思いますよ。 |
ほぼ日 | 最初からすべてを理解しようとせずに。 |
堀越 | 「感じる」ことが第一だと思います。 ちゃんと「感じる」ためには、 やはり優れた役者を観たほうがいいですね。 自然と感情移入をさせてくれますから。 その意味では、 最初から「本物」を観るべきだと ぼくは思います。 「歌舞伎鑑賞教室」も若手が頑張っているので それはそれで魅力はあるんですけど、 やはり「本物、本格から」をすすめます。 |
ほぼ日 | というと、 「歌舞伎座」とか 「シアターコクーン」などで観られる、 歌舞伎などがそれでしょうか。 |
堀越 | そうですね。 「歌舞伎座」は2010年の4月から建て替えのため しばらく休館になりますけど、 新橋演舞場をはじめとして、 本物の歌舞伎は探せば出会えるはずですので。 「歌舞伎美人(かぶきびと)」という 松竹さんの公式歌舞伎サイトにいけば、 公演情報も確認できて便利ですよ。 |
ほぼ日 | なるほど。 あと、演目はどういうものを観れば‥‥。 |
堀越 | 演目の選び方はやっぱり大事です。 人によって感動のツボは違うと思うんですよ。 最初にツボじゃないものを観ると、 「私は歌舞伎とそりが合わない」となっちゃう。 それはもったいないですよね。 ですから最初は、何パターンかの 「本物」を観てみることです。 我慢してでも3カ月くらい。 いちばん安い席でいいですから、 昼夜、昼夜、昼夜で3カ月観る。 それで一通りのパターンを網羅できるはずです。 その中で自分のツボに合ったものがあれば、 そこを中心に次から演目選びをしていく。 これがたぶん、泣けるコツじゃないでしょうか。 |
ほぼ日 | そうして本当に泣ける瞬間に出会ったら、 声を掛けてみるのもオーケー、と。 |
堀越 | そうですね、勇気とタイミングで(笑)。 自分の感動を声にのせれば大丈夫。 技術はあとからついてきます。 私は、いい掛け声というのは、 役者さんの芝居が 引き出してくれるものだと思っています。 その芝居に引き出されるように、声が出てくる。 それが「本物」なんじゃないかなぁ、と。 |
ほぼ日 | ‥‥はい。 ありがとうございました。 |
堀越 | こんなお話でよろしかったでしょうか。 |
ほぼ日 | いや、もう、すばらしいです。 大向うのいろいろな謎がわかって、 すっきりしました。 |
堀越 | そうですか、謎が(笑)。 |
ほぼ日 | ほんとにずっと疑問だったんですよ、 どんな人が、どんな経緯で、 もう、どうなってるんだ? と(笑)。 顔を見に探しに行ったんですけど、 見つからなくて。 |
堀越 | みんなね、逃げるんですよ(笑)。 幕が閉まると同時に。 |
ほぼ日 | そうですかぁ‥‥ でも今日はお会いできてよかったです。 ありがとうございました! |
堀越 | ありがとうございました。 |
(つづきます!) |
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2010-01-25-MON
(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN