大竹昭子さん、写真のたのしさ、教えてください。

1 写真を編むことはタイヘンだ。

── 大竹さんの編集・執筆なさった
『この写真がすごい2008』、
とても面白かったです。
こんなふうに、撮った人が誰かを知らずに
写真だけを見るということは、
ふだん、まず、ないんだなと思いました。
それがまず新鮮でしたし、
なにより写真そのものがたのしくて。
そして写真に添えられた大竹さんのことばが、
ともだちに「これ、たのしいよね」って
話しかけられているみたいで、
それもすごく面白かったです。
大竹 ありがとうございます!
── この本の掲載写真は、
森山大道さんや中平卓馬さんといった
超有名写真家の一枚があるかと思えば、
90歳のアマチュアカメラマンの写真や、
3歳の子供が撮ったショットがあって
プロ・アマ関係なく、
老若男女を問わず、並んでいますが、
どうやってお選びになったんですか?
まずそこから聞かせてください。
大竹 「2007年に私が目にした写真」
という枠で選びました。
もちろん、膨大な数が撮られているので、
全部を見ることなんてできないですけど、
写真集やカメラ雑誌、展覧会、
インターネットのサイトなど、
できる範囲でたくさん見たんです。
── そこから100枚の写真を選ぶ作業は
さぞやたいへんだったと思います。
大竹 枚数もそうですけど、
「同じ目で見る」ことがたいへんでしたね。
── 誰が撮ったかとか、
それがプロなのかアマなのかとか、
広告のために撮ったのか、
なんでもないスナップなのかとか、
そういう情報のいっさいを省いて、
フラットに見るということですね。
大竹 たとえば、カメラ雑誌を開くでしょう。
プロの写真は
前のグラビアページで大きく扱われていて、
アマチュアの投稿写真は
後ろのほうにまとまって載ってるんです。
このページ構成がくせ者で、
後半を開くときはどうしても、
「これはアマチュアの写真だ」という意識で
見てしまうんですね。
コンテストの選者が誰かも気になるし。
もううるさい! 自分で自分がうるさいの(笑)。

それと、もうひとつ、掲載される写真のサイズも、
プロとアマチュアではちがうんですよ。
プロは大きいし、
アマは金賞でもとらない限り小さいです。
それにも惑わされて。
ですから、何百枚と見たものを
300〜400枚くらいにまでしぼり込んでから、
全部同じサイズのコピーを作ったんですよ。
それを束ねたものを毎日持って歩いて、
事あるごとに見てました。
順番もしょっちゅう入れ替えて、
どう変わるかを試したりして。
── そこから3分の1に削ったんですね。
大竹 はい。そして、120点ぐらいになった頃かな、
写真の順番を頭から考えていって、
ページを構成していきました。
第一段階が出来あがるのに
1週間ぐらいかかったかな?
朝起きてすぐにやってました。
目がいっちばんきれいなときにしようと思って。
他のものを見てないから、新鮮でしょ。
前日作ったのを見直すと、
また考えが変わって、入れ替えたりとか、もう大変。
集中力がいるので、
1時間くらいやるとぐったりするんです。
── それで、だいたい決まったんですか?
大竹 いえ、それが、最後までジタバタ、です。
いいと思う写真でも、本の全体の中で見ると
イメージがだぶってしまったり、
入れにくいものが出てしまうんですよね。
最後のしぼり込みは、
「う、あ、う、あ、」って呻(うめ)きながら、
断腸の思いでエイと(笑)。
でも、この組んだり編んだりというのが、
大変だけどいちばん面白いところで。
最初にどんな写真を持ってくるかでも、
写真集の雰囲気がガラッと変わります。

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── 最後、選び終わったところで、
撮影者を問わずに選んだものの、
「あの写真家のあれが入ってない!」
みたいなことは、なかったですか?
大竹 ‥‥正直言うと、ありました。
残念ではあったんですけど、
たとえば、引いた風景写真などは、
どんなによくてもこの本の構成上は
ちょっと入れにくかったんです。
やっぱり視覚的なインパクトの強いものを
優先したかったので。
たとえば、このような。

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── はい、これ、強いです。
そして、分かりやすいですよね。
大竹 一目見てはっとするでしょ。
どうやって撮ったんだろう、
と想像もひろがるし。
── うん、うん。
大竹 色校正の最終段階でも、
なにか、やっぱり違うなあって思って、
差し替えたり、組み替えたものもありましたね。
最初は写真だけ見ているから、
本のデザインが決まって、レイアウトされると、
また見え方が変わってくるんです。
── はい。
大竹 この本、デザイン上にも
実はすごい工夫があるんですよ。
写真が片ページに収まっている場合は、
対向ページにことばがきて、
うまく収まるんですけど、
写真に変化をつけるために、
見開きで見せるページも欲しいと思ったんです。
すると、ことばは
めくった次のページになりますよね。
ここで困ったの。
ことばの対向ページをどうしようかって。
ここに次の写真を入れたら、
前のことばと一緒になって混乱するでしょ。
── たしかに、その心配はありますね。
大竹 そこでデザイナーの寄藤文平さんと、
そこのスタッフの篠塚基伸さんが、
ひねり出してくださったアイデアがこれ。
なにも載せずに、ただ色を敷いたんですよ。
出来あがってしまえば、なんてことないけど、
すごい発想。
このカラーページがくることで、
写真の印象がかなり左右されるので、
最後にちょっと構成を変えました。

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大竹 もうひとつ、デザインで感動したことがあるんです。
文章を囲っているこの枠です。
写真と文章を併置させるのが、
当初からのコンセプトだったんですけど、
ふつうそうすると、ことばのほうが重くて、
意味を限定してしまうんですね。
じゃあ、と小さくすると
今度はキャプションのようになってしまう。
ことばと写真の関係ってほんとに難しい。
で、解決法がこの四角い枠です。
よく見るとひとつひとつ形がちがうでしょ。
── そう言われたらそうですね。
大竹 これ、各写真の縦横の比率に合わせて
作っているんですよ。
── なるほど!
大竹 それによって、写真と文章が、
同格に感じられるようになっているんです。
寄藤さんからこのアイデアが出たときは
感動しました。
こんなふうに、この本は
アイデアを形にするのに、
すごく試行錯誤を重ねているんです。
一点一点の写真を「すごい」と思った気持ちを、
どう形に表すか、
飽きさせないように最後まで見てもらうには、
どうしたらいいか、
デザイナーと編集者と私が一丸になって
知恵を出しあった感じです。
最後の最後までジタバタして大変だったけど、
すごく面白い体験でした。
(続きます)
2008-11-04-TUE
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