私がよく聞かれる質問に、こういうものがあります。
「どういうテクノジーがこれから流行りますか?
これからの技術発展の展望は?」
こういった質問は、私は好きではありません。
私は予言者ではありませんから。
仮に、その質問に答えるとしたら、
「今後、もっと、携帯電話の使用が増えるでしょう」
というような、非常に凡庸な答えしかできないわけです。
私は思うのですが、
「将来のテクノロジーのトレンド」というテーマは、
過大評価されすぎているのではないでしょうか。
人がトレンドを語れば語るほど、
さらにそれは評価されていきます。
いまシリコンバレーで話題になっている
教育のソフトウェアであるとか、
ヘルスケアのソフトウェアは、
過大評価されすぎていると私は思います。
SaaS(Software as a Service :
利用者が必要なソフトを必要な分だけ
インターネット経由で呼び出して使うようなサービス)や
企業向けの業務システム、
これも過大評価されすぎています。
ビッグデータ、クラウドコンピューティング
といった言葉をあなたに語る人がいたら、
「だまそうとしているぞ」と察知して
急いで逃げ出したほうがいいと思います。
いま挙げたような流行語のようなものが
どうして危険を知らせるサインなのかというと、
それはポーカーをするときの
ブラフ(はったり)のようなものだからです。
その人は、「自分はすばらしい」、
「ほかにはない事業をやっている」と
ブラフをかましたいのかもしれませんが、
流行語を使いすぎていることは、
じつはまったく差別化できていないことの表れなのです。
「企業向け業務アプリケーション用の
モバイル・プラットホームをつくり、
クラウドにのせ、
ビッグデータを活用しています」
などというようなセールストークをする人がいたら、
その事業はほかと差別化されてないのです。
いくつも似た事業があるような分野で
事業をやってはいけません。
流行りの言葉をつかってしゃべると、
みんなも耳にしたことがありますから
コンセプトをわかってもらいやすいし、
説明がしやすくなる、という一面はあります。
でも、わかってもらいやすい場所にいてはいけないんです。
私は、オンラインペットフード企業の
4番手にはなりたくありません。
薄膜シリコンソーラーパネルメーカーの
10番手にはなりたくないですし、
東京での1万軒目のレストランにもなりたくないのです。
本当に成功している企業というのは、
既存のカテゴリーにはまらない、
事業内容を説明しにくい企業なのです。
ときには、創立者自身も流行の言葉を使って
自分たちのビジネスを説明しますが、
投資家としては、そういった流行語に惑わされず、
「じつは新しいことをやっている」企業なのかどうかを、
注意深く見極めなくてはいけません。
1990代の終わりにGoogleがスタートしたとき、
「また検索エンジンか」
「いまさらもう1つ検索エンジンが必要なのか?」
とみんな思いました。
でも、そのとき、Googleの本質は、
単に検索エンジンであるということではなく、
ページランクの優れたアルゴリズムを持つことや
人ではなくコンピューターが
検索にまつわるさまざまな作業を
自動的に行うようになったことに、
鍵となるイノベーション、大きな転換点があったのです。
もし「検索エンジン」という言葉にとらわれていたら、
Googleが持つ本質的な差別化要因を
きっと見逃していたでしょう。
Facebookに関しても同様のことがいえます。
2004年にFacebookは立ち上がったとき、
それはソーシャル・ネットワーキングの
さきがけとなるサイトだと言われていて、
2015年のいまでも、そのように思われています。
しかし、まず言いたいことは、
FacebookがはじめてのSNSではないのです。
LinkedInというビジネスに特化したSNSを起ち上げた
リード・ホフマンという私の友人は、
1997年に「SocialNet」という会社をつくりました。
Facebookが立ち上がる7年も前に、
「ソーシャルネット」を社名に掲げていたのです。
Facebookが実現した本質的なイノベーションは、
SNSであるということではなく、
「本人が実名を登録して行う」というところでした。
本人が実名でSNSを利用したくなるような工夫に、
本当のブレークスルーがあったのです。
どうしたら実名を登録し、
架空のキャラではなく現実の自分を表現したくなるか、
非常に難しい課題でしたが、
いったん実現できると、とても価値あるものになりました。
都合のいいカテゴリーに分けて考えることは、
ときとして大きな誤解を生むものです。
それよりも、特異なもの、
唯一無二のものを見つけることが重要だと思います。
(つづきます)