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第7回 上を向いて歩こう。


at Tokyo
もうすぐ日が暮れそうな夕方。
雲がきれいだなぁ〜と思っていたら、
その時に、外灯に明かりが灯った。
偶然が生み出した、美しい瞬間でした。
(クリックすると拡大します)


前回は、それこそ
「失敗をしましょう」
という話でしたが、
そうはいっても、やはり失敗ばかりだと
せっかくの楽しいことが、
楽しくなくなってしまうこともあります。

そこで今回は、
そんな時は一気に
「上を向いてみましょう」
というお話です。

人間の目は、
真正面のものを見るように配置されていますから、
皆さんも実は意外と、
上を見ないで生活しているものです。

例えばオフィスにおいても、
ちょっと仕事が煮詰まって、
あ〜〜ぁと天井を見上げてみたら
気が付いていなかったシミなどを見つけたりして、
またそのシミのかたちで、いろんなものを想像したりと、
その瞬間がちょっとした気分転換になったというような
経験があるのではないでしょうか。
そんな風に、いつの日の、どのような場合においても
意外と目先を変えただけで、
新しい発想だったり、アイデアが生まれるものです。
空には光があるわけですから
それは「光を見るために、空を撮る。」
の回でも書いたように、
特に“写真を撮る”ということにおいては、
何よりの好都合なわけです。
だからこそ、「見上げる」ということは、
時として、その物理的なことだけではなくて、
精神的にも「目先を変える」ということに
つながっていくのではないでしょうか。
要は、一番手っ取り早い気分転換と思って下さい。
とはいえ、ここから始まるいろんなことは
実は写真にとって、とても重要な“気持ちよさ”だったり、
“新しさ”だったりを含んでいるので、
あんがい侮れません。

25人が撮った100枚の原宿。
それをいちどに見てみたら‥‥!


ぼくは数年前に、あるFMラジオの番組で
それこそ「上を向いて歩こう」という
イベントをやったことがあります。
それは、毎週土曜日にオンエアされるその番組に、
ぼくが1ヶ月間、ゲストとしてインタビューを受けて、
最終週に、視聴者の皆さんと一緒に
何かをやるということで始まりました。
番組内で参加の募集を呼びかけたところ、
およそ1000人以上の応募があって、
その中から25名が、その経験を問わず
抽選によって選ばれました。
当然その中には、
カメラを触ったこともないという人も何人かいました。
では、具体的に何をやったかと言いますと、
ある原宿のカフェに集合して、
参加者と一緒になって、写真を撮ったのです。
まず最初に、ぼくは25台のデジカメを用意してもらって、
「とにかく、上を向いて、
 あるいは上を意識して写真を撮ってきて下さい。
 そしてもし出来ることだったら、
 そこに少しだけ光を意識してみて下さい」
と、簡単な説明をして、
およそ2時間ほど、彼らに原宿の街を散歩しながら
各自で写真を撮ってきてもらいました。
彼らが戻ってきたら、
各々4枚ずつほど写真を選んで、
プロジェクターを使って、
スライドショーをやることにしていました。
しかし、数人の参加者は
「何をどう撮っていいのかわからない」と
途中で帰ってきてしまいました。
その時ぼくは、
「とにかく、何でもいいから
 目の前にあるものを撮ってみて下さい。
 特に好きなものを見たりするだけで、
 少しは元気が出るはずだから、
 そしてきっとその感じは、
 上を向いていると思いますよ。
 何でもいいのですよ」
と送り出しました。

そして、全員が撮影を終えて帰ってきました。
その後、それはまるで個人面談のように
参加者と一緒になって、写真を選びました。
そんなセレクトも終わって、
部屋を暗くして
いよいよスライドショーの始まりです。
BGMは、ぼくが原宿に
よく遊びに来ていた頃に流行っていた
キャロル・キングの「タペストリー」。
暗がりの中で、先程までみんなが見てきた光景が
次から次へと浮かび上がっていきます。

そして、そのスライドショーが終わって、
部屋に明かりが灯ると、
一瞬の沈黙の後に、会場内に大きな拍手が起きました。
それは、もちろんぼくに対してだけのものではなくて、
おそらくその写真群に、
そしてそこに参加した全ての人たちに対して
自然とわき起こったものなのではないかと思います。
とにかく、それはおよそ
数分の出来事ではあったのですが、
ぼくもその予想以上の結果と、
その何とも清い格好良さに、驚きました。
しかもその後、その番組のパーソナリティーの人が
みんなに感想を聞いたのですが、
そのひとりひとりが、


「今まで写真を撮るということは、
 どこかで特別なことだと思っていましたが、
 今回参加して、それはとても
 自然なことなのだと思いました。
 そしてそれが、こうやって皆さんと一緒になって
 このような素敵なものが創れたことに
 今、とても感動しています」


「私は、地方から来ましたので、原宿は初めてです。
 写真を撮りに出かけるまでは、
 すごく都会だと思っていたのですが、
 上を見ると、木もたくさんあって
 しかもこんなに近所に、
 大きな森があることに驚きました」


「もう何を撮っていいのか
 わからなくなったのですが、
 “好きなものを撮ればいいんだよ”
 と言ってもらって
 目の前にあるものを見ていたら、
 本当に気持ちまで、
 空を見上げているような気分になれました」


などなどといった、決して社交辞令ではない、
本当に感じたことを、丁寧に話してくれました。
なかには、自分が参加したことに対して感動したのか
感極まって、泣いている人さえいました。

ぼくはその時に、
こうやって、少しだけ目先を変えるだけで
こんなにも新しく、
しかも誰にとっても本当のことが
生まれるのだなぁ、と思ったわけです。
そして結果的には、ぼくもそのことに影響を受けて
「今日の空」というコンテンツをスタートさせました。
もちろん、その時参加した25人の人たちは
今でも楽しく写真をやっているようです。
だから余計にその時のことは、
ほんのちょっと何かが変わるだけで、
何かが大きく変わることの証明として、
今でも記憶に残っています。
本当に、全てがいい写真でした。

とにかく
「上手く行かないなぁ〜」
「つまんないなぁ〜」
と感じたときは、
まずは、その目先を変えてみて下さい。
そしてとりあえず、光のある方向でもある
「上を向いてみましょう」。
するとそこには、必ず新しい
本当のことがあるはずです。




外にでて、写真を撮るときには、
光の方向を向いてみよう。
上を向いてみよう。
いつもの視点と、ほんのちょっと変えるだけで、
何かが大きく変わるかもしれないから。


次回は、もう少し具体的に
「アングルを意識しながら、撮ってみよう」
というお話です。お楽しみに。


at Paris
ある晴れた日の午後。
結構日も傾いてきたなぁ〜と空を見上げると
天使の像がいつもよりもいっそう黄金色に輝いていた。
するとそこへ一羽の鳥が
その天使と話をするように近づいてきた。
これもまた、上を見上げて見つけた偶然の瞬間。
(クリックすると拡大します)


2006-01-27FRI
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