その7 古いカメラと、あたらしいカメラ。

 
Nikon F + 180mmf2.8 / Film: ILFORD XP2

1990年ノルウェーにて、
スタルヘイムの滝という大きな滝を撮影したもの。
ニコンの180ミリというのは、
ふつうは人物撮影などで多く使用されるレンズですが、
実は、山などの風景写真にも適しています。
望遠レンズにもかかわらず、とても解像力が高く、
このような細かい水しぶきもとてもよく写っています。

 
  ライカの歴史に並行して、
「ニコンF」を中心として始まった、一眼レフの歴史。
そこから、世界中のカメラの多くが、
一眼レフに変わっていきました。
1956年に発表された「ニコンF」ですが、
じつはぼくは今でも使っています。
学生時代に中古で買ったものです。

このカメラはいわゆる機械式フイルムカメラ。
中でも、ぼくのアイレベルファインダータイプは、
露出計も自動巻き上げも入っていないモデルです。
それでも機械式カメラの素晴らしいなぁと思うところは、
いまでもメンテナンスが効くということです。
しかも日本には素晴らしい職人さんがいるので、
こんな古いカメラでも、
何度もメンテナンスを繰り返して来ました。
そのおかげで、もしかしたら、
買ったときよりも、今のほうが、
カメラそのものの状態も
かえって、よくなっているような気もします。

 

【アイレベルファインダー】
一般的な一眼レフの、頭のように出ぱった部分に
ペンタプリズムガラスを使用して
光学的に左右正像となるように構成されたファインダー。
最近のものは、そのファインダー内に
露出情報が示されますが、
ぼくの「ニコンF」のファインダーには
露出計も内蔵されていないものです。

 
  機械というのは何でもそうですが、
車でも自転車でも、油が切れたまま使い続けたら、
そのことで、機械そのものを
壊してしまうこともありますし、
摩耗する部分が出たり、変に癖が付くこともあります。
機械式の腕時計もそうですよね。
定期的にメンテナンスをすることによって、
どんどんスムーズに動いてゆく。
車にしても、同じ車種でもしっかり整備されているものと、
そうでないものでは、まるで別の車のような走りをします。
カメラも同じなんです。

 
Nikon F + 35mmf1.4 / Film: Kodak Tri-X

2008年上高地にて。
この写真は、上高地の明神池の近くで撮影したものです。
その日は朝から霧が出ていて、
その霧はしばらく晴れませんでしたが、
ひと度霧が晴れると、そこは日本庭園のような光景。
そして、その水面に映り込むすがたは、
暗室で引き伸ばしてみると、
肉眼で見えていた以上によく写っていて、
しかも、その時の印象がその中にはしっかりとありました。

 
  残念ながら、デジタルになってしまうと、
そういうメンテナンスができません。
ものによっては、また故障部分によっては、
まるごと「ユニット交換」になってしまう。
それでも、またライカの話になりますが、
先日、デジタルカメラである
「M8」に刻印を入れてもらうため
ドイツ本社に持っていってもらったところ、
操作ダイヤルのカチャッカチャッていうクリック感などまで
きっちりメンテナンスをしてくれたのに驚きました。
まだまだ職人さん健在です。

では、古いカメラばかりがいいのか、
そういうメーカーだけがいいメーカーなのかというと、
そういうわけではありません。
こと動画(ムービー)の世界では、
最新のデジタルカメラが、
そうとうレベルが上がっていて、
キヤノンの一眼レフカメラ
「EOS 5D」や「EOS 7D」などの動画映像を見ると、
ぼくもちょっと本気で撮ってみようかなと
いう気になります。
こんなに気軽なカメラなのに、
映画が撮れるくらいのクオリティを持っている。
じっさい最近の若い映画監督のなかには、
そういったカメラで撮影をしている人もいて、
そこにはやっぱり未来を感じます。

キヤノンはプロ向けに「シネマトグラフィ」という
ラインも作っていて、
「C」っていうマークを付けたカメラまで出しています。
それはハリウッドで使われるような機材ですけれど、
その遺伝子が、一般の家庭にまで
おりてきているというのがすごい。
僕たち一般ユーザーが「EOS KISS X7」や「7D」で
動画を撮るっていうのは、コストパフォーマンスも高いし、
クオリティも高いし、周りの編集ソフトなんかにしても、
きちんと対応している。
この感じは、それはそれでとてもいいことだと思うんです。

デンマークの映画運動に「ドグマ95(Dogme 95)」
というものがありました。
カメラは手持ち、
撮影はスタジオ禁止でロケーションのみ、
効果音はのせない、照明も禁止、
回想シーンもだめで、
いまそこで起きていることのみを撮り、
最終的には監督名もクレジットされない、
そんなふうに映画を撮る運動です。
また、ジム・ジャームッシュのデビュー作である
『パーマネント・バケーション(Permanent Vacation)』を
思い返してみても、
カメラ1台、監督と役者が一対一。
3人で作った永遠に独白の映画です。
考えてみれば、わが国の新藤兼人監督の名作『裸の島』
にしても、せりふがひとつもない少人数の映画です。

デジタル一眼レフカメラで動画を撮るということは、
そういうことが、
ぼくらにも可能になるということでもあります。
単焦点のレンズのみ、ズームは使わない。
独白だけでも、映画はつくることができる。
そう思うと、そこにぼくはちょっとわくわくしたりします。
子どものいる家庭では、そういう機材があることによって、
記録のためにとっている、家族のビデオだって、
あたらしいものが生まれる可能性があるわけですから。

 
D800E + 200mmf2.0

青森・白神山地にて。
この写真は、この夏撮影したものです。
3630万画素を擁する「D800E」と
最新のナノクリスタルコートでの
「200ミリ」の組み合わせでは
水面のプリズム現象のようなキラキラが、
今までとは確実に異なる写りをします。
実は、この写真が撮れるまでは、
ぼくも少し懐疑的なところもあったのですが、
これを機に、今はちょっと積極的になっています。

 
  いっぽう、「ニコンF」のニコンのあたらしい技術も
やはり今でもすごい。
あたらしいデジタル一眼レフカメラの
「D800E」に、
ナノクリスタルコート」のレンズを
組み合わせると、
今までだったら撮れなかったような写真が撮れる。
どういうことかっていうと、
もしかしたら、これはぼくだけかもしれませんが、
カメラを構えて撮る時に
「だいたいこれくらいの大きさ」というように、
頭の中になんとなくの大きさの写真があって、
そのイメージと共に、写真を撮っていたりするのですが、
その大きさにも変化が出てきます。

 

【ナノクリスタルコート】
このネーミングからすると、
高密度な微粒子のコーティングなのかと思っていましたが、
むしろ、微粒子になることによって、
コーティングの粒子の中に空間が生まれ、
透水性の高い舗装道路のように
むしろ、屈折率の小さい環境を実現するすぐれもの。

 
  同じデジタル一眼レフカメラでも、
「D800E」以前に、
「D3」というカメラを使って、
横幅1メートル50センチまで伸ばした
プリントをしたことがありました。
その解像度にも驚いたのですが、
「D800E」だと、
少なくとも倍は引き伸ばせるのでは。
つまり横幅が3メートルのプリントにも
じゅうぶん耐えうる写真が撮れるということなんです。
特に「ナノクリスタルコート」の
レンズとの組み合わせでは、
おそらく35ミリ一眼レフカメラで
撮影したとは思えないような描写になると思います。

いま、個人的に撮影を行なっているもののひとつに
白神山地の風景があるのですが、
それも近いうちに、3メートルぐらいの幅に
プリントしてみたいと思っています。

今のカメラはどんどん多機能になって
その分だけ混迷しているところもたくさんあります。
一時はこの先どうなってしまうのだろう、
という不安のようなものもありましたが、
考えようによっては、
まだまだ、今までの写真の歴史の続きのような
楽しい一歩一歩があるように思えて
ちょっとうれしくなります。

そんな今という時代の中で、
「写真ってなんなのだろう」などということを
たのしく考えてみたいと思っています。
2013-10-17-THU
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