今回は、久しぶりに“写真を観る編”です。
今年生誕100周年を迎える植田正治さんのお話をします。
植田正治さんは、1913年鳥取に生まれました。
生涯、アマチュアリズムをつらぬきながら
鳥取で写真家としての活動を続けられた
日本を代表する写真家です。
植田正治さんと言えば、
なんといっても鳥取砂丘を舞台とした
「砂丘シリーズ」
が有名です。
それはまさに、鳥取砂丘において、奥様やご家族、
そして友人たちを撮影したシリーズなのですが、
そのすべてが、まるで演劇のワンシーンのように
鳥取砂丘を“舞台”に、楽しく演出された写真たち。
世界的にも類を見ないほどの究極の記念写真であり、
誰もがまねしたくなるような
家族写真でもあるとぼくは思っています。
それまでの日本の写真というのは、
その主流は、どちらかというと
ドキュメンタリー志向が強く、
強いリアリズムを感じさせるものが中心でした。
それに対して、植田正治さんの写真は、
まるで夢の世界、
ひとつのファンタジーのようにも見えます。
そういった意味でも、
今、ぼくらが楽しんでいる写真の
原点と言ってもいいのかもしれません。
ぼくも植田正治さんの写真が
学生時代から大好きでした。
ぼくが通っていた大阪芸術大学の写真学科で
同級生のみんなと鳥取砂丘まで出かけて、
“植田正治ごっこ”のようなことをやり、
楽しく写真を撮った懐かしい思い出もあります。
植田正治さんの写真の中は、
とても魅力的な楽しさで満ち溢れています。
それでいて、その1枚1枚の写真は
けっしていい加減に撮られたり、
安易にプリントされたものではありません。
“夢”とか“ファンタジー”という言葉は、
非現実のことを指す場合が多かったりしますが、
こと植田正治さんの写真の中にある
“夢”や“ファンタジー”は、
「それらのすべては日常の中にある。」
とでも話しているかのようで、
ただの絵空事には見えないから不思議です。
そこに写し出されている架空の世界を、
植田さんは、とても意識的に、
もっともっと本当の世界に導いていく。
そんな大きな思いに満ち溢れているように感じます。
そんな独特の“日常感”が、
多くの人々を惹きつけている
植田正治さんの写真の最大の魅力だと思います。
ぼくも、今でも時々植田さんの写真集の
ページをめくる度に、
「この世界もまだまだ捨てたものではない」
などと感じます。
すべての写真が明らかに日常の延長線上で
撮られているゆえに、
いつまで経っても印象が古くならず、
色あせることがありません。
むしろ、ようやく時代が追いついたようなところもあって、
今こそ、植田正治さんの写真の中にある日常が
とても大切なものとして見える時なのかもしれません。
現在、鳥取の植田正治美術館では、
写真展「うえだ好き」と題して、
各界のクリエーター50人の写真展を開催しています。
その写真展にぼくも参加させてもらっています。
http://www.houki-town.jp/p/ueda100/1/25/
そして、東京駅にある東京ステーションギャラリーでも
写真展「植田正治のつくりかた」も開催中です。
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/now.html
この機会に、ぜひ一度植田正治さんの
写真を観てみて下さい。
楽しい写真が、たくさん見つけられるはずです。
──────────────────────────
写真展「うえだ好き」に寄せて
ー植田正治さんのことー
ぼくが、大阪芸術大学の写真学科に入学して間もなくの頃、
授業の中で、植田正治さんの特別講義がありました。
その時に初めて耳にした
「オリジナル・プリント」という言葉。
それまで写真というのは、ネガがあれば
何枚でも複製出来るのだから、
そんな一枚の写真に、オリジナリティーであるとか、
ましてや芸術性など存在すると
考えたこともなかったのですが、
その時の植田正治さんのお話で、
ぼくは写真の新しい可能性のようなものを感じました。
そして今では、考えてみたらぼくは、
オリジナルプリントという存在と共に写真を続けています。
今回出展する写真は、パリにいた頃に飼っていた
“CHANEL”という名の猫の写真。
たった一枚の猫の写真ですが、
その中には、いろいろな思い出も
一緒にそこにあるように感じています。
そして、そんなオリジナル・プリントという
言葉を教えてくれた植田正治さんのプリントにも、
たくさんの思いがつまっているように、
いつの日も感じてきました。
そして、それはきっとこれからもずっと。
菅原一剛
──────────────────────────
おすすめの写真集
「植田正治写真集:吹き抜ける風」
2006年に出版された、植田正治さんの集大成的な写真集。
その内容もさることながら、とにかく印刷が美しい写真集です。
「植田正治のつくりかた」
現在開催中の写真展「植田正治のつくりかた」に合わせて
出版された最も新しい写真集。
コンタクトプリントなど、
植田正治さんの写真の魅力を伝える
とても興味深い本でもあります。
「植田正治の世界」
こちらも2007年に出版された新しい写真集ですが、
簡単に植田正治さんのすべての作品を知ることができる
解説本のような写真集です。
2013-11-07-THU