メイド・イン・ジャパンの挑戦。 シグマ・山木社長を会津工場に訪ねる編
菅原 「ほぼ日」のみなさんたちとも話してて、
彼らが実際、自分たちで写真を撮るとき
「これがいいんじゃない」
「あれがいいんなじゃない」って、
ぼくが勧めたり、
みんなが使っているものに、
シグマの製品がとても多いんです。
山木 ありがとうございます。
菅原 個人的な思いとしても、ぼくはシグマさんが好きで、
昔から使わせていただいてます。
デジタルの時代になってから、
シグマさんは、突出して、
「写真寄り」のカメラを作ろうとしている、
きょうはその現場をぜひ見せていただきたいと
思って、うかがいました。
山木 たしかに弊社のカメラは「写真寄り」ですよね。
菅原 ウェブサイトを見てても、
ちゃんと工場の写真が入っていて、
今、ちゃんとものを作ってるんだっていう会社が、
この日本にあるんだっていうことが、
とても嬉しくて。
「ほぼ日」は、一般の方、カメラ好きではない
一般の読者の方も多かったりするもんですから、
こういう会津みたいな所で、
メイド・イン・ジャパンという形で
モノを作ってるんだっていうことも、
伝えられたらなぁって。
山木 恐れ入ります。ありがとうございます。
菅原 まずお聞きしたかったのは
DP1M、2M、3Mというラインナップです。
ズームレンズが普通になっている時代に
あえて単焦点のカメラを出していますよね。
ズームレンズより単焦点のほうがいいってことさえも、
忘れてしまっているくらいな時代だと思うんです。
山木 最初のDP1を出してから、
やっぱり、マーケットからは、
ズームレンズをという声はたくさん聞こえてきました。
特に、欧米の一般的な販売店は、
ズームのほうが強いんですよ。
単焦点って言うと、「トイカメラなの?」みたいな
捉え方をさえる時期も一時期はありました。
そんな欧米でも最近は、わりと、
単焦点=クオリティみたいな感じが
出てきたんですけれども。
菅原 へぇ!
山木 逆に、日本、韓国、台湾のほうが、
単焦点を出したら、「あ、クオリティなんだね」って、
パッとわかってくれるようなムードがあります。
菅原 そうですよね。その中で、
このDPシリーズはいいなと思ったんです。
最初に28ミリが出て、
その後、標準になったらいいのになぁと思ったら、
45ミリが出て、もう1個、テレ(望遠)側があったら
いいのになぁと思ったら、ちゃんとそれが出て。
── 京都で「二葉葵展」っていう、
京都の若い職人たちが集まって、
自分たちの技術を見てもらおうっていう展示を、
上賀茂神社でやったんですね。
縁あって知り合ったものですから、
DP1M、2M、3Mを、
1台ずつ持ってレポートをした
んです。
菅原 武井さん、西本さんと3人で。
DP三兄弟でしたね(笑)。
山木 ありがとうございます(笑)。
── 螺鈿であるとか、木工であるとか、
伝統系の新しい表現と自分たちの技術を
ちゃんと見てほしいっていう展示だったので、
カメラは寄る必要もあるし、
引く必要もあるし、
「ズームが1個あればいいじゃないか」
っていうところじゃない部分で、
そういうカメラの選択をしたんです。
それをページで見ていた糸井重里からメールが来て、
「カメラ、何?」って。
山木 本当ですか! うれしいですね。
── 「絞り切ったオレンジジュースみたいだ」って。
山木 恐れ入ります。
── 伝統工芸って、日本家屋の薄暗闇の中で見るものなので、
その展示も、神社のある建物で、
照明を落として、外光が仄かに入るなかで観るんですよ。
そうすると、螺鈿の輝きとか、
金工(きんこう)の鈍い光とかが、
ちゃんと撮れたんです。
そこら辺が、やっぱり、すごかったなぁと。
菅原 45ミリっていうと、
いわゆる標準レンズって言われるように、
ぼくの感覚では、パッと見た時の、
実際の見た目よりはちょっとワイドではあるものの、
いわゆる「印象」が写るレンズじゃないですか。
山木 はい。
菅原 一方、28ミリっていうのは、
見るというよりも、受け入れてるっていうか。
山木 おっしゃる通りだと思います。
菅原 75ミリくらいになると、
しっかりぐっと見た時の、
視点がはっきりするレンズだったりするんです。
で、その3つは、バラバラになってるほうが、
絶対、写真はよくなる。
山木 そうだと思うんです。
そういった捉え方で、あえて言うと、
DP1.5くらい、35ミリ辺りがあると、
もうちょっと便利かなって思う時もあるんです。
菅原 そうですね。
山木 たしかにワイドでその時の「場」みたいなのを
そのまま撮りたいっていう場合もあるし。
その被写体との関係をきちっと作りたい時は、
やっぱり標準レンズの45ミリだし、
ちょっと切り取りたいなっていえば、
中望遠の75ミリっていう感じになって。
菅原 そうですよね。
山木 じつは私自身、写真が下手なんです。
若い頃、学生の頃は、スポーツのほうが好きで、
あんまり写真を撮ってなかったんですよ。
菅原 そうでしたか(笑)。
山木 それで、あとになってから写真を撮り始めたんですけど、
やっぱり下手なんです。
そういう身には、単焦点のほうがやりやすい。
菅原 視点が乗っからないんですよね、ズームだと。
山木 ズームだと、何を撮ってもつまらないなあ、
と思っていたあるとき、
単焦点だけを持って外に出たんです。
28ミリのF1.8っていう単焦点レンズを
ニコンのF3かな、に付けて行ったら、
「なかなか絵にならないぞ」なんて思いつつ
いろいろ工夫していたら、
「あれ?」っと思うような写真が撮れるようになって。
そこからわかってきたのは、
画角が決まると、
自分のものの見方が決まるということなんです。
「こういう写真を撮ろう」っていう気持ちになる。
そうなると、わりと、スッスッと決まるんですね。
菅原 そう思います。
ぼくも写真、うまくないんですよ。
一同 いやいや!
菅原 (笑)いや、本当に、うまくないと思っています。
だけど、視点が乗っけられるようになったんですよ。
「何を見てるか」っていうことですね。
それは、やっぱり、ズームレンズだと、絶対にできない。
乗っからないんですよ。
「いい写真」って、
きれいに切り取られた写真も、
一方であると思うんですけど、
ぼくは、それはできない。
そうじゃなくて、何を見たかが
はっきりわかってる写真を
「いい写真」だと思って撮っているんです。
── 菅原さんが、ぼくらの写真を、
多少なりとも褒めてくださる時は、そうですよね。
菅原 そうです。
何を撮ったか、何が撮りたかったか、
ちゃんとわかる写真。


(次週につづきます)
2013-11-21-THU
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