菅原 |
ぼく、大学の先生が、宮川一夫さんって、
1950年代に黒澤明監督の
『羅生門』を撮った先生だったんです。
途中で、京マチ子さんが森の中を、
ワァーッて逃げ回ってるシーンがあります。
そこに、光がギラギラギラした、
森の中に自分がいるかのような描写があるんです。
それを、授業で先生が、どうやって撮ったのか、
全部説明してくれたことがあるんですね。
そしてぼくが仕事をするようになって、
1995年に、映画の撮影監督を、
初めて担当することになりました。
先生が『羅生門』を撮ったのは京都。
ぼくの撮影地は沖縄。
沖縄のほうが光が強い。
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山木 |
ええ、ええ。
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菅原 |
だったら、木漏れ日を、
先生が撮影した時のようにやってみたら、
すごくギラギラしたの撮れるんじゃないかなと思って、
教わったように撮影してみたのですが、
全然、ギラギラとは写らなかったのです。
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山木 |
へぇ!
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菅原 |
もちろん、ぼくのカメラワークの問題もあると思いますが、
その後、そのことがずっと気になって、
いろいろと研究してみたら、わかったことがいくつかあって。
要は、その40年の間に、レンズとかフイルムとか、
写真や映像を撮る環境が変わりましたよね。
少しずつ、光をより具体的に分析出来るようになって、
そのなかで「眩しい」とか「ギラギラする」と感じるような
光の部分を、ないがしろにしてしまったような気がします。
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山木 |
あぁ、なるほど。
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菅原 |
たとえば、視覚的に空気は見えてないけれど、
「この辺、空気がいいよね」なんて言いながら歩く。
「きれいだな」とか、「いい感じだな」とか思う。
「やっぱり、空気もうまいしさ」って。
そしてそういうものが、少しでも写ったら、
きっとそれは、いい写真ってことだと思うんです。
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山木 |
そうですね。
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菅原 |
しかし、具体的に目にも見えていないわけですから、
ことカメラにいたっては、まったくもって
データだけでは解析できない部分がありますよね。 |
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山木 |
数値的なことをいうと、デジタルって、
ピクセルの配列によって、解像限界が、
もう理論的に決まってるんですね。
あるところまで、ピーッと解像してるんですが、
それ以上に細かくなってくると、
ストーンと切れるんですよ。
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菅原 |
あぁ、たしかに、そうですね。
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山木 |
そこが、フイルムは曖昧なんです。
うちのもデジタルなんで、同じなんですけど、
ただし解像度は、かなり高いんです。
解像度が高ければ高いほど、より自然に
なってくるはずなんですね。
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菅原 |
厚みを感じますよね。
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山木 |
ええ。で、解像度を追うっていうのは、
「こんなに大きくプリントできます」ということよりも、
自然な描写に近づいていくっていうのに貢献すること。
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菅原 |
そう思いますね。一般的なCCDの場合、
特にローパスフィルターが入っていますと、
「眩しい」とか「暖かい」っていう部分もそうですし、
光の中にある、ぼくらが撮りたいと思ってるところが、
全部取られちゃうっていうか、
どこにも記録されてないっていうか。
とにかく別のものを見ているような感じさえします。
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山木 |
ローパスはそうですね。スキッとしてない。
モゴモゴっとしちゃうんですよね。
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菅原 |
ぼくは、ローパスが入ってるだけで、
なんとなく好きになれません。
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山木 |
私もそう思う。だから、最近なくなってきて、
本当、いいんじゃないかなと思いますね。
ただ、こんなコンセプトで、
こんなふうにやりたいと思っても、
時代もかなり厳しくなってきてるんで、
やっぱり、ちゃんとしたものを作らないと売れない。
ぼくも、今後、一生仕事をする中で、
ただ単に安いものをボンと作って売れればいい、
っていう話じゃないから、
納得できるものを作りたいっていう話をいつもしているんです。
それがいまのレンズの
新シリーズへの流れになってるんですよ。 |
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菅原 |
レンズを「アート」「コンテンポラリー」「スポーツ」
というカテゴリーに分けましたよね。
そういう大きなコンセプト変更みたいなことは?
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山木 |
いろんなディスカッションの中で、
旧来のものが「わかりにくい」、
「どれを選んでいいかわかんない」
という声が出ていました。
私は、社長になる前、
いろんな技術部門の部長をやっていたんです。
もちろん、技術っていうのは、常に、
課題を克服していく開発の仕事なので、
矛盾するものをちゃんと解消することが大事です。
とはいえ、コンセプトがはっきりしてないと、
プライオリティを付けられないんですよ。
たとえば、レンズは特に、
古典物理学の世界で生きてるものなので、
画質を重視すると、どうしても大きく重くなっちゃう。
小さく軽くしようとすると、
画質を犠牲にしなきゃいけない。
そこに必要なバランスがあるっていうのは、
技術部長をやってて、すごく感じたんですね。
しかも、技術者にそれを明確に伝えることができれば、
すごくいい仕事をしてくれるんです。
ただ「画質も最高だし、軽くもしなきゃいけないし」
ってやると、できないんですよ、いい仕事が。
すごくいいものをつくるためには、
コンセプトがしっかりしたものを、一気通貫で、
お客様にもどう伝えるかっていうことまで含めて、
商品企画、開発、ものづくり、マーケティング、
全部串刺しでやるべきなんです。
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菅原 |
本当にそうですね。
すごく正しいと思います。
技術者にもわかり、ぼくら消費者にもわかる
コンセプトが「アート」「コンテンポラリー」
「スポーツ」だったんですね。
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山木 |
はい。「コンテンポラリー」だったら、
日々、コンパクトに、いろんなことに使える用途で。
もちろん、画質がいいっていうのは当たり前なんですけど、
「アート」ラインはそこをもっと進めて、
どんどん表現に行っちゃうのをつくろうと。 |
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菅原 |
カタログまで一貫したムードがありますよね。
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山木 |
はい。種明かしばっかりしていますが(笑)、
それはプロダクトデザイナーの岩崎一郎さんに、
ラインナップ刷新の
デザインを依頼したところから始まるんです。
ならば製品のデザインはもちろん、
「グラフィックも重要だ」っていう話になり、
「この人と一緒にやりたい」っていう話が出てきて、
それが佐藤卓さんでした。
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菅原 |
佐藤卓さんなんですか?
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山木 |
そうなんです。
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菅原 |
へぇ!
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山木 |
卓さんに入っていただいて、
いろいろディスカッションしてて、
「もう面倒くさいこと言わずに、工場見よう」
っていうことで、工場に来てくださって、
そこでビシッと方向性が定まりました。
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菅原 |
サイトから、会社案内のムービーの動線から何から、
誰かがすごい整理をされたんじゃないかなと
思っていました。
そこに佐藤卓さんがいたのですね。
コンセプトをつくる山木社長のところに、そういうふうに、
いろんな人が集まって、1本筋が通ったんでしょうね。
誰かが「えいやっ!」と言わないと、
できないことをやってるなぁっていう印象を受けました。
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山木 |
恐れ入ります。 |
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菅原 |
これから、シグマさんは、新しいレンズ、
新しいカメラっていうほうに、
技術を進めていくっていう感じですか?
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山木 |
そうですね。やっぱり、写真のところですね。
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菅原 |
フォビオンもフォビオンで、進化し続けていくと?
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山木 |
そうですね。いろいろ開発をやってます。
ただ、イメージセンサーはどうしても時間がかかります。
当社の場合は、
新しいジェネレーションのセンサーを作ろうとすると、
ピクセル・アーキテクチャから、
2年から3年くらいかかります。
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菅原 |
シグマさんの場合は、ソフトウェアもありますものね。
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山木 |
やることが多くてね、儲からないですよね。
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菅原 |
1社だけで、全部やってるんですもんね。
それだけでも、本当にすごいことだと思います。
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山木 |
いつまで続くかなっていう感じで。
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菅原 |
いやいや、続けてくださいね(笑)。
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山木 |
やせ我慢です。
センサーの開発はお金がかかるし、
カメラはなかなかむずかしいですよね。
だから、早いうちにね、カメラも軌道に乗せないと、
大変なんですよ(笑)。 |
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菅原 |
ぼくは、勝手なことで申し訳ないんですけど、
最近ではカメラもそうですけれど、
全体的にレンズの描写にしても、
どこか少し世界をクールに捉えるっていう方向に
向かっているようなところがあると思うのです。
もちろん、そういうカッコよさもあると思うんですが、
そんな中で、シグマさんのカメラとレンズは、
その描写が、深みがあるというか、
その中にあたたかさのようなものを感じます。
やっぱり、写真好きで撮ってる人っていうのは、
きっと、あたたかみがほしいと思うんです。
いい写真って、世界があたたかく見える。
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山木 |
たしかに、湿度があるというか、
しっとりした感じがありますよね。
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菅原 |
そういう世界が、やっぱり、ある意味、写真的とも言える。
写真には160年、170年の歴史がありますけど、
写真的な写真って、ずっとそこが、
変わらずあるような気がするんですよ。
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山木 |
やっぱり、個性は重要ですね。
今度、じっくりお話を伺わせていただいて、
どの辺に個性出しをしていけばいいのか、
あらためて話させてください。
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菅原 |
ぼくでよければ、ぜひ!
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山木 |
今日は、遠い所をお越しいただきまして、
ありがとうございました。
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菅原 |
こちらこそ、ありがとうございました。
また、よろしくお願いします。
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山木 |
こちらこそ、どうぞ、よろしくお願いします。 |
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対談を終えて
あまりにも、おもしろかったので、
5回に分けて、様々な角度から。
いかがでしたでしょうか?
本当に、山木和人社長自ら
工場のすべてをご案内いただき、
そして、自らの言葉でお話をしてくれました。
しかもその話のすべてが、
自身の経験の中から生まれていました。
そんな「メイド・イン・ジャパン」な
写真に対する真摯な姿勢も含めて、
まだまだ、この先おもしろくなって行くような気がして、
とてもうれしかった対談となりました。
そんな、これからのシグマのこと、
ますます楽しみですね。
そして、こんなカメラメーカーが会津の地にあることも、
なんだかちょっと誇らしげな気持ちになりました。
山木社長、そしてシグマの社員の皆さん、
楽しい工場見学をありがとうございました。 |