露出の話に入る前に、ちょっと寄り道を。
「写ルンです」、菅原さんはどんなふうに
使っているんですか、という質問をいただいたので、
それにお答えしようと思います。
「写ルンです」、いいところばっかりのように
書いていますが、じつは気に入らないところもあります。
それは、デザイン。かたちそのものは構わないのですが、
レンズのまわりをタテにぐるっと囲っている、
どのモデルも、ちょっとファンシーで、
中にはグリーンとイエロー、
ピンクの模様のシールが貼ってあったりと、
ちょっと目立ちすぎるなあと感じているのです。
(個人的には、黒や銀色のカメラの方が好きです。)
外国では異なるデザインのものがあるようですが、
日本では手に入らないので、
ぼくは、オリジナルのシールをつくって貼っています。
ぼくが部長をしている、東京観光写真倶楽部では、
毎年、入部記念グッズを作っているのですが、
今年は、だったらと、
そのシールとオリジナルストラップを作りました。
これを貼ると、ほら、あまり目立たないでしょう?
そして、こんな感じで、持ち歩いています。
先日、「ほぼ日」のこのコンテンツの担当である武井さんと
プラハ~ヘルシンキの撮影旅行に行ったのですが、
その旅にもこの「写ルンです」を持って行きました。
ぼくはすべての写真を35ミリフィルムで撮ろう! と、
ライカM3とⅢfに白黒フィルムを入れて、
カラーフィルムは、「写ルンです」のみ。
デジタルカメラは持たず(でもiPhoneがあります)、
基本的にアナログな旅をしてきました。
空港のセキュリティチェックのX線で
フイルムが感光してしまうことが心配なので
(大丈夫! と、係官は言うのですが、
ぼくはどうにも信じていないのです)、
行きはハンドチェックをお願いし、
帰りは(きっとヨーロッパの空港のほうが厳しいだろうと)
現地で現像をしてきましたよ。
フィンランド ヘルシンキ駅にて
「写ルンです」にて撮影
この写真は、ヘルシンキで撮影したものです。
北欧の夏、傾きながらもなかなか沈まない太陽が、
磨りガラスを通して、
駅舎の中にやわらかく差し込んでいました。
その光と、人々の影があまりにきれいだったので、
武井さんと足を止めて撮影したなかからの1枚です。
ふと気付くと1時間くらい撮りつづけていたのですが、
その間、ふしぎなくらい、撮影をしているぼくらのことを
気にする人はいませんでした。
たぶん、もっと大きなカメラを持っていたら、
目立っていたんだと思いますが、
「写ルンです」を手にしていたことで、
あまり怪しく思われなかったのかもしれないですね。
プラハからヘルシンキの旅のことは、
写真にまつわる楽しいエピソードがたくさんありますから、
次回からも紹介していこうと思います。
さて、今回は、「露出」の話です。
「今日の空」より ヘルシンキにて
「写ルンです」にて撮影
前回は「いろいろ、できない」中から
学べることがある、というお話をしました。
そして最後に、晴れた日にたくさんの光の中で
「写ルンです」で、写真を撮ってみてください、
とおすすめしましたが、いかがだったでしょうか。
幸運にも、晴天の青空の下で撮影することが出来た方は、
予想以上にきれいに写って
驚いているのではないでしょうか。
一方、あいにくの曇り空の下で撮影せざる得なかった方は、
なんとなくぼんやりしたその写りに、
少しだけがっかりしているかもしれませんね。
今日は、その結果の違い、
「写る」という仕組みの基本のひとつでもある
“露出”についてお話しします。
‥‥と言うとそれだけでちょっと
難しいと感じるかもしれませんが、
カメラの構造を知らなければということではありません。
自身が見た、「写したい」と感じたものが、
きちんと、その印象がすこしでも「写る」ために、
“光の量”としての“露出”を少し考えてみましょう、
というお話です。
ちょっと専門的な話になりますが、
一般的な「写ルンです」は、
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ISO 400
絞り f10
シャッタースピード 1/140秒
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
という固定露出になっています。
露出というのは、一言で言うと
「写真を写すために必要な光の量」のこと。
それを、絞りという穴の大きさと、
シャッタースピードという、
光を取り込む速度によって調整します。
「写ルンです」は、
ISO400という、やや高感度のフイルムが、
f10という、比較的小さな穴から光をとりこみます。
1/140秒のシャッタースピードは、やや早め。
なかなか手ブレのしにくい数値です。
これは「晴天の青空の下での撮影に、
ほぼ適した露出」です。
ほぼ、というのは、
雲ひとつない快晴の時には少し光が多く、
かといって、曇ってしまった時には、
少し足りないという感じだからですが、
そうは言っても、なかなかの適正量だと思います。
そして、「写ルンです」が使用している
「ネガフイルム」というフイルムは、
とても広いラティチュード
(像として再現出来る露光範囲のこと)
を持ち合わせているので、
上下1段ほどまではきれいに写ります。
具体的には、シャッタースピード1/140秒の場合、
絞りに置き換えるとf8~16ぐらい。
絞りf10の場合、
シャッタースピードに置き換えると
1/60秒~1/250秒くらいまで、
きれいに写すことができます。
現在のデジタルカメラは、
こういった面倒なことを
ほとんど自動で計算してくれるのですが、
では、すべての写真が思ったように写るかというと、
そうではありませんよね。
その理由はとても簡単で、
「カメラには、あなたが何を感じているのか、
わからない」からです。
それこそ一部のカメラは、
「あなたがどこを見ているのか」
という情報までをも
感知しようと試みているようですが、
それでも、撮影者が画面上のどの部分に対して、
何をどう思って写しているかまではわからない。
カメラにとっての自動は、あくまでも機械的な判断です。
そのため、あなたの印象とは違って、
思ったよりも明るく写ってしまったり、
予想以上に暗く写ってしまったりすることがあるのです。
最近のデジタルカメラの多くは、
撮影時に、シャッターを半押しすると、
シャッタースピードがいくつで、
絞りがいくつといった情報が表示されるはずです。
その前情報を見ながら、露出補正などの機能を使って、
最初に露出をコントロールし、
カメラという道具をよりスムーズに使うことが
出来るようになってくると、
「思ったよりも」は、ぐっと減ってくると思います。
やがて自身とカメラという道具が
一体感を持ったかのようなふしぎな感覚がうまれれば、
「何をどう写すか」ということに集中出来ますし、
結果として、前回お話したような「写る」という瞬間が、
たくさん増えていくことにつながっていくはずです。
ちょっと車の運転に似ているところが
あるかもしれませんね。
とはいうものの、いきなり
“露出”を覚えてみようといっても、
それはそれで、それなりの
知識と経験が必要となってきます。
そこで、ふたたび「写ルンです」の登場です。
いろんな明るさの条件の中で、
しかも、自身が何となく好きだなあと思えるような
光の状態を撮ってみてください。
その時になんとなくでもいいですから、
「ISO400」
「絞りf10」
「シャッタースピード1/140秒」
であることを、ぼんやりと意識してください。
そして、ちょっと面倒ですが、忘れないように、
撮影した1枚1枚に対して、
「空を見上げて」とか、
「窓辺の光の中で」とか、
「木かげの下で」とか、などなど
一言でもかまわないので、
ちょっとしたメモを残しておいてください。
現像が上がってきたら、
そのメモを見ながら、写真を見てみます。
すると、なんとなくではあるとは思いますが、
撮影時における適性露出というものについて、
理解することが出来るようになると思うのです。
プラハにて、武井さんと「写ルンです」にて撮影。
普段はあまり撮らないような写真ですが、
「写ルンです」だと、ついつい撮れる写真がたくさんあります。
「写ルンです」による写りにも言えることですが、
時として、1枚の写真が、
視覚による印象よりも、より印象的に感じるのは、
前回お話したように、画角を含めて、
「写っていない」からなのかもしれません。
印象にとって重要なのは、
けっしてそこに写し出された情報量ではなく、
“あたたかい”とか、
“あかるい”とか、
“まぶしい”といったこと。
「写ルンです」には、それが写る。
人の目は、その機能を通じて感情というものを生みます。
カメラを構える人は、その感情の続きとして
シャッターを切る。
ですので、まずはそれを使用する側が、
なにを写したいのか、
しっかりとした意志を持たないと、
せっかくの機能も台無しです。
“写る”ことがあたり前になってしまって、
“写る”ことへの意識が低下してしまって、
最終的に“なにを写すのか”“なにを写したいのか”
といったことがうすれてしまうのですね。
そんな、練習のような撮影を繰り返していると、
写真というのは、人間の目と比べると、
写る範囲がとても狭いということに気付くはずです。
ぼくは、その狭さこそが、
写真の魅力のひとつなのではないかと考えています。
ということで、次回は、あらためて
“画角”についてのお話をします。
今ではすっかり目にすることが少なくなった露出計ですが、
まだまだたくさんの商品が存在しています。
露出計というと、いきなり専門的な感じがしますが、
「光の量」を計るための道具、と考えれば、
ちょっとすてきな道具でもありますよね。
露出計を手に入れて、
それこそいきなりフイルムカメラでもいいし、
デジカメの場合は、プログラムオートをやめて、
絞り優先オートに設定して、
シャッタースピードと露出計を見比べながら
撮ってみてください。
最初のうちは、少し面倒ですが、
失敗を繰り返す中で、
今まで以上に光のことを意識するようになりますし、
その分「写った」という印象が増えるはずですよ。
■GOSSEN DIGISIX2
■SEKONIC TWIN MATE L-208
2014-09-12-FRI