その25 若きウェブデザイナーのための写真講座
[4]iPhoneでじゅうぶんだよ、という理由。

このメンバーのなかで、杉本さんには以前お目にかかって、
カメラを買うアドバイスをしたことがあります。
会社には、仕事で使えるキヤノンのEOSがあるけれど、
仕事でも、仕事以外でも使える
じぶんのカメラが欲しいという希望があったので、
オリンパスのOM-Dという
ミラーレス一眼のカメラをすすめました。
一枚ずつ、きちんと被写体に向き合って
撮ることができるカメラです。
そして「いっそ仕事には使わないほうがいいよ」
なんていうアドバイスをしましたっけ。

 はい、とても満足しています。
ちょっと背伸びをして
いいズームレンズも買いました。
ほとんど毎日持ち歩いているんですが、
じつは菅原さんのアドバイスをやぶって、
仕事にも使っちゃっています。
それでも、撮る仕事がたのしくなりました。

じつは仕事にも使うんだろうなって思ってましたよ。
気に入ったカメラ、じぶんのカメラだと、
仕事でも、撮る気持ちや意欲がかわってくるから、
ふしぎですよね。

それから、西本さんは、こどもが成長してきて、
急にかけっこをしたり、くるくる動き回る、
一時もじっとしていないこどもたちを確実に撮りたい、
それから趣味の陸上競技の写真も撮りたい、
ということでしたので、
EOSの7Dというちょっと上級の一眼レフカメラに、
あかるいレンズをつけることをすすめました。
こちらは、オートフォーカス性能や、
連射機能がすぐれています。

 人を、あざやかに、明るく撮れるカメラが欲しいです。
旅行に行ったりしたときに便利で、
室内でも暗くならないカメラがいいです。

 今まで雑誌の仕事が多くて、
わりと写真を見ることは多かったんですけど、
自分で撮ることはほとんどありませんでした。
それが、撮る機会が多くなって、
自分でも撮りたいなと思い始めています。
けれども大きいカメラはたぶん持ち歩かなくなっちゃう。
コンパクトで持ち歩きやすいものがあったらと思います。

うん、なるほど。男子ふたり、同じような感じですね。
たぶん「何を撮りたいか」というものは
あまりはっきりしてなくて、
写真というものをもっと身近に感じたり、
たのしんだりしながら、
仕事にも活かしていきたいってことですよね。

なら、たぶん──、思い切った提案だけれど、
ふたりには、今のところiPhoneでいいのでは。
そして、その使い方を
ちょっと工夫してみたらどうでしょうか。
仕事で使うカメラは、会社のEOSで充分です。
不安だったら休日に借りて練習すればいいんです。
そして、ふだんづかいとしては、
「まずはiPhoneでしっかり撮ってみる」。
これすごくいいと思いますよ。

特にiPhoneがあたらしく「6」になって、
iOS8になっての変化って、写真的にはすごいなと。
いままで、ただバシャバシャ撮っていたと思うけれど、
かんたんに明るさを変えられたり出来るようになりました。
そして、カメラのアプリケーションも増えました。
「MANUAL」という名のアプリのように、
ホワイトバランスを設定出来るものであるとか、
いろいろなものが豊富に出ている。
あくまでも「疑似」だけれど、
カメラって、どういうことができるのかを
理解するのにはとてもいいツールになっています。

以前であれば、たぶん、ふたりには、
コンパクトなデジタルカメラを勧めていたと思います。
それが、まず最初に写真の練習をするということであれば、
もう、iPhoneで十分な感じになってきている。
やっぱり、今、もし本当にカメラ買うとしたならば、
もう1個ステップ上のもののような気がするので、
気軽に買えるようなレベルの
コンパクトデジタルカメラを買っても、
すぐ使わなくなると思うんですよね。
それこそ、LEICA X2であるとか、
FUJIFILMのXシリーズであるとか、
それこそ、最新のGRにしても、
パッと見はコンパクトだけど、
中身はそうじゃないようなものだったら、
写真がしっかり撮れるので、いいかもしれないですけど、
かといってそれらは、気軽に買えるカメラではありません。

それに、ぼくは、岩黒さんと逆で、
「あかるく撮れる」のが、どうも苦手で。
あかるいところをあかるく、ではなく、
暗いところまであかるくしてしまう、
デジタルカメラ全般にあるその傾向に、
ちょっと気持ちのわるさを感じています。
自分の目に見えるもの、
自分の目が感じるものを、
できるだけそのまま、写真におさめたいのに、
「ほら、きれいでしょう?」という演出が
「あかるい」方向なんですよね。
それが過剰な気がしてならないんです。
ところが、iPhone6、iOS8になってから、
普通に撮ると、相変わらずあかるく見せたりしますが、
それでも、自分の意思でぱっと暗くできたりする、
そういう便利さが加わってきた。
「おお、いいじゃないか」
って思っているところなんです。
だから、岩黒さんのような場合、
今のところ、じつはカメラにはそんなに興味がないけれど、
手軽にいい画が撮りたいなあと思っている人は、
まずはiPhoneの使い方を考え直してみて、
それで、しっかりと写真を撮ってみてください。

 iPhoneたのしいですよね。
ぼくはまだ「5」ですが、
先日教えていただいた荒木さん式の撮り方、
方をぐっと入れて突き出して撮る方法、
iPhoneでやると、かなりいいですよね。
ちゃんとスナップ写真になるんですよね。

なるほど、たしかにそうかもしれませんね。
iPhoneを構えると、画面を見てしまうから、
目→カメラ→被写体、が一本の線にならない。
目↘カメラ↗被写体、みたいですよね。
そして、岩黒さんは、iPhoneをきわめたあとに、
きちんと写真が撮りたくなったら、
いわゆる「ふつうのカメラ」を買ってみるといいのでは。
一眼レフでも、レンジファインダーでもいいので、
「ちゃんとファインダーを覗いて撮るカメラ」ですね。
そして「撮ったものをプリントしてみる」ということを
ぜひ経験してほしいなって思うんです。
というのも、岩黒さんは最近結婚されたときくので、
ぜひぜひ、ご家族の写真を
お気に入りのいいカメラで、しっかりと撮っておくといい。
そして、それをプリントに残すと、
とても大切なものは出来上がるはずですよ。

僕たちのお父さんとかお母さんの世代に、
本当に感謝してるのは、
一所懸命、カメラで頑張って撮ってくれたことです。
カメラが高級品だった時代にも、
一家に一台、あったりしたんです。
みんなそんなお金があったわけじゃないだろうに、
とても大事なこととして、写真に向き合っていた。
プリントして、ちゃんとアルバムを作ってくれた。
今になって、心から感謝するし、
やっぱり実体のあるものっていいなあって思うんです。

僕は、写真家っていう仕事をしているけれど、
そんな家族写真がたくさんつまった
アルバムのような大切さを、
ぜったいに、忘れちゃいけないなっていう感じがあります。
だから、ぼくが撮っているもの、
そして、そこから作り出しているプリントなどにも、
その大切さが重なるようなものになれば一番いいなあと。

そういった意味でも、プリントがちゃんとできるカメラを
仕事とか関係なしで使ってみたらいいのでは。
中古のフイルムカメラでもいいし、
デジタルカメラでもいいけれど、
個人的には、より写真的であるということで、
ここはフイルムカメラをすすめたいですね。;

 古いフイルム時代のレンズを
あたらしいデジタルカメラにつける、
というのが流行しているとききました。

ああ! これは、一言で説明するのは難しいのですが、
ざっくり言うと、古いレンズは古いカメラに、
新しいカメラには新しいレンズを、
基本に考えた上で、と僕は思っています。
たとえばライカだと、
デジタルカメラの初代の「M8」などは、
どちらかというと、新しいレンズでなくても、
古いレンズをつけても、バランスがいいというか、
そのレンズの特性のようなものが、
いいかたちで、生きているように感じます。
M8というのは、ことデジタルカメラとして考えると、
画素数もそれほど大きいわけではないし、
ライカが苦しい中で、コダックのセンサーを搭載し、
初めて作ったM型デジタルカメラということで、
その一所懸命さから生まれた偶然‥‥、
なのかどうかわかりませんが、
今となっては、他のどのデジタルカメラにもない、
とてもふくよかな写りをしてくれる。
ちまたでは、いくつかの欠点について
いろいろと言われていますが、
個人的には、傑作カメラだと思っています。
それに、どうやら35ミリ用のフイルムに
合わせて作られていた古いレンズとも、
スペック的にもバランスがいいようで、
しかもM8のセンサーの大きさは、
35ミリフイルムのサイズよりも少し小さい。
結果的に、レンズの中心の
一番おいしいところを使うことになります。
「M8+古いレンズ」の結果の良さは、
そんなところにもあるやもしれませんね。

しかし、同じライカでも最近のカメラは、
スペックが高すぎて、
もちろん、すべてではありませんが、
古いレンズを使った場合、その味わいが、
時には欠点のようにも写し出されてしまうようです。
だからやっぱりそこは最新のレンズを使ったほうが、
少なくとも、バランスはいいように思います。

もちろん、その古い感じを楽しみたい、
という趣味の世界は否定しませんけれど、
今回は「これから、どんなカメラを
どんなかたちで使っていこうか」
と考えるいい機会でもありますので、
そのあたりのことは、一度横に置いておいてもいいかも。
それに、あらためてカメラにとって
一番大切なことというのは、
けっして、そこに写し出された
「味」や「うまみ」などではなく、
いかに「写したい」と思ったものが
少しでも「写っているか」、
ということなのではないでしょうか。

そのために必要なカメラがあります。
そのために必要なレンズがあります。

その中から、自身の目的に合った
自身が好きになれるカメラを見つけることが出来たならば、
きっとそのカメラそのものも、
とても大切なものになると思いますよ。

(つづきます)

2014-12-05-FRI