その26 若きウェブデザイナーのための写真講座
[5]フイルムカメラを使ってみよう。

 「写ルンです」を買いました。
長野に旅行に行くのに持っていき、
まだ撮りきっていないんですけれど、
現像に出すのがたのしみです。

 わたしも「写ルンです」使ってみました。
現像をしてみたら、緑や青がすごく印象的で、
絵としておもしろいなぁと思いました。
そんなふうに、ちょっと癖があってもいいから、
撮ったときの瞬間の印象が残って、
後で見た時にも思い出せるような、
そんな写真が撮ってみたいと思うようになりました。
「この人のこの癖が好きなの」
みたいなカメラが欲しいです。

「写ルンです」おもしろいでしょう?
楽しさをわかってもらってうれしいです。
「写ルンです」は、裏側では、
ものすごい技術の裏付けがあるのですが、
最近の高機能のカメラからしてみたら、
どうしても、固定焦点で固定露出という
写真を撮るということに対して
ただひたすらに「単純化されている」ものですよね。
なにしろレンズはプラスチック製が1枚。
それであの写りはすごいけれど、
そのもう一歩先にある、
階調であったり、解像感のようなものは難しい。
線でいうと、太い線で描かれている絵。
音でいえば、高域も中域もない、
真ん中の人の声だけはよく聞こえるみたいな音です。

それはそれで、大切なところがぐっと詰まっていて、
「ならでは」のよさでもあるのですが、
できることであれば、今回少しだけ踏み込んで
知ってほしいなぁと思うのは、
何度でも見たくなるような写真であるとか、
いつまでも大切にしておきたくなる写真というのは、
実は「何となく」ではなくて、
「しっかり」と撮られているものだということです。

それは、撮影者がしっかりとした意志と、
時には、しっかりとした技術を持ち合わせていて、
それゆえに写し出されているものもありますが、
それらも含めて、以前もお話したように
写真というのは、自身ではなくカメラが写すもの。
写しているのは、そんなカメラたちです。
ですので、まずはその簡単な使い方を覚えて、
一度「写真らしい写真」を知ってみて欲しいのです。
それはそれほど難しいことではありません。
そのためのカメラはとても大切な役割ですし、
中でも、レンズの大切さは言うまでもありません。

みなさんに、「そこから意識的にしっかりと写していく」
面白さを知ってほしいと思うと、
すすめたいカメラは、どうしても、
フイルムカメラとなってしまいます。
個人的なおすすめとしては、
やはりここは、ライカでしょうか。
と聞くと、それだけで驚かれる方もいるでしょうが、
中古のフイルムカメラになると、
ここのところ少し値上がりしているようですが、
それでも今は、昔のような驚くほどの値段ではありません。

中でも「M3」というモデルをおすすめします。
このカメラは、いろんな意味で
最もライカらしいカメラですし、
それに、ズミクロンの50ミリという
ライカのもっともスタンダードな組み合わせが、
個人的にも、とても気に入って使っています。
とはいうものの、古いカメラですから、
当然きちんとしたメンテナンスをしていないと、
うまく動かなくなったり、故障することもあるでしょう。
しかし、この国にはうれしいことに、
まだまだ凄腕の職人たちがいます。
ぼくのライカをいつもメンテナンスしてくれる
銀座の田鹿さんは、まだ30代なんですよ。
「自分は中古のカメラしか扱ってないけど、
 お客さんに渡す時は、中の指紋まで全部拭き取って、
 新品のものを渡すくらいのつもりで出してる」
という、言うことも格好いいけれど、
見た目も格好いい若者です。
おかげでぼくは、今でもそんな「M3」を
古いカメラという感じではなく
しかも、いつでも直してもらえるという
大きな安心感と共に、とてもふつうに使っています。

結局、カメラっていうのは、
写真を撮るための道具でもあると同時に、
やっぱりモノとしても大事にできるものじゃなかったら、
どれだけ便利になったとしても、
どんどん必要のないものになって行くような気がします。
それに、モノとして好きになれないものは、
あまり持っていたくありませんよね。
どうせ買うんだったら、自分が好きになれるものを。

で、ももちゃんも、杉本さんも、
好きなものがあるわけじゃないですか、明確に。
だったら、その延長線上で
全部を貫いたほうがいい。
その延長線上で道具として使えばいいんだと思います。
そんな中で、たまたまひとつのおすすめとして
ライカの話をしましたが、
大切なのは、そういった部分なのではないでしょうか。

僕は本当にライカっていうカメラは
素晴らしいなぁと思うし、
すべてのカメラの中で、一番手になじむし、
どこに置いてあっても、いやじゃない。
その上、なによりもしっかり写るという安心感があります。
僕も若い時は、分不相応な感じが恥ずかしい、
と思ったりもしましたけれど、
いまはフイルムカメラであれば、
そういう感じもないのでは。

ただ注意点としては、中古なので、買ったものはちゃんと
すこしお金をかけてオーバーホールに
出したほうがいいかも。
中身が見えないから、
そこは田鹿さんのような専門家にお任せして。

 私、広告の仕事で、一応アートディレクターを
名乗ってはいたんですけど、
写真のことがわからないままでした。
ディレクションをしても、その場で自分が
適切に動けてた気がしなくて、
逆にすごい苦手意識を持ってしまったんです。
この会社に入ってから、
自分で取材でカメラを持つようになって、
最初はすごい嫌だなと思ってたんですけど、
撮ってるうちに、すごい楽しいなと思ったんです。
もともと、父からニコンとリコーの
フイルムカメラを貰ったのを持っていて、
プロダクトとしても好きなので、
仕組みをちゃんと理解した上で、
いろいろ撮ってみたいなっていう気持ちがあります。
なので、それを踏まえて、取材に、
自分のカメラを持って行ったり、
普段も持ち歩いて、写真を撮りたいと思っています。
やっぱり普段からトレーニング的にやってたほうが
きっと自分が撮りたいなと思うものが
撮れるんだろうなと思って。
ちなみにオリンパスとリコーのカメラが
ちょっと憧れというか、
プロダクツとしていいなと思っています。

なるほど。普段も使ってみたいし、
仕事でも使ってみたい。
なら──、リコーのGRもいいけれど、
今回は、カメラという構造を覚えてみるという意味でも
オリンパスにしてみましょうか。

プロダクトって、おもしろいもので、
作っている人たちの熱意みたいなものが
伝わってくるものなんです。
その意味で、オリンパスっていう会社の中には、
僕の想像ですけれど、
それが今でもしっかりとあるように思うのです。
今でもその名を冠していますが、
「OLYMPUS PEN」という
ハーフサイズカメラの名機であったり、
一眼レフの「OMシリーズ」を作り続けてきた
長い歴史があるので、そのもともといる技術の人たちが
すごく頑張っているのかもしれませんね。
そして写し出された写真を見ていても、
とても存在感のある、非常に写真的な感じがします。
しっかりと使っていないので、断言出来ませんが、
EPシリーズの一番新しい「E-P5」もよさそうですね。
最初はこれに単焦点のレンズを付けて、
それで、絞りやシャッタースピード、ホワイトバランスなど
マニュアル操作をちょっとずつ練習していって、
仕事でも使えるようになっていけたらいいですね。
少し慣れてきたら、標準ズームを使ってみるのもいいかも。
普段からズームを付けてると、結構かさばるけれど。
きっと似合うレンズもあると思います。
カメラって「似合う・似合わない」があるんですよ。

 似合う・似合わないって、ありますよね。
じつは一時、ソニーのα7rっていうカメラに
興味があって、それはアダプターをつけると
ライカのレンズがつけられて、
フルサイズで撮れるっていうところに魅かれたんですが、
じっさい、お店で手に持ってみると、
なんだか違和感があるんですよ。しっくりこない。
きっと「おまえには似合わない」ってことなんだろうなあ、
と思ったんです。
高いカメラを機能だけで
むりしてローンを組んで買ったところで、
いずれ、だいじにしなくなっちゃうだろうなあ、と、
結局、買うにはいたりませんでした。

よかったですね(笑)。
そもそも、ライカのレンズを使えるデジカメを、
ということで、
そのソニーをすすめたのもぼくでしたね。
その一方で、ライカのレンズを付けるのであれば、
フルサイズにこだわらず、
中古のライカM8でいいのに、とも思っていましたよ。
もちろん、このソニーの「α7」シリーズも、
これも想像でしかありませんが、
なくなってしまった「ミノルタ」であるとか
「コニカ」の気配がその中に残っていると感じるほどに、
とても、フイルムライクな、
想像以上に自然でしっとりとした美しい描写をします。

けれども、そういったカメラに、
ライカのレンズを付けてみる前に、
僕は個人的には、
「だったら一度、
 デジタルカメラを使うような感じで
 フイルムカメラを使ってみたらどうなるのだろう?
 その方が、きっとおもしろいに決まっている」
と、最近、そんな風に感じています。

じつは、そんな中で、ちょっと欲しいカメラがあります。
「MINOLTA TC-1」というカメラです。
発売当時は、15万ぐらいしていて、
「高いなあ、どうしようかなあ」と思っていたら、
製造中止になってしまいました。
かわいいんです、ちっちゃくて。

 わたしも、ちいさなフイルムカメラを
使ってみたいなあって思ってました。
TC-1、気になります!

 ミノルタはCLEっていうのも人気がありますよね。

そう、ミノルタのCLEもいいカメラです。
すごくいい感じに写ります。
なによりも、とても使いやすいカメラです。
しかも、今でも四国に元ミノルタの社員が
CLEが大好きではじめたという、
CLE専門の修理屋さんがあります。
僕もメンテナンスしてもらったのですが、
ほぼ完全によみがえりましたよ。
CLEには28ミリ、40ミリ、90ミリっていう
3種類のレンズしか出てないんですが、
どれもそこそこいいんですね。
ロケハンなんかだと、露出を考えるより、
オートで撮ったほうが速いから、
最近でもけっこう使っています。
仕上がりも素晴らしい。
だから、おそらく同じ28ミリレンズを積んでいるであろう
「TC-1」は、きっといいに違いないと思って、
いまあらためて欲しいなって思ってます。
ただ、人気があって、フイルムの中古だけれど
新品のときからあまり値段が下がっていないかも。

なんだか最後は、
自分の欲しいカメラの話になってしまいましたね。
ぼくはカメラ屋ではないので、
かたよっているところもあると思うけれど、
参考になったらうれしいです。

「ウェブデザイナーのための」と銘打って
最後はフイルムカメラの話をしているのですから
変な話だと思われるかもしれませんが、
今回、皆さんには、
「写真がうまく撮れる」という前に、
どうしたら写真が好きになれるのか、
そして、どうしたら好きになれる写真が撮れるのか、
そのことを知って欲しいなあと思っていました。

それぞれの、悩みだったり、
希望に沿った技術指導もいいのですが、
それでは、また別の悩みであったり、問題が出てきたら
きっと同じことを繰り返してしまいますよね。
そして、ぼくなりにいろいろと思い悩んでみたのですが、
「写真というものを好きになる」
「カメラという道具を好きになる」
それらが、出来ることであれば、
別々ではなく、同時に好きになれたならば、
いくつかの問題は、きっと解決していくと思ったのです。
だとしたら、まずはより写真的な
フイルムカメラで撮ってみて、
写真そのものとも言えるプリントをしてみたら、
きっと、今まで自身の中で、なんとなく
「なんだかもうひとつ何かが足りないなあ」
と感じていたことの、
その理由がはっきりしてくるのではないでしょうか。

ですので、あらためてもう一度、
真剣にフイルムカメラを使ってみませんか。
まずは、ご両親なり、
友人より借りて試してみるのもありかも。
そしていつの日か、フイルムカメラであっても、
デジタルカメラであっても、
お気に入りのカメラに出会えたらいいですね。
幸運にも、そんな写真の世界を
少しでも知ることが出来たなら、
おそらくウェブの中で使う写真はもちろんのこと、
ふだん何気なくiPhoneで撮っている写真も、
きっと、生き生きとした、
その人ならではの写真になっていくはずです。

(このテーマ、おわります。
 次のテーマをおたのしみに!)

2014-12-12-FRI