56ミリというレンズは、X-Pro2につけると、35ミリフルサイズ換算でおよそ85ミリ相当の画角となります。一般的にはポートレイトレンズとよばれ、人物撮影でよく使用される画角です。「人と人」がふれあう上で、ちょうどいい距離感があり、その画角は、もともとぼくたちが感じている“原寸感”にもフィットしているように思います。ですからスナップや風景でもよく使います。何よりこのレンズは開放値がF1.2。明るいのはもちろんのこと、ボケ味も大変美しいレンズです。
今回も前回に引き続き、“サハリン紀行”。
現在開催中の展覧会は、第1部と第2部に分かれているのですが、
前回のお話が第1部にあたります。
今回は第2部の“ニブフ族”という少数民族のお話です。
サハリンには昔から多くの少数民族が暮らしていました。
“ニブフ族”はその中でも最も数が多かった民族です。
その暮らしぶりは、ぼくたちがよく知る
“アイヌ族”にとてもよく似ています。
北海道とサハリンは、現在、
海底トンネルを造ろうなどという計画があるほどに
近い場所なのですから、当然のことかもしれませんね。
以前、何かの本で見かけた彼らの写真を見て、
ぼくたちに近い顔つきの“ニブフ族”に、
いつか会ってみたいと思っていました。
そしていざ、実際に対面してみると、
その親近感は、まるでそれはご近所さんでした。
そして、いよいよポートレイト撮影です。
ほかの被写体でも同様ですが、
特に人物撮影となると、
ぼくはまず真正面から撮影を開始します。
当然そのことでお互いの中に“緊張感”が生まれます。
もちろん、ただの“緊張感”でいいわけがありません。
これはとても不思議な感覚ですが、
実はそこから、無言のまま、少しずつ、少しずつ、
言葉にならない会話が始まるのです。
特に今回のように、
言葉の通じない人々との撮影ではなおさらのこと。
そして、そこに“信頼関係”が生まれたとき、
その人の、本質的なものが、写真の中に、
少しだけ写ってくれるような気がするのです。
“いい感じ”ということではありません。
むしろ“ほんとうのこと”と言ったほうがいいでしょう。
それを感じることが出来たとき、
やっとぼくは「写った」と感じることが出来るのです。
56ミリというレンズは、X-Pro2につけると、35ミリフルサイズ換算でおよそ85ミリ相当の画角となります。一般的にはポートレイトレンズとよばれ、人物撮影でよく使用される画角です。「人と人」がふれあう上で、ちょうどいい距離感があり、その画角は、もともとぼくたちが感じている“原寸感”にもフィットしているように思います。ですからスナップや風景でもよく使います。何よりこのレンズは開放値がF1.2。明るいのはもちろんのこと、ボケ味も大変美しいレンズです。
そして今回は幸運にも、
このようなポートレイト撮影だけではなく、
“ニブフ族”の、日常の暮らしぶりを見ることが出来ました。
彼らの、決して豊かではないけれど
自然に寄り添った暮らしぶりは、
とてもあたたかいものとして目に映りました。
知れば知るほどに親近感は深まり、
時間や場所を越えて
“ぼくたちそのもの”なのかもしれないと思うほどでした。
とても大きな出会いもありました。
冬、海の近くで暮らす“ニブフ族”ですが、
夏場は山間部にトナカイを連れて行き放牧をしています。
そのその様子を見せてもらおうと、夏、
宿泊していた町から車で4~5時間かけて現地に向かいました。
なんと、手違いによってそこにトナカイは皆無。
ちょっとびっくりしましたが、
そんな時はどうにもなりません。
笑いながら、来た道を引き返そうと、
そこまで案内してくれたドライバー君と話をしていたら、
そのドライバー君が「ウラジーミル・サンギ」さんの
息子さんだということがわかったのです。
ウラジーミル・サンギさんは
“ニブフ族”唯一の職業作家であり、
現在ではすべての“ニブフ族”の
代表のような存在でもある文豪です。
前日に博物館でそれを知ったぼくは
「この人に、なんとか会ってみたいなあ」
と思い、ガイドのオリガさんに伝えてはいたのですが、
もちろんそんなに簡単に会える人でないことは
よくわかっていました。
そのサンギさんが、
そのドライバー君のお父さんだというのです。
それだけでもものすごい偶然なのですが、
しかもその日はサンギさんは、ぼくたちが宿泊している
“ノグリキ”という町に滞在しているとのこと。
早速連絡を取ってもらうと、
なんと「是非、お会いしましょう」と
その日のうちにサンギさんに
お目にかかることが出来たのです。
いきなりのことでしたし、
もうすぐご飯時という迷惑だった時間にもかかわらず、
言葉のわからないぼくに対しても、
まっすぐと目を見ながら、
“ニブフ族”という民族が、
どのような歴史をたどってきたのか、
現ロシア政府が、いかに“ニブフ族”の
民族性を理解していないか、
その中で、自身がどのような活動をしてきたか、
などなど、ひとつひとつていねいに、
いろんな話を聞かせてくれました。
そして最後に、
「ぼくは日本人が好きだ」とも。
サンギさんのように、
大きなものを背負って人の前に立つ人は
その目が違います。
サンギさんの目は、高齢にもかかわらず、
「キラキラ」と、そして「ギラギラ」とした
光が輝いているように見えました。
そのまっすぐとした眼差しの中にある
あたたかさが、今でも忘れられません。
これが、ぼくが“サハリン”でずっと感じていた、
「親近感というあたたかさ」だったのかもしれません。
そして改めて「まっすぐと向き合うことの大切さ」を学んだ
ぼくの“サハリン紀行”でした。
サハリンの様子は動画でも公開しています。よかったらごらんください。
10月22日(土)14時より、
東京ミッドタウン FUJIFILMスクエアの会場にて
「ギャラリートークショー」が
急遽開催されることになりましたので、
お近くにお越しの際は、ぜひどうぞ。
次回はプラハの“黒”についてのお話です。
2016-10-06-THU