その32 紅葉の色は、光の色。その32 紅葉の色は、光の色。

先日のニュースでは、もう大雪が降ったとのことですが、そのつい一週間前はこのような紅葉真っ盛りでした。北海道十勝地方にて

先週、連載をお休みしている間、
紅葉の撮影に青森まで出かけていました。
もちろん撮るべきものは紅葉だけではないのですが、
それでもこの時期になると、
どうしてもついつい紅葉にカメラを向けてしまいます。

どうやら、写真と紅葉は相性がいいようで、
特に京都などの紅葉の名所には、
多くの観光客と共に
多くのアマチュアカメラマンたちが集います。
以前は、そんなすがたを見て、
なんとなく違和感のようなものを覚えたこともあります。
同じく季節ものの“桜の撮影”においても
同様のことが言えると思いますが、
誰もが同じように“いい写真”を
撮ろうとしていることに対しての
違和感だったのかもしれません。

以前、JR西日本の仕事で、10数年にわたって、
毎年、京都を中心とした関西地方の
“桜”と“紅葉”の写真を撮り続けたことがあります。
毎年毎年、いくつかの候補地を、
もちろん、限られた時間の中で撮りました。
ぼくは、なんとか少しでも、
いわゆる“絵はがき”的な写真ではなく、
その風景がそのポスターを見てくれる人々にとって、
“日常の延長線上にある世界”であるようにと考えました。
広告写真ではあるのですが、
日常の紅葉の写真を撮りたいと思ったのです。
「きょう会える風景」とコピーのついたその写真は
毎年ポスターとして各駅の構内に貼り出されました。

紅葉というのは、出会うのに
そのタイミングが本当に難しいものです。
その年の、それまでの寒暖差や、
どのタイミングで雨が降るかにも大きく左右されます。
もちろん、あたたかい光の中にある紅葉も美しいのですが、
ちょっとしっとりとした紅葉のすがたもいいものです。

その頃の入稿用のプリントを、久しぶりに見返してみました。それにしてもたくさんの場所を撮影しました。しかも、すべてがどこであるかすぐに判るのですから、光の記憶というのはなかなかですね。

紅葉には不思議がいっぱいです。
ぼくは、子供の頃から、
この時期の山の中を散歩するのが大好きでした。
順番に散っていく落ち葉の上を、
サクッ、サクッ、と歩く感じも気持ちがいい。
ヤブ蚊も少なくなって、虫に刺される心配も少ないし、
秋の森の中でドングリなどを拾いながら、
時折上を見上げてみると、
その世界が真っ赤だったことが、
今でも、なんとも強烈な記憶として残っています。

その時から、その突然変わる紅葉の色が
子供心に、とても不思議だと感じていました。
しかし、実はこの紅葉のメカニズムは、
何でも解ってしまっているようなこんな時代においても、
未だに解明されていません。
今まで光合成を繰り返してた葉が、
秋になると、冬に向けて養分を蓄えるため、
光合成を中止し、その結果葉に貯まった糖分が、
紅葉の色彩を生み出している──、という、
途中までの推測にとどまっているのですね。

にもかかわらず、ぼくたちは
なんとなく、そのメカニズムを
知っているような気になっています。
言葉で説明できなくても、
身体でわかっている、というようなことです。
もしかしたら、そのわけは、
不思議とそれらの光がすべて
“赤色”や“橙色”や“黄色”といった
暖色系ゆえに、とてもあたたかい印象が
あるからかもしれません。

ということは、紅葉の印象は
“光そのもの”とも言えるのでは?
何度もお話ししているように、
もともと“写真 photograph”という言葉は
“photo=光の粒子 + graph=絵”なのですから、
紅葉が光そのものをあらわしているのだとすれば、
写真との相性がいいのも理解できます。

水辺に落ちた紅葉たちをゆっくり見ていると、一瞬。光の粒子が大きくなったかのような錯覚を覚えます。奥入瀬にて

関東地方も、そろそろ紅葉の季節がやって来ます。
ぼくも10月の中旬、一足先に秋が深まった
奥入瀬渓谷をゆっくりと散歩してきました。
落ち葉を踏む音に混じって
川のせせらぎが聞こえてきます。
ふつうの散歩では、その時の視点は、
どちらかというとまっすぐ前を見ているか、
時々ぶらぶらと地面の方を見ている、
という感じでしょうか。
当たり前の話ではあるのですが、
光は空から地表へ、上から下へと降り注いでいますから、
天気のいい日に森や林の中をうろうろと
「紅葉狩り」というのはいいものです。

“狩り”というぐらいですから、
散歩をしながら紅葉を探すわけですが、
その時に、時々森や林の中で、
少しだけ意識をして、上を見上げて、
陽がたくさん当たっている場所を見つけて、
そして、その方向に向かって歩いてみてください。
それこそ、上を見たり、下を見たりしながら。

この時期、森や林の中に入ると、
日陰の場所は、かなり肌寒かったりします。
けれどもいちばんあかるい場所というのは、
その森や林の中で、
いちばんあたたかい場所でもあるはず。
しかも、その場所にある紅葉は、
きっとどこよりも、赤く色付いているはずです。

そのあたたかさはしっかりと目に映りますが、
きっと相性がいいのでしょう、
写真にも、これはどんなカメラでも(iPhoneでも)
実は想像以上に、しっかりと写ります。

ただし、ひとつ注意点として、
特に“Auto”の状態で光の方向にカメラを向けると、
どうしてもアンダー(=暗め)になってしまいます。
そんな時は、露出補正を使って「+1」などと、
いつもよりも、少し明るめの設定を。

ぼくも先日、奥入瀬渓谷の中をふらふら歩いているとき、
自然とあかるい方向を目指して、ふと上を見上げると、
ここにも、こんなにも“赤い世界”がありました。
あまりにも突然赤かったので、ちょっとびっくり。
そして、やはりその場所はとてもあたたかく、
なぜか不思議と安心感のようなものがありました。

もちろん名木の鑑賞もいいのですが、
時には名もない雑木林の中でも
こんなちょっと特別な光のある場所を見つけに、
どこかの森を、カメラを持って
ゆっくりと歩いてみませんか。
必ず“そんな場所”を、
見つけることが出来ると思いますよ。

奥入瀬渓谷にて
https://www.instagram.com/p/BMdjJXvhVDT/?taken-by=strawberrypicture

2016-11-10-THU