原田 |
糸井さんのところの事務所では、
若い方たちは、
遅くまで仕事をしていますか?
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糸井 |
最近、
ものすごく注意しているんです。
「サボれ!」と怒っているぐらい。
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原田 |
そうでしょうね。
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糸井 |
おもしろいから、
サボることができないんです。
家に仕事を持って帰っている人も含めたら、
結局みんな、いつも、すごく働いています。
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原田 |
クリエイティブな仕事は、
時間でしばっちゃいけないんだけど、
「ひっきりなしに働くって、
かっこわるいよ」
ということは、ちゃんと
教えてあげないといけないんですよね。
やっぱり、
それではかっこわるいんです。
「仕事もできて趣味もできて、
休暇も取って家庭も大切にして、
自分のシーンも
大事にするというのがかっこいい」
と若い人に教えていかないと、
戦後の経済復興の頃から
一貫してつづいている
「生産性向上」だけの管理をおこなったら、
もう、会社はおかしくなりますよ。
クリエイティブな人材が
殺される経営になりますから。
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糸井 |
結局、働く環境については、
「歯を食いしばれ!」
という話しかしていない時代が、
ものすごく、長いんですよね。
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原田 |
ええ。
たとえば私も、自分で
「俺って、アタマいいのかな」
と思うぐらいに
ひらめく時ってあるんです。
でもね、そういうひらめきって、
百時間かけて考えていたとしても、
ほんとに考えて
ひらめいている時って……
たった、数分ですよ。
そうじゃないですか?
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糸井 |
ほんとにそうだと思う。
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原田 |
成果の規準は
「労働時間」ではないんです。
休みもないと、
ひらめきが出ないんですよ。
夜中にベランダで、タバコを吸っていて、
夜景を見た一瞬だとか、
トイレで座っている時に不意にひらめく。
私、時々、風呂の中から
「ちょっと、紙と鉛筆持って来てくれ!」
と妻を呼ぶこともありますからね(笑)。
「今から言うこと、メモ取って」
とメモを取ってもらいます。
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糸井 |
ぼくは、奥さんに
「持って来てくれ」とは言わないんだけど、
それ以外は、原田さんと、まったく同じです。
風呂って、すごいところですよね。
ほんとに、いろいろ、思いつく。
思いついたら、そのまま出ていって、
パソコンに打ちこんで、
びしょびしょのまま、
また風呂に戻ったりしますよ。
しかも、一度に
たくさん出てくる時があって、
困るんですよね。
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原田 |
そうそう。
五つのアイデアを思い浮かぶと、
その五つの頭文字だけで、
あとで思い出しやすいように、
たとえば「あ」「ば」「そ」とか
覚えておくわけだけど……困る時がありますね。
「書いたはいいけど、
『ば』ってなんだっけ」
という時も、ありますから。
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糸井 |
そこまで行く前に、
アタマを洗ったら忘れちゃったり。
だから、ほんとに使えるアイデアは、
ぼくは、ほんとに飛びだして、
絶対にあとでわかるような
サインを残すことにしています。
ぼくは、風呂でいちばん思いつくなぁ。
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原田 |
私がいちばんひらめくのはトイレですね。
私は昔、エンジニアだったでしょう?
エンジニアの時代というのは、
特にそうでした。
エンジニアにとって、
ものを買ってきて
設計して作って動かすのは簡単ですが、
トラブルが出た時の原因究明というのが
ほんとうにむずかしいんです。
何がおかしいのか?
どこかがおかしいから
まわりもおかしくなるのですが、
ニワトリとタマゴみたいになって、
アタマがぐちゃぐちゃになる……
プログラムもそうなんです。
「わかった!」と思ってひとつ直すと、
違うところにバグが出てきたりするんです。
その原因を、三日間ぐらい
究明できない時があるんですけど、
ヘンな話、トイレで座って、
スッと出る瞬間に、ポッと解けるんです。
解くのは、一瞬ですもんね。
私もそうでしたが、
エンジニアはトラブルがあると
「おかしいなぁ、おかしいなぁ」
と言うんです。
だけど絶対に電気はおかしくない。
人間がおかしいんだ(笑)。
人間って愚かなんです。
その愚かさで、
複雑に複雑に考えていくのですが、
究明できる時には
非常にシンプルな間違いをしていた、
とわかるわけです。
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(つづきます)
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