糸井 |
マクドナルドの店員たちの
マニュアルというのは
教科書のように伝えられていますけど、
それは古くはなっていないんですか?
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原田 |
マニュアルは
「バカの大量生産だ」
みたいな発言もありますが、
マニュアルはバカを作るんじゃなくて、
最低限の基礎なんです。
必須科目としてのマニュアルは、
それ以上のレベルの教育のために
マスターしておくべきで、だから
私はマニュアル否定論者ではありません。
マニュアルは、お店で最も効率よく
自分の能力を発揮するための基礎教育ですから、
それは、絶対にやらなければいけない。
というのはなぜかと言うと、
たとえば、糸井さんが、
マクドナルドのお店に行って
教育を受けたとします。
ニコニコして、
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」
「どうぞごゆっくり」
帰られる時には
「ありがとうございます。
またいらしてください」
これはなかなか言えないですよ。
私、言えなかった。
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糸井 |
原田さん、やったんですか?
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原田 |
ええ。
つまずくんです。
一見易しいと思える
基本的な挨拶でさえ、
やっぱり言えないんです。
だからマニュアルで
覚えなければならなくて、
それ以上は自分のスマイルと
自分のアドリブでやるべきでしょう。
お客さんが困っている時……
たとえば、赤ん坊がおしっこをもらしました、
小さいお子様が飲みものをこぼしました。
パッと行って手伝って、
新しいものを持ってくる。
これはもう、
個人のホスピタリティーですよ。
そこまでいかなきゃいけないです。
だけど、最初から
すべてを自由にやりなさいと言ったのなら、
基本ができていないまま
自由にやるわけだから、
これはサークル活動になってしまいますね。
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糸井 |
規則というと堅苦しいのですが、
最低限、何を守るべきだ、
ということがわかっていたほうが、
社員をラクにしてあげられるんだ、
ということは、ぼくも感じています。
規則って、
人を自由にするために作るべきでしょう。
だけどそれがむずかしくて、
失敗したり成功したりの
歴史がないと作れないんですよね。
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原田 |
ビジネススクールには、
次のようなケーススタディがあるんです。
「アメリカの小さなボートを作る会社が、
ベンチャーでスタートして、
素晴らしいデザイナーが作った会社で、
どのボートメーカーのデザインよりも
優れているから、
すごい勢いで業績が伸びました。
そこで銀行投資家が目をつけ、
買収して投資して大企業にして上場しました。
ところが、その会社は潰れました。
新しい経営陣が、デザイナーに対して、
あいつはときどき勝手に休む、
お客さんの納期は守らない、
会社の方針とぜんぜん違うことを
勝手にデザインする、
金にならないことをやるなどと批判して、
自分たちの作った規則を
守らせようとしたからです……
あなたならどういう経営者になりますか?」
この場合の答えは、
「会社の中にいる
アーティストを大事にするべきだ」です。
「会社にとって核になる価値を提供し、
会社を成長させる
アーティストは大事にしなさい」
「経営者は、アーティストが
さらにすばらしいダンスを踊るための
ステージを作るべきだ」
そう学ぶわけです。
「チケットが売れたとか、
マーケットシェアがどうだとか、
アーティストにはいちいち言うな。
いい仕事をさせろ」
とも言われるわけです。
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(つづきます)
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