大量の湯気と一緒に、甘い香りがただよってくる。
皿一杯に山のように盛り付けられたスクランブルエッグ。
しかも玉子と一緒に、
茶色くなるまで炒め上げられた
細切れオニオンとスモークサーモン。
刻んだイタリアンパセリと挽いたばかりの胡椒が彩り、
風味をそえる目の前にあるだけで食欲そそる見事な一品。
サイドにトーストをしたゴマ付きベーグル、
クリームチーズ。
一口食べると、口いっぱいに鮭の脂の香りと味わい。
ツルンとスベスベしたオニオンが
玉子のフンワリした食感をひきたてて、
食べ始めるととまらない。
ただただ無言で、
一心不乱にスクランブルエッグを食べるボクの姿が、
ちょっと異質に見えたんでしょうか?
「気に入ったかな?」って声がかかった。
みれば落ち着いた、
明らかに当店のオーナーでござる的なる姿の
でっぷり太ったおじさんがボクのかたわらに立っている。
昨日、食べたスモークサーモンの
ベーグルもおいしかったけど、
このスクランブルエッグは感動的ですらありますよね。
こんな料理、今まで食べたことがなかったですし‥‥、
と、正直な気持ちを彼に伝える。
そして一言。
なぜ、メニューに「ニューヨーク1おいしいのは
スモークサーモンのベーグルサンド」と紹介してて、
このスクランブルエッグは特別扱いしないんですか?
思った疑問をぶつけてみます。
彼はニコッと。
そして一気にこう答えます。
確かにうちの
スモークサーモンとクリームチーズの
ベーグルサンドイッチは
ニューヨークで一番おいしいだろうけど、
うちで一番おいしいものはス
モークサーモンとクリームチーズの
ベーグルサンドイッチじゃないってコトなんだよね。
なるほど、たしかに。
ここにしかない料理は、他に比較するものがない。
街一番の料理より、店一番の料理を知ること。
大切なコトなんだなぁ‥‥、って。
そしてその「店一番」を気に入った人が、
おなじみさんになっていくんだ‥‥、って、
そう改めてボクは思った。
「それがこのスクランブルエッグってコトなんですね?」
そう言ったらば、彼は再びニコッと笑って、
「それも、うちで一番おいしい料理のひとつだって
答えておこうか」と。
明日の朝。
3日間のニューヨーク滞在の最後の朝を、
ボクは迷わずここでとろうとボクはそのとき、
決心したのでありました。 |