もっとおいしいお店があるに違いない、と思って
店を転々とする人生。
ひとつのお店の風景の中に溶けこんで、
お馴染みさんと言われる人生。

どちらがいいか。
人それぞれの価値観もあろうかとは思いますが、
ボクは後者の人生が好き。
はじめましての連続よりも、
おひさしぶりですと言われる人生。
交換をした名刺の数を誇るのでなく、
数少なくてもココロが通う友人が待ってくれてる人生を、
大切にしたいと思うと同じ。

自分にピッタリのお店がないかと探して歩くことは
旅のようなモノ。
旅がたのしく感じるのは、
帰っていく場所があるからこそで、
帰る場所なき旅は放浪。
だからボクは、「おひさしぶり」と迎えてくれる
お店づくりをたのしむコトにしています。
ニューヨークの、あのレストランでお店の人に
家族のように慕われて、
まるでお店の大切な一部分のようになった
おじぃさまのようにどこかのお店でなれたら、
どんなにシアワセかしらって、思いながら。





お店づくり‥‥。
自分がもどって行くべきお店を、
自分のために誂えるコト。
まず「長いお付き合いをするのにふさわしいレストラン」
を探すことからはじめます。
その特徴は、3つあります。
無理せずお付き合いができるコト。
一度でお店のすべてが見渡せる程度の大きさであるコト。
家族、あるいは仲間でやっている、
だからいつ行っても働いている人が
あまり変わらないコト。
つまり、程よき値段で通いやすい場所にあり、
チェーン店じゃなく店長さんとか
シェフとかの目が行き届きやすい大きさの店。

遠くの名店よりも近くの気軽な飲食店‥‥、
というコトになりますか。

何度も何度もくりかえしたのしむことで、
レストランはどんどん馴染んでくれる。
お店の人とお客様である自分が、
長い時間をかけてちょっとづつわかりあい、
まるで肌着が体になじんでいくように、
自分の気持ちにピタッとよりそうようになる。
いて心地良い場所になるのですネ。
一年に一度だけ、とびきりの場所で外食をしても、
それは緊張するだけで
ココロおきなくたのしむようなコトにはならない。
そして、何度も何度もくりかえすコトが一番、
たやすくできるのが朝食。
比較的、気軽な値段でたのしめるというのも
理由のひとつ。
同じ時間帯にいけばおんなじスタッフさんに、
出会える確率がたかまるというのも理由。
けれど一番大きな理由は、
「朝食のメニューにはあまり変化がない」というコト。
季節によってちょっとづつ食材だったり、
調理方法が変わったりすることはあるけれど、
基本的にはだいたい同じ。
どんな料理があるのかを、
すぐに覚えるコトができるし、
それに対して自分の好みを伝えて
反映してもらうこともわりと簡単。

例えばニューヨークのボクのオキニイリの店。
さすがに多くても年に数回しかいけぬ店です。
毎回、ボクのコトを覚えてくれていて
「お帰りなさい、ひさしぶり」
と迎えてくれるかというとそんなコトはない。
いつも同じスタッフに出迎えられるということも、
確約されているわけじゃありませんし。
見知らぬスタッフ。
あるいは、たまたまボクを思い出してくれぬスタッフに、
ボクはこのお店のコトをよく知っているのですよ‥‥、
と伝える秘密の呪文がひとつあります。

「今日も、スクランブルエッグを食べに来たのだけれど、
 ベーグルは何がオススメ?」

自然に聞けます。
季節でメニューが変わって当然の、
コース料理が売り物の高級レストランの
ディナータイムではこうはいかない。
毎回、行く度、
前の経験がリセットされるコトがほとんど。
だから、かなりの回数通わなければ
自分の店のようにふるまうコトが出来ない。
朝ご飯なら、半年前の、
あるいは一年前の経験を活かすことがたやすくできる。
それが近所の気軽にいけるレストランの朝ならなおさら。

レストランでおなじみになるとはどういうコトで、
どういう気分か。
それを比較的簡単に味わうコトができる場所がご近所で、
時間が朝‥‥、というコトなのです。
是非一軒、あなたの家の近く、
あるいは会社の近くに
朝をたのしむことができるお店をみつけてみましょう。
ステキなお店とのおつきあいの第一歩。




ところで明日からの週末は一年のうちで
世界が一番夢見がちになるクリスマスイブ、クリスマス。
もう大切な人とのとびきりの食事をする
レストランを決められましたか?
もしまだだったら。
もし迷っていたら。
今、一番、長いお付き合いをしたいなぁ‥‥、
と思える気になるお店に電話をかけてみましょう。
こんなタイミングで
予約なんてとれないかもしれないけれど、まずはお電話。
そして聞きます。

「是非、皆さんとステキなクリスマスを
 過ごしたいのですけれど、
 まだテーブルは残っていますか?」

すでにおなじみのお店だったら、
「いつもお世話になっております」。
まだおなじみと言うほどのお店でなければ、
「何度か伺ってステキな店だなぁと
 ずっと思っておりまして」と一言そえれば、
そのお店のコトを大切に思う
あなたの気持ちは伝わります。
クリスマスって、みんなが互いに思いやり、
みんなでシアワセな気分にひたる
イベントなんだと思うのですネ。
だから、お店の皆さんとクリスマスを祝いたい。
お店の人はその一言で、あなたのファンになるでしょう。
運良く予約がとれればシアワセ。
あなたがお店に持っていくべきクリスマスプレゼントは
笑顔と感謝の気持ちだけ。
もし、あいにく予約をとることができなくっても大丈夫。
お店の人はこういうでしょう。
「クリスマスの翌週ならば、
 ユックリおもてなしさせていただくことができますが、
 いかがでしょうか?」
お店の人からの思いがけぬ
数日遅れのクリスマスプレゼントを
いただくコトができたりします。
どちらにしても、互いが互いを分かり合うキッカケになる
ステキな時間をもてるでしょう。

メリークリスマス、ハッピーホリデー、みなさまへ。





2010-12-23-THU
 
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN