ちょっと早めにお店にはいる。
マネージャーに、
「今日は友人と食事をしようと思ってるんです」。
予約するほどのお店じゃない‥‥、
と勝手に思って当日に。
彼はちょっとビックリ顔で、
それならテーブル選びをまずはしませんと‥‥、と。
いつもひとりで来る店で、
そもそもボクが誰かを連れてくるというのが珍しいコト。
こうした友人。
ひとりひとりがそれぞれ
今年を代表する店を紹介しあう忘年会のボクの番。
まだこの街に不慣れなボクが、
一番気軽に食事ができる店を選べば、
みんなも気軽にたのしめるんじゃないかと思って‥‥、
と選んだ理由を説明します。
それはウレシイと言いながら、
彼はテーブルをひとつ、指さしました。
お店の隅。
ちょっと小さめの丸いテーブル。
4人で座るにはいささか窮屈かと思うサイズのテーブルで、
なんでこんなテーブルを‥‥、ってボクは思った。
彼はいいます。
大きなテーブルはよそよそしくて、
座った人が仲良くなるのに時間がかかる。
四角いテーブルは、座る場所で役割分担が決まりすぎ、
丸テーブルはみんなが平等。
サービスする方も、
テーブルの上の人間関係を気にしなくってすむから
とてもアリガタイ。
確かにそうだ。
ボクがお店をやったときも、
ワザワザちょっと小さなテーブル選んでおいた。
社交的で博愛主義に満ちたディナーをしたければ、
中国料理の円卓会食。
これも外交世界のひとつの定石。
そう言われれば、
なるほど‥‥、って思い当たることばかり。
しかもココなら厨房の中の雰囲気も
間近に感じるコトができるでしょう。
厨房の空気を感じるコトができるというコトは、
サービスする側からもこのテーブルの空気を
感じるコトができるというコトなんです。
だからココ。
ところでボクはどこに座ればいいんだろう?
彼はいいます。
お客様を迎える立場。
入り口を背に座るのがいい。
丸いテーブルとは言えやっぱり、奥の席は上等な席。
招待者が座るべき席は入り口側で、
当然、背中は入り口に向く。
待ち人を待ち、頭を上げたり下げたりしなくてもいい‥‥、
だから落ち着いて、
ジックリ待ててスマートですよ‥‥、と。
いらっしゃる方の特徴を、教えておいていただければ、
このテーブルまでご案内するのが私たちの仕事ですしネ。
なるほど、お店の人の仕事を奪ってしまうコトこそ
バッドマナー。
ボクは彼に、次のように伝えます。
やってくるのは男性ふたりに女性がひとり。
ひとりは東洋系の男性。
背が高くって、日焼けをしてて
しかも身振りがカリフォルニアの人みたいに
大げさなんです。
女性は年齢不詳で、けれど30代半ば。
ブルネットの髪でとてもゴージャス。
今日みたいに寒い日は多分、
毛皮のコートを着てやってくるんじゃないかなぁ‥‥。
そうでなくても毛皮のコートが似合う風貌。
それから彼女は彼氏と一緒にくるはずで、
フランス語訛りの英語をしゃべる小柄で、
でっぷり太って目がクリクリンと良く動く人。
それだけいったらボクはドッシリ、言われたとおり、
入り口に背を向け座って彼らを待った。
スッとグラスにワインが入ってやってくる。
あれって思って顔をあげると、彼がいいます。
テーブルに何も置かずに待っていると、
待たせた人が恐縮します。
こんなステキな会食に、
私の店を選んでくれたお礼に店から、一杯、どうぞ。
なんだかボクは、ここのオーナーみたいな気持ちで、
ボクのお店で友人を待つ優雅な待ち人にしてもらってた。
グラスのワインが半分ほど、ボクのお腹におさまった。
その頃合いで、他のみんなが集まった。
ボクのヒントが良かったのか、
マネージャーが迷わず彼らを
ボクが待ってるテーブルにまで連れてくる。
彼女が本当に毛皮のコートを着ていたのには思わず、
ボクも笑っちゃう。
はじめてきたのにこんなスムーズな案内ができる店って
スゴいよね‥‥、とボクの大学の先輩は言う。
「ミスターサカキのヒントが
とても分かりやすかったモノですから」
って、マネジャーは言う。
どんなヒントだ? って、ボクに聞くけど
さすがに言えない。
ブルネットの彼女がニンマリ笑いながら、
「ロサンゼルスから来た
日系ビジネスマンみたいな奴がくるからって、
言ったんじゃない」って言うから
ボクは本格的に吹き出して、たのしい食事がはじまった。
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