今でも彼女とこの日の夜のコトを話すと、
見事な舞台とふたりで
ひとつのエビを分けあい食べたという、
2つのコトで盛り上がる。
実はそれまでボクは彼女がとても鼻っ柱が強い、
扱いにくい女性とばかり思ってた。
気まぐれで、それまで何かに執着していたかと思うと、
プイッと気持ちを他にそらして周りのボクらを翻弄する。
男兄弟の中でただ一人の女の子として
甘やかされて育った、扱いづらいわがままさん。
そう思っていて、だからその日はちょっと緊張していた。
ところがボクと同じ料理を食べながら、
彼女がつぶやく一言ひとことが
ボクが感じるのと同じような内容なのに、
ちょっとびっくり。
何より彼女の、人を観察するのが好きで、
その観察眼のちょっと意地悪で、
でも愛情に満ちたところがいいなと思った。
それは彼女も同じだったようで、
ずっとボクを新しもの好きで
自分が大好きなひとりよがりな
生意気な奴と思っていたのだという。
まぁ、当たらずとも遠からずなところもあるけど、
彼女はボクにこう謝った。
私はあなたのコトがかなり好きかもしれない。
新しもので自分が好きなコトにかわりはないけれど、
人をたのしませることが好きな
決してひとりよがりさんじゃないってコトが
わかって今日は良かったわ‥‥、と。
それに私、自分が好きじゃない人を、
好きになることはできないから‥‥、って。
ただその「好き」という言葉は
「Love」ではなくて「Like」であった。
そこがとても彼女らしくて、むしろホッとしたのだけれど、
互いの理解を深めることが
「お二人さま用」の料理が持ってる魔力なんだと、
そのとき思った。
同じ物を食べて互いの共通点や、
異なるところを伝え合って理解し合う。
同じモノを前にして、これだけ違った感想をもてた、
それもステキな発見だろうし、
もしかしたら同じ舌をもって生まれてしまったのかもと、
運命的を感じることもステキのひとつ。
だからそれから、「二人用」。
あるいは同じ料理をみんなで分け合うときには、
これぞ相互理解の絶好の機会って
みんなで感想を言い合うコトにしています。
鍋の季節もそう考えると、
みんなが仲良くなる季節なんだなぁ‥‥、と。
だからエマが
「お二人さま用のメニューがあるわよ‥‥、
なんだか試してみたいかも」
と、言ったときにはあまりの意外にびっくりしました。
彼女は誰と相互理解を深めたいのか?
その相互理解は果たして成功裏におわるのだろうか?と。
スリリングにしてエキサイティングな話が次に続きます。
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