055 超えてはならない一線のこと。その26
おいしい餃子を食べるのに一番いい季節。

餃子といっても作り方でいろんなタイプの餃子があります。
中国の北方地方で作られる肉が主役の肉餃子。
香港界隈にいくと、具材のメインはエビ。
エビのすり身をたっぷり入れて蒸し上げる海老餃子が有名。
エビ以外に入るのはネギやタケノコと、
エビが主役の作り方で、
そういう例外がたまにありはするけれど、
餃子といえばニラやキャベツといった野菜が
どうしても欠かせない。

特に日本人の大好物の焼き餃子。
みじん切りにした野菜をくわえればくわえるほど、
食感なめらか。
味わいやさしくいくらだって食べられる、
軽い食感になってくれるのです。
当然、味は野菜で左右されます。

肉の味は安定しています。
もちろん牧草を食べて育った牛には旬があるといいます。
たしかにチーズは、牛乳の収穫時期で
味が変わるというけれど、
餃子になる肉にそれほどの違いが季節であるわけじゃない。

けれど野菜。
特にキャベツは季節によって味や風味、
食感がまるで違って、
餃子を作るときに随分、苦労をする。
餃子の味にこだわるお店はみんなそう言います。



宮崎のほぼ野菜だけでつくる餃子のメーカーさん。
ほぼ野菜という餃子を作ったきっかけは、
宮崎がキャベツやレタスといった
葉物野菜が特産物のひとつだったから。
地元の野菜をふんだんに使った餃子は格別で、
特に春先、やわらかで甘みの強い春キャベツが
旬の時期の餃子の味は格別だと言うのです。

つまり餃子の旬はキャベツの旬。

ところが悩ましいことに、葉野菜の旬は短い。
旬でなくとも十分おいしいキャベツが
しばらく手に入るけど、
そのうちどうしても地元のキャベツでは
おいしい餃子が作れなくなる。

特に夏。
高原であっても南の日差しは強くて、
畑で熱が入ってしまう。
この「畑で熱が入る」というのは、
露地物にとっては避けることができないリスクで、
特に出荷前に直射日光に当たってしまうと、
葉っぱの間に蓄えられた水分の温度が上がって
キャベツを蒸らすようになる。
生のはずが生じゃない‥‥、
そんな状態のキャベツがおいしいはずはなく、
例えばとんかつ屋さんの千切りキャベツにすると
味の差、歴然。
だからキャベツにこだわるとんかつ屋さんは、
キャベツの収穫時間にこだわります。



で、その餃子屋さん。
一時期、夏は営業しないと決めていた。
けれどどうしても夏の間も餃子が欲しいという
お客様の声に後押しされる形で、
日本全国、キャベツを求めて産地を回った。
すると、産地を変えることで
年中、おいしい餃子を提供できることがわかった。
一年を通して日本のどこかに
キャベツの旬があるというコトなんです。

これはある意味「ご馳走」になる。
そう思って、餃子を一年を通して作りはじめる。
キャベツ以外にも、ネギを使って練り上げるあん。
その配合もその日その日の天気の状態に合わせて
変えていくことで、
年中変わらぬレベルの餃子を提供できるようになる。

ところがこんなことを言われます。

宮崎県の餃子屋なのに、
なんで県産品以外の素材を使うんだ。
キャベツ王国の看板を使えばもっと販売先も広がるのにネ。
県民としてこれじゃぁ、応援できないね。
‥‥、って。

なんでいろんな産地のキャベツを使うんだ?
と問われて、「おいしいキャベツにこだわったから」。
そう答えると、それじゃぁ、買い手に伝わらない。
宮崎産といえばそれで十分おいしさが伝わるから‥‥、
と言うコンサルタントまでいたりする。

一体どうしたことなんでしょう。

おいしいものを一生懸命作る努力と
工夫をしている人たちを、信じることができない貧しさ。
その一方でブランドだとか産地だとかを、
無邪気なほどに無防備に信じてしまえる愚かさが、
日本の食をある面、
「過ぎて極端」なものに
してしまっているのかもしれいないんだなぁ‥‥、
と思ったりする。
なやましい。


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2016-04-14-THU



     
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