12月に入ると電話をかける機会が増えます。
レストランに電話をかける機会です。
最近では、ネットで簡単に予約ができるようになりました。
お店によっては、ネット以外の予約受付をしない、
というようなお店もあるほど。
忙しい時間帯に予約の電話を受けるのは、たしかに面倒。
ちょっと味気ないけど、しょうがないかなぁ‥‥、
と思うこともあります。
どんなお店なのかを調べるのもネット。
メニューや住所、電話番号を調べるだけじゃなく、
気になるお店をブックマークして定期的に見ると
やる気がわかって面白かったりします。
何年も更新されていない店。
忙しくって、パソコンの前に座る時間もないのかな?
と思ったりする。
かと思うと、毎日のように更新していて、
しかもその内容がとても熱い。
多分、大声で挨拶するようなニギヤカで、
ちょっと暑苦しい店なのかも‥‥、
なんて想像できたりする。
うちはホームページなんか作りませんから、
っていう店もある。
でもそういう店に限って、
SNS系のサイトや個人のブログで
熱心に取り上げられたりしていて、
お店の人は感謝と迷惑‥‥、
どっちの気持ちでいるんだろうかって
ドキドキハラハラしたりする。
でも。
ネットなんかでは伝わってこない
お店の雰囲気とか空気感とかってあるんですネ。
電話の向うが想像以上に騒々しかったり、
声に全然、元気がなかったり。
あれ、どうしたのかな‥‥、って心配になります。
ひさしぶりにかけた電話の向こう側で、
聞き慣れた声が元気に「おひさしぶりです」なんて
言ってくれたら、ホッとします。
また行かなくちゃって思います。
予約の電話には、ステキな力があるのです。
ただ具体的に予約の機会がないお店に
電話をかけるのはいささか不躾。
その点、12月にはとても自然な電話の話題があるのです。
「年末年始の営業は、いかがなってらっしゃいますか?」
通常の営業サイクルでなくなる年末年始。
今年はいつまで営業していて、
来年はいつからはじまるのか。
知りたい情報なのだけど、
その情報をネットに反映させるお店は結構少ない。
毎日、今日のおすすめメニューをつぶやく熱いお店も、
なぜか年末年始の営業のコトは
言い忘れることが多いようで、
だから電話をして聞いてみるのは、とても自然。
当然、飲食店にとってはかきいれ時です。
営業のじゃまにならぬ時間帯を選んで話は手短に。
とは言え、声で「サカキさんですか‥‥、
おひさしぶりです」なんて身元がバレちゃうこともある。
今年は30日までで、しかもその日は
まだご予約が入ってなくって暇なんですよ‥‥、って。
そんなコトを言われたら、
また行かなきゃいけなくなっちゃうじゃない‥‥、
ってそんなサプライズもまたよしとする。
声のお歳暮みたいなモノと思ってせっせと電話をかける。
そうそう。
去年の年末。
情報収集のつもりで、
シーフードがおいしいので有名な
イタリア料理のお店に電話をかけた。
そしたらあっさり、サカキ様ですか?
とバレちゃって、それで年内最後の営業日に
予約をとったのですネ。
お店に行く前に野暮用があり、
それで遅めのスタートになっちゃいそうです‥‥、
って連絡をした。
そしたら、思いっきり遅くてもいいですよ‥‥、って。
それで安心してお店に到着したのは
9時くらいだったでしょうか‥‥。
お店の人がこういいます。
お店の中は思った以上に静かで、
しかもほとんどのお客様が
そろそろ食べ終える準備をしている。
あらら‥‥、と思いました。
どうしたの?
ってお店の人に聞くとこんな答えにビックリします。
今日は思いがけずお客様が多くいらっしゃって、
魚がなくなりそうになっちゃったんです。
うちは仕入れた魚がなくなると
料理をつくることができないから、
「売り切れちゃいました」ってお客様をお断りしたんです。
ちょうど、サカキ様からお電話頂いたのがそのタイミング。
でも、安心してくださいね。
サカキ様の分はしっかり残しておりますから‥‥、と。
何があるの? と聞いたら、
厨房の中に入ってご覧になりますか? って。
見たらズラリと魚介類が並んでるんです。
どれにしようか‥‥、ってしばし悩んだ。
そしたらシェフが
「明日からしばらく休みですから、
残ってしまってもしょうがない。
だから全部召し上がってみてはいかがでしょうか?」って。
新しい年をむかえる準備をお店の人たちが粛々とするなか、
その年、最後のお客様の栄誉と共に
料理をしっかりお腹に収め、
伝票みたら「残り物の一掃セールができたお礼に」と、
ほどよき値段が書かれてあった。
電話をかけることのシアワセ。
それはすなわち、人と人とがつながるシアワセ‥‥、
と思った去年の年末でした。
さて、また来年。
みなさん、良きお年をお迎えください。
一年、ありがとうございます。
発行年月:2015.12
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著者:サカキシンイチロウ
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「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
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博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
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