おいしい店とのつきあい方。

005 外食産業で働くということ。その5
家庭料理がいつも同じ味だったら。

母はレシピを作るのが得意な人でした。
なにしろ父が経営していた飲食店の
ほとんどすべての料理のレシピを
母が作っていたほどだった。

調理人が作る料理を、誰でも作れるようにする。

母は主婦です。
プロではない主婦でも作れるように
プロの料理を説明するコトができれば、
プロは絶対いつも同じ料理を同じように
作ることができるだろう‥‥。
それでレシピを次々作ったのです。
今でもその時のレシピがぎっしり書かれた手帳が
家宝のように母の手元に置かれています。

ところがそんな母も、家で料理を作るときには
レシピを絶対見なかった。
レシピを見ないどころか計量カップのようなモノも
ほとんど使わず、ほぼ勘をたよりに料理を作る。
玉子焼きにしていも、味噌汁にしても
日によって甘かったり塩辛かったり。
いつもおいしくはあるのだけれど
ちょっとずつ味が違って仕上がるのです。
あんなに仕事でたくさんレシピを作っているんだから、
家の料理もレシピ通りに作ればいいのに‥‥、
って言うと、レシピ通りに作ると
レストランの味みたいになっちゃうから、嫌なんだって。

「今日は暑いからちょっとお味噌汁の塩味を
強くしてみようかなぁ‥‥、とか、
昨日はみんなでたくさん歩いて疲れてるだろうから、
玉子焼きをちょっと甘くしてみようかなとか、
みんなのことを考えながら工夫するのがたのしいの。
それに、いつも同じように料理を作るのなんて、
仕事みたいでつまらないもの‥‥」

って。

さてこの母のエピソードが、
先週のクイズの答えのヒント。
クイズは、

いつも同じようにおいしいお店。
いつも同じようにまずい店。
おいしかったりおいしくなかったりするお店。
どの順番でいい店なのか‥‥、というものでした。

飲食店においては「いつも同じ」ということが
何よりも大切なコト。
だから答えは、いつも同じようにおいしいお店、
いつも同じようにまずい店。
おいしかったりおいしくなかったりするお店、
その順にいい店、そして悪い店。

もっとも「おいしい」ということは
主観が判断することで、
ある人にとってはおいしいモノが、
別の人にとってはおいしくないモノだったりする。
だから、「いつもおいしい」と「いつもまずい」は
ほとんど同じことでもあって、
世の中には「三回食べるとおいしくなる」と言われる、
個性的で独特な料理を提供する店が繁盛していたりする。

飲食業界には、なぜ流行っているか
わからない店というのが結構あるのです。
大抵、地域限定の店。
取り立てて変わった料理ではなく、
どこにでもあるような例えばうどんやラーメン、
カレーやパスタと大衆的で日常的な料理を扱う昔からの店。
味や提供方法がかなり独特で、
他の地方の人たちが食べると新鮮‥‥、あるいは微妙。
なんでこんな料理を
みんなおいしいって食べるんだろうってびっくりします。
なかにはあまりにそういうお店が人気があるので、
他の地方でも流行るだろうと思って真似をしたり、
連れてきたりしてお店を作る。
そのほとんどが理解されることなく
ひっそりお店をたたんでしまう。
‥‥、そんな店。

地域の人にとっては食べ慣れているから当たり前の味。
大抵、地元の人はこう言います。
子供の頃からこの味で育ったから‥‥。
中には親の代から‥‥。
いやいや、じぃさんの頃からココのこれはこの味なんだと、
つまり「ずっと変わらずその味だった」というのが
大事なところなんです。

例えばはじめて行ったお店の料理が
とてもおいしいと感心した。
で、何週間かして再び訪れ食べてみると、
あれ、こんな味だったっけ‥‥、って不思議に思う。
前回みたいにおいしくない‥‥、って。
二度目だから驚きが薄れて
おいしく感じなくなったのかなぁ‥‥、
と、友人にその店のことを聞いてみると、
人によっておいしいだとか、おいしくないだとか。
行くたびに味が違って感じるんだよネ‥‥、って、
そんな店にお客様はついてくれない。
だから「いつも同じ味である」ということは大切で、
ならその「いつも同じ味」を
どのようにして作り出しているのか‥‥。

その作り方で「外食産業的」なのか
「飲食店的」なのかが決まる。
来週、説明いたしましょう。

2017-11-23-THU