おいしい店とのつきあい方。

028  シアワセな食べ方。 その19
料理の「そせすしさ」。

調味料の「さしすせそ」。

砂糖。
塩。
酢。
醤油。
そして味噌。

日本料理の基本的な調味料でその順番に使うと、
調味料それぞれの持ち味が発揮されて
味が整いやすいと言われる。
ただこの順番。
地域性のある、なしの順番でもある‥‥、
って考えることも出来るというのに最近気づいた。

「そせすしさ」の順で説明していきましょう。


味噌は地域、地域で味が異なる。
そもそも豆であったり米であったり、
麦であったりと原料自体が異なる上に、
塩の量とか熟成具合とか作り方がまるで違って、
地域の味が確立してる。
かつては地域どころか、
家で味噌を作ることが当たり前で、
家ごとで味が違っていたりもしたから、
全国均一とはまるで言えない。
ハンバーグやステーキがメイン料理で、
和食を売る必要のなかったファミリーレストランで、
セットになるのはサラダとご飯とコーンポタージュ。
味噌汁を売る必要がなかったから、
地域で異なる味噌の味に
悩まされることはなかったワケです。

醤油の味が地域によって多彩なのは
先週話した通りです。
ところがお酢あたりから、かなり様相が変わってきて、
酢そのものは地域地域でそれほど変わらず
「お酢はお酢」。
ただ、お酢をそのまま調味料として使う機会は
ちょっと少ない。
他の調味料と混ぜ準備した
「合わせ酢」として使われることがほとんどで、
その合わせ方に地域性とかお店の主張があらわれる。
醤油と同じく、西に向かうと甘みが強く、
東はスッキリとした酸っぱさを好んだりする。
寿司のしゃり酢が典型でしょうか。
ただ醤油や味噌のように、
「この地域、この街の合わせ酢」の味というものは
それほど厳格に決まっていない。
だから「地方の味<店の味」という図式が
あてはまるコトが多くて、
だから回転寿司は店独特のシャリの味を武器に
日本を制覇していく。
そこに置かれる醤油は
「シャリの味を最大限おいしくする補助調味料」
のような役目で、だから地域の壁を
軽々越えるコトができるというワケです。

塩となると地域の垣根はほぼ曖昧です。
なにしろ長い間、日本の塩は政府が買い上げ
味や成分をコントロールしていたわけで、
今でこそ味や風味が微妙に異なる塩が
多く売られるようになっている。
けれどそれは「調味料」というよりも
「嗜好品としての塩」という位置づけで、
いわゆる塩はいつでもどこでも同じ塩。


さて「そせすしさ」の最後の砂糖。
これも塩と同じくらい全国共通の調味料。
黒砂糖とか氷砂糖、希少糖や和三盆と味わい、
風味の異なる砂糖もあるけれど
料理に使う砂糖と言えばほぼ上白糖。
外食産業における砂糖は、
まず間違いなくそういう砂糖と決まってる。
日本のどこでも同じ砂糖が使われ、
日本のどんな地方の人も同じ砂糖を甘く、
あるいはおいしく感じる。
ここにこそ、日本の外食産業、
あるいは食品メーカーが
全国という市場を相手に商売するとき
たよりにしたくなる秘密があります。

日本の料理は西洋料理に比べて、
砂糖という観点に立つと独特。
西洋料理は、料理の調味料として
砂糖をほとんど使わない。
料理の中には五味が必要。
甘い、辛い、酸っぱい、苦い、塩辛い‥‥、
まとめて五味。
これらのバランスの中で料理は味が整っていく。

ヨーロッパの人たちが日本にきて料理を食べると、
どれも甘いと感じるらしい。
逆に日本人がアメリカやヨーロッパに行くと
料理に一味足りないと思うことがかなりある。
とある調理師学校の
パリの星付きレストランを食べて回る研修旅行で、
砂糖をもっていくことが流行ったことがあったのだけど、
ほんのちょっとだけ砂糖をかけると
いつも食べ慣れた味になるから、
研修旅行がつらくなくなる‥‥、ってそれで流行った。
引率の先生たちはやめさせようとするのだけれど、
ただ彼らが砂糖をかけて食べてる料理の味を見ると、
日本のフランス料理の味に近くてビックリしちゃう。
それほど日本の料理には砂糖が使われる。
あるいは甘みが主張する。


フランスのフランス料理を食べると、
舌が一瞬、物足りなさを確かに感じる。
そこで一生懸命、物足りない理由をイメージしながら
味を探してみるのです。
すると、甘くないなぁ‥‥、
と思って食べてた野菜のグリルのニンジンが、
じんわり甘みを吐き出しながら潰れていくのを発見できる。
とは言え砂糖の甘みのように整ってもいなければ
強烈な甘みでもなく、
そういう料理を食べてお腹を満たしていると、
甘いものが無性にほしくなってくる。
そのカタルシスの先にやってくるのが甘い焼き菓子、
あるいはデザート。
その容赦ない甘みでお腹に蓋をして、
コース全体で五味のバランスがとれるように設計される。

そういえば、料理のすべてが
五味のバランスが取れた日本の料理の最後は、
お菓子ではなく水菓子でした。
つまり季節のフルーツで、
それもほどよく五味のバランスが取れた食べモノ。
よく出来ているなぁ‥‥、って思う。

さて来週。
日本における砂糖のワルサを考えましょう。

2018-05-17-THU