おいしい店とのつきあい方。

043  食いしん坊的 外食産業との付き合い方。その8
焼肉店での氷の使い方。

焼いた肉の上に染み出すおいしい脂。
煙をまとって香ばしさを増し、肉を表面を覆うタレ。
それらをご飯でぬぐって肉だけ食べる。
あぁ、このご飯と一緒に肉を食べたら
どれほどおいしいだろう‥‥、と思う。
でも、我慢。
ご飯はどんどんタレにまみれて色を変え、
ご飯自体が焼肉色にかわってくる。
あぁ、このご飯を口いっぱいに頬張ったら
どれほどおいしいだろう‥‥、と思う。
でも我慢。
まるで「肉を食べるという修行」をしているような食事。


「どうしてもご飯を食べたくなったら
食べてもいいですよ。でも損しますからネ」
と、鬼教官の号令みたいに彼は言う。

脂をぬぐって、タレまでぬぐい肉を食べても
そのうち舌が疲れてくる。
あぁ、ココでグイッと冷たいものを飲みたいなぁ‥‥、
と思います。
できれば泡。
ビールでもいい。
酎ハイでも、ガス圧の強いハイボールでも。
氷をギチギチに詰めたジョッキで
コカ・コーラなんていうのもいいだろうなぁ‥‥、
と誰でも思う。

烏龍茶の出番だなぁ‥‥、と思いきや。
彼は烏龍茶の入ったグラスに指をツッコミ
氷を一個つまみ出す。
舌にのっけて舐めるのです。
みんなも真似する。
氷を舌にのっけた途端に、ホッとします。
こってりとした味や風味で疲れた舌が、
解放されるような感覚。
ゆっくり氷が溶けて舌を潤し、洗う。
味がないものってこんなにステキなことなんだ‥‥、
ってしみじみ氷を味わってると、
お腹に今までなかった隙間ができるような気がするのです。

冷たいものを「飲んで」
口をリセットさせるとお腹に水がたまるけど、
このやり方だと、肉をもっと食べたくなるのがおもしろく、
次々焼いては御飯の上にのっけて食べて、
氷をなめての繰り返し。
最後はタレまみれになったご飯に
お茶をぶっかけサラサラ食べて、それでおしまい。

みんなどのくらい食べられたのかというと、
肉だけで一人平均700g。
野菜やご飯、タレや調味料ををあわせると
1キロ弱がお腹の中に収まったという結果になった。
調理長が原価計算。
一人あたり4200円弱、売値は4980円ですから
原価割れにはならなかった。
でもみんながこういう食べ方をしたらお店は潰れます。

彼に聞きます。
「おいしく召し上がっていただけましたか?」‥‥、って。

「いい肉、いいタレ。
だからたくさん食べられたんだと思うんですが、
もう後半は肉を焼きながら、
石焼ビビンパが食べたいよなぁ‥‥、とか、
豚バラだとかホルモンだとかも
ここのはおいしいに違いないとか、
『損すること』ばかり考えちゃっていたんです。
食べ放題のお店で、『損しないように』と
思って食べると、いつも大体後悔しちゃう。
損しないことと、得することって
もしかしたら違うことなのかしれないですネ」

‥‥、と。

ボクらはみんなホッとしました。


原価割れ覚悟だとか、赤字覚悟だとか
センセーショナルな謳い文句で人の気を惹く店がある。
でもそれはあくまで「覚悟」であって、
実際、原価以下でものを売ったり
赤字が続いたりしたら潰れる。
だからそんなことは絶対ないのです。

オーダーバイキングで「得するコト」と
「もとを取ること」は別のコト。
食べ放題じゃなくて、取り放題。
あるいは「選びたい放題」なんだと思えば絶対、得する。
たのしめる。

ちなみに氷をなめながら食べるという彼のアイディア。
仕事で料理の試食をしなくちゃいけないときに
拝借してます。
お腹をふくらませることなく、
舌をリセットさせるたのしい工夫‥‥、便利です。

さて次回は、
「得するバイキング」ってどんな店というお話。
バイキングで得をする方法じゃなくて、
「得させてもらえるバイキングレストラン」
の話であります。ごきげんよう。

2018-08-30-THU