おいしい店とのつきあい方。

045  食いしん坊的 外食産業との付き合い方。その10
日本的バイキングのはじまり。

バフェ。
ビュッフェにブッフェ。
ホテル業界の人たちの間では
「バフェイ」と呼ぶのが一般的だったりする「Buffet」。
日本ではやはり「バイキング」という方が
伝わりやすいのでしょう。

北欧に「スモーガスボード」という
伝統的な料理スタイルがあります。
レストランの真ん中に大きなテーブルを置く。
そこに料理を並べて、
周りを取り囲むように客席が配される。
どこに座っても並べられた料理の気配を感じ、
どこのテーブルからも食べたい料理の場所に
すんなり移動でき、なにより料理の内容を
見て選ぶことができるというのが特徴。

そしてその特徴に惚れた日本人が
今から60年以上も前にいた。


ホテルのシェフです。
日本でまだ一般的ではないフランス料理を
一人でも多くの人に食べてもらいたい。
食べてもらえれば気に入ってもらえるのはわかっている。
けれどそれがどんな料理なのかを説明しようとしても
なかなか伝わらない。
伝わらないとたのんでもらえないから、
作りたくても作れない。
さぁ、どうしよう‥‥、
と悩んでいた時に出会ったのがこのスモーガスボード。

料理を見て選べるのです。
北欧の料理ですからほとんどがマリネ類。
スモークサーモンやニシンの酢漬けなどが中心で、
温かい料理はミートボールのようなものと質素であった。
けれどこの料理をフランス料理にかえれば
十分にホテルのレストランでも通用するのではないか。
なにより、言葉で説明するのがむつかしい新しい料理も
見せれば伝わる。
よし、やってみようとはじまったのが
日本におけるバフェのはじまり。

帝国ホテルでの出来事でした。


この新しい料理のスタイルをどう伝えようかと
ネーミングで苦労します。
スモーガスボードでは伝わらない。
北欧由来のスタイルです。
北欧といえばバイキング。
なにやらもりもり料理を貪り食う人たちの
イメージもあって、食べ放題というこのスタイルに
ぴったりじゃないかと
それでバイキングと名付けたという話は、かなり有名。
今でも日本のバイキングの生みの親である
スモーガスボードのお店は赤坂で営業中。
お店の真ん中に料理が置かれた
大きなテーブルがあるというのは昔と変わらず。
一方、帝国ホテルのバイキングレストランも
料理が並んだテーブルが客席ホールの真ん中に
「島」のようにおかれるスタイルを
ずっと守って営業している。

細長いカウンターには料理が並ぶ辺が2つ。
その片方が壁にくっつけられてると、
料理を並べることができるのはたったの1辺。
そこに人が集まりますから行列になる。
ところがその細い長方形のカウンターを
徐々に正方形に近づけていくと辺は4辺。
それをレストランの真ん中に置けば
「入り口も出口もない」、
どこからでも料理をとりに近づける
「シアワセなバフェ」になるのです。


そういうバフェにやってきたときに思い出したいのが、
日本にバイキングレストランを生んだシェフの想い。

調理したての料理を売らず、作り置きの料理を並べて
商売をするとはけしからんと、
バイキングのことをとやかくいう同業者が数知れず。
そんなときにはシェフはこう言います。

「メニューに20の料理を並べて、
作りたてを召し上がれと言っても
お客様が一度に食べることができるのは
ひとつ、ふたつの料理だけ。
一方、シェフは厨房の中で
いつも味見ですべての料理を食べられる。
これは大いに不公平。
今日ご用意している料理を
みんな一度にテーブルに並べ、
お好きなものをお好きなだけ。
できれば一口づつでも
味見をされてはいかがでしょうか‥‥、と、
お勧めできるバイキングとは
なんとすばらしい料理スタイル」
と。

さぁ、そうしたシェフの思いを叶えに
バイキングレストランの料理を食べる。
おしゃれな上に
ステキなお客様になれるのだろうと思います。

2018-09-13-THU