飲食店で使ったお金。
ありがとうございます‥‥、とお釣りを手渡しながら
深々とお辞儀するその人の懐には
一体、どのくらいのお金が入るんだろう。
ある飲食店ではアルバイトのサービススタッフの
意識を高めるために、
こんな説明を初期教育のときにするといいます。
客単価が1000円ほどの気軽なレストランです。
お店のテーブルはほとんどが4人席。
一人客はほとんどおらず、二人連れか家族客が中心。
だからひとテーブルあたりの平均客数は3名です。
お客様がテーブルについて食事を終えて帰られるまで
要する時間が大体45分。
後片付けをして次のお客様を案内できるようになるまで
大体5分かかるから1時間でほぼひと組が
そのテーブルを専有する‥‥、ということになる。
一人前のサービススタッフになると
一度に4テーブルのサービスができるようになる。
それ以上のテーブルのサービスをしようとすると
サービスが行き届かなくなって、
お客様に迷惑がかかるから
担当するのは最大4テーブル。
1テーブルに平均3人座るから、
1時間でもてなすことができるのは
平均12名ということにもなる。
平均客単価1000円をそこに掛ければ、
サービススタッフが1時間に稼ぐことができる売上は
1万2000円。
ただそこから原料費や家賃や諸々の経費を引いたものが
人件費として計上される。
「うちのお店の場合、
人件費は売上全体の25%と決められているから、
あなたは1時間で3000円の
人件費を稼ぐことになるんですよ」
‥‥、と。
「ただ、あなた一人で
お客様をもてなしているわけじゃないですよね。
調理をしてくれる人たちがいる。
あなたが働きやすいように
環境を整えてくれている本部の人や店長さんもいる。
だからあなたの取り分は、稼いだ人件費の3分の1。
1000円になるんです」
そう教わると働き方が変わるといいます。
「今日一日、自分の給料に見合った
働きができたかどうか反省し、
どうやったら売上を上げることができるんだろう‥‥、
と試行錯誤ができるようになる。
数字を意識しながら働くことで、
成長できるしなによりお客様に対して
本当の意味でやさしくなることが
できると思うんですよ‥‥」
と、そこの教育担当者は説明していた。
かつて飲食店は30〜35%ほどの人件費を
払うことができる産業でした。
けれど過去10年ほどの間、
食材コストや、ガス・電気代など
料理を作るためのコストは上がる一方でした。
対して飲食店は販売単価を上げることに臆病で、
人件費を使わぬことで利益を搾り出す努力をした。
結果、人件費は25%前後が
普通の水準になってしまった。
とても厳しく切ない事情。
しかもその25%を何人かでわけることになるから、
サービスをしてくれたその人自身の
懐に入るお金は商品価格の8%から10%。
1000円のランチをたのんで、
にこやかにそれをサービスしてくれた人の
笑顔の価格がたったの80円くらいなんだ‥‥、
と思うと、なんだか申し訳ないような気持ちで
いっぱいになる。
一方、その1000円のランチ代を
クレジットカードで決済したとしましょう。
その売上高のうち4〜8%が
手数料としてクレジットカード会社にもっていかれる。
1時間近く、同じ空間にいて
自分のために一生懸命がんばってくれた人に支払う
対価とほぼ同じだけのお金を、
遠くにあって同じ空間、時間を
一切共有することのない人に払ってしまう行為‥‥、
それが「支払いはこれでね」と
クレジットカードを差し出すことだと思うと
小さな罪悪感をともないます。
クレジットカードの利便性が、
お客様の購買意欲をかきたてて客数を増やしたり、
客単価をアップさせる効果があるんだ‥‥、
という意見もある。
手数料が経営を圧迫するのであれば、
単価そのものを上げればいいじゃないかという
乱暴な意見もあって、
けれどそんなことをしたら
現金払いのお客様への不公平になる。
昔、クレジットカードを利用の人には
手数料分を負担していただきます‥‥、
というポリシーのお店が結構あったけれど、
今では「手数料等を上乗せするなど
現金客と異なる代金の請求をするといった行為」は
カード会社から禁止されている‥‥、のだそうな。
なんだか不思議。
しかも手数料は売上高の多い大企業は安く、
個人店舗は高くなってる。
不公平なことはすべてにおいて好きじゃないから、
飲食店でクレジットカードを使うことはやめてしまった。
なんだかちょっと、気持ちいい。