今の外食産業の悩みは深刻です。
人手が足りない。
とはいえ外食企業の人たちはずっと昔から
同じことで悩んでいた。
「人不足」は外食産業が生まれたときから
ずっと今に続く環境のひとつであって、
今、突然はじまったことじゃない。
ただ、どんな会社、お店の人も
「今の人手不足はいまだかつてないレベル」
とため息をつく。
「人不足」と「人手不足」はその内容が違うのです。
外食産業が生まれたときから必要とされていたのが
「人」でした。
特に1970年代の後半からは、外食産業急成長の時代。
誰にでもお店を増やすチャンスがあった。
けれどお店を増やすとなれば必要になるのが店長。
店長に運良く恵まれ、お店がどんどん増えていくと
スーパーバイザーだとかと呼ばれる、
複数店舗を管理運営する人が必要になる。
いわゆる幹部社員と呼ばれる人たち。
どちらも特別な知識と経験を必要とする仕事です。
当時、現場で調理スタッフや
サービススタッフとして働くアルバイトや
パートさんはいくらでもいた。
彼らを正社員にして時間をかけて育てれば、
中には幹部社員になってくれる人もいる。
そもそも幹部社員は社長の代わりの仕事をする人。
だから社長の考え方とか思うことを十分知った上で
働かないといけないから、育てることに時間がかかる。
人を育てる時間が追いつかないほど、
お店を増やすチャンスがあった。
それが1990年代までの外食産業。
アルバイトやパートのような「人手」はあった。
けれど幹部社員という「人」に苦労していた‥‥、
つまり人不足ではあったけれど
人手不足ではなかったのです。
20世紀が終わる頃には
外食産業は飽和状態にほぼ達します。
出店のチャンスは縮んでほとんどなくなる。
しかも同時に外食不況がやってきた。
客数が減り、売上も減り必要とされる従業員の人数も減る。
必要とされる人の数が減って
最初に減らされるのはアルバイトやパートです。
彼らの仕事を幹部社員が引き継ぐことで、
ほんの一時期、外食産業は「人不足」からも
「人手不足」からも開放された。
同時に、そもそも人手をかけないセルフサービスや
ファストフードのような仕組みのお店が増えた。
それまでずっと「外食産業はサービス産業であって、
サービスの良し悪しこそがお客様の満足のバロメーター」
と信じ、守り続けてきたものをかなぐり捨てて、
合理性と効率を多くのお店が求めはじめた。
飲食店は、気軽にたのしく働ける場所としての
魅力をなくした。
最初はアルバイトやパートといった
「人手」を供給していた人たちが、
魅力がなくなったと感じ、
それに続いて正社員や幹部社員が不安を覚える。
だって、本来、バイトやパートでできる仕事を
幹部社員がしているわけです。
それで今まで通りの給料をもらい続けることが
できるなんて誰も思えず、外食産業を去る人が増えた。
そして2020年を目前とした今。
外食産業は「人不足」だけでなく
「人手」まで不足するという大変な時期にある。
東京オリンピックの招致合戦で
決め手になったのかならなかったのか、
でも確実に日本で話題になった
「お・も・て・な・し」なるあのフレーズ。
日本の飲食店は、かつてのように
おもてなしに溢れる現場ではなくなった。
和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたというけれど、
それをもって「日本の今の食のすべて」が
世界に誇れるものであるか、
考えれば考えるほど不安になる。
それもこれも人手不足のなせる技。
さて、人手不足を今ここで憂えても
前向きなアイディアはまるで出てこず、
ならば人手不足の外食産業を、どうたのしむのか。
来週からしばらく一緒に考えましょう。