いろんな料理を提供できるということが
贅沢なレストランの条件だったことが、
かつて、ありました。
例えばデパートの特別食堂。
日本料理も洋食も、中国料理も食べられる。
それだけたくさんの調理人を雇っている‥‥、
という証でもあった時代です。
料理の種類が多ければ、
それだけ多様なお客様がやってきてくれ、
売上をあげることもできたから、
お店はこぞって料理の種類を増やそうとした。
それが20世紀という時代でした。
ところが調理技術が「調理科学」にまで進化して、
少ない調理人で多くの種類の料理を
一度に作ることができるようになった。
ファミリーレストランがその代表で、
いつの間にか料理の種類が多いことは
決して贅沢なコトではなくなった。
しかもお客様を奪い合わなくてはならないほどに
お店は増え、人手不足になり、
それが専門店化に拍車をかけました。
飲食店の専門店化にはふたつのタイプが存在します。
ひとつは、食材を専門家していくこと。
例えば「鶏肉」という食材をテーマに
焼き鳥もある唐揚げもある、
ローストチキンも作ってる‥‥、という専門店。
仕入れ力がつくからコスト面でメリットがでたりする。
けれど多彩な料理を作るためには
多様な調理器具を使わなくちゃいけない。
人手がかかるということに関しては、
いろんな料理を売ってる店と同じこと。
お店の人たちが専門店化していきたい最大の理由は
「人手をかけたくない」ことだから、
食材専門店ではなくて
「調理方法専門店」でなくちゃいけないということになる。
調理方法の中でも特に
「どのように加熱するか」が
素材の変化を大きく左右するので
ここでは「加熱法」のことを中心に考えてみましょう。
代表的な加熱方法はこんな感じになりますか‥‥。
焼く。
煮る。
揚げる。
茹でる。
蒸す。
オーブン調理のように間接的に加熱する。
もっとも直接的に、
しかも比較的短時間に加熱できるのが「焼く」方法で、
飲食店で一番多い調理方法は
文句なくこの「焼く」という方法。
焼き物専門店もかなり多くて、
「焼く」といっても炭と網で焼く、
フライパンや鍋を直火に当てて焼く、
串に刺して焼く、鉄板で焼く、と焼き方さまざま。
どの焼き方を選ぶかで、
調理の効率はおどろくほどに変わる。
一番効率のいい焼き方は「鉄板」。
フライパンで焼く時のように
調理器具を手で持つ必要もなく、
ただ食材を並べて鉄板がそれを焼き上げるにまかせれば
料理ができる。
ファミリーレストランがわが世の春を謳歌した最大の理由は
「ハンバーグ」という時代の商品を手に入れたこと。
それに加えて、そのハンバーグをグリドルと呼ばれる
「鉄板」で焼くという
効率の良い調理方法とセットにしたこと。
鉄板の大きさの分だけ、
ひとりで粛々と焼き上げることができる。
だから大型レストランを安心して作り、
展開することができたわけです。
同じ「焼く」という加熱方法でも、
フライパンを操って日本を制覇したチェーンストアはない。
最近、人気のハンバーガーレストランに至っては
バンズを焼くのもパテを焼くのも
ほぼ全ての加熱調理がグリドル1枚の上で完結する。
厨房は小さくてすむし、設備投資も少なくていい。
料理自体がどんなに魅力的で人気があっても、
それを調理する工程が合理的でなければ
ブームを維持することはできないのです。
グリドルを駆使することで一世を風靡したロイヤルホストが
なぜ今になってとんかつ専門店を作っているのか。
それは鉄板で焼くので無く、「油で揚げる」料理だから。
ん? 油で揚げるって、
鉄板以上に効率がいい調理方法なのでしょうか‥‥?
また来週。