1980年台の後半のコトです。
とある厨房機器メーカーが不思議な調理器を開発しました。
斬新なフライヤーだという、
その形はまるで細長いバスタブのよう。
それまでのどのフライヤーより大きく、深く、
横幅は2メートル近くもありました。
しかもフライヤーの油槽の中に、
網状のベルトコンベアが沈められていて、
ベルトの片方に食材を置きスイッチ入れると
油の中をベルトが通って、
反対側に完成品が浮かんで出てくる。
つまり、揚げ物を自動的に作る
ベルトコンベア式フライヤー。
びっくりしました。
実は昔から、ベルトコンベアで調理する
ジェットオーブンと呼ばれる調理器がありました。
長い筒状のオーブンの中に
ベルトコンベアを通してそこで調理する。
ステーキのようなグリル料理、
ピザ、グラタンといったオーブン料理を大量に、
しかも少ない人数で作る調理器として
食品メーカーや給食業者になくてはならない調理器だった。
その工場用の調理器が、
レストランの調理器として応用されたきっかけが
1985年につくばで開催された国際科学技術博覧会。
世界中から集まってくる来訪者を効率よくこなすためにと、当時、日本を代表するステーキチェーンが
ステーキやハンバーグを焼き上げる機能に特化させた
ジェットオーブンを開発し、驚くほどの成果を挙げた。
それまで外食産業の人たちは、
調理効率を上げるために必要なのは
加工食品を上手に使うことか、
調理人の技術を向上させること‥‥、と思いこんでた。
けれどそれとは違った効率の上げ方があるんだと、
新たな厨房機器の開発がブームになった。
そんな時代の新技術です。
その新技術を使って、
一体、どういうお店を作るべきか‥‥、
当時、その技術をほぼ独占的に手にしていた会社が
たまたま商社で、輸入エビを大量に扱っていました。
そうだ、天ぷらだ。
どうせやるなら価格破壊型。
手頃な値段でお腹いっぱいになることができる、
天丼専門店をやったらおもしろいんじゃないかと
できたのが「てんや」です。
このベルトコンベア式のフライヤー。
改良に継ぐ改良でおどろくべき調理器具として
完成していきました。
油を温めると、鍋の中で対流が置きます。
表面に近いところの温度は高く、中間部分の温度は低い。
その温度差を利用して、
ベルトの位置を調理工程に合わせて上下させれば、
最初は中火で衣をカチッと固め、
弱火で芯まで火を通し
最後に高音で揚げきり衣をサクッと仕上げる。
そんな職人技を自動で簡単に、しかも確実に再現できる。
天ぷらを揚げた経験のない人にも
おいしい天丼が作れる‥‥、というわけです。
ヒットしました。
今では200軒を超える規模のブランドになり、
海外にまで出店する勢い。
当初、経営していた商社から経営母体も
ロイヤルホストの運営会社に変わってますます成長してる。
そもそも天ぷらがベルトコンベア式フライアーに
本当に適した料理かというとそうとも言えない。
天ぷらの衣はとても脆弱で、表面サクサク、
中をふっくらと仕上げるためには
やはり普通の鍋で経験と勘をたよりに
揚げることが望ましく、
そこで彼らは科学を総動員する。
例えば製粉メーカーが、
ベルトコンベア式のフライヤーに適した粉を開発したり
油も天ぷらをサクッと仕上げるのに
適したように最適化する。
でもそういう工夫でできた天ぷらは
どこか科学の香りがただよう。
実は、スーパーマーケットの
惣菜売り場のような場所でできる天ぷらも
同じような工夫をもとに作られていて、
食べる人たちはこんな落とし所をみつけて我慢する。
だって、安いんだからしょうがない。
ところがです‥‥。
パン粉をまとわせて揚げる、
例えばトンカツのような料理に対して
コンベア式のフライアーはとても優秀。
ある意味、フライを揚げるために作られた調理器ともいえ、
なのに導入の当初、それが使われた場所は
とんかつ専門店でなく天丼の店だった。
なぜなんだろう‥‥、と来週、説明いたしましょう。