おいしい店とのつきあい方。

082飲食店の新たな姿。その2
ジェイミー・オリヴァーの失墜。

ちょうどこの原稿を書こうと準備をしていたときに、
イギリスから気になるニュースが飛び込んできました。
ジェイミー・オリヴァーが経営するレストランチェーンが
破綻した
‥‥、というニュース。

びっくりしました。
ジェイミー・オリヴァーといえば、
前回で話題にしたオーストラリアンレストラン
「bills」を経営する
ビル・グレンジャーと双璧をなす有名シェフ。
TV番組をもち、本や雑誌といった
さまざまなメディアへの露出も多く、
スターシェフならぬ
「セレブリティーシェフ」なんて呼ばれたりした人です。

日本で言えば、速水もこみちの体の中に
ラ・ベットラの落合さんの技術と経験を放り込み、
実業の世界に放り込んだというような存在。
‥‥、かな?

日本でも2002年、「Afternoon Tea」
銀座に大型店を開業したとき、
メニュープロデューサーとして名を連ね、
店舗に彼の大きな写真が飾られていた。
本国英国ではかなり手広い事業展開をしていて、
最盛期にはカジュアルなイタリア料理のレストランを
50軒ほど。
フランス料理をベースにしたグルメなデリや、
ステーキハウス、シーフードレストランと、
ジェイミー・オリヴァーのレストラン帝国、
なんて呼ばれるほどの規模でもあった。

その経営破綻。
3年ほど前から予兆はありました。
いくつかの業態が閉鎖され、
多岐にわたった事業が利益を生む事業だけに
集約されていく。
レストランという
時流や人気に大きく左右される産業において、
事業の整理統合はよくある話。

いっぽう、企業の顔を務めるオリヴァーの
メディアにおける活躍は相変わらず。
テレビには出続け、本も出版し続けたし、
自らの名前を冠した雑誌も発刊され続けたし、
食育や給食事業に従事する調理人への支援事業などを
積極的におこなっていた。

だから、事業を徐々に縮小しながら、
ほどよい規模のほどよい会社として
生き残ることができるんだろうなぁ‥‥、
と思っていたのに、なんと経営破綻という最悪の結末。
1000人を超える雇用が失われたとも言われています。

ブレクジットの影響が引き金をひいたという人もいる。

これまでEUのメンバーとして
域内からシェフやサービススタッフを採用する際、
必要ないとされていた
労働ビザの取得手続きなどが煩雑を極め、
スタッフ不足が深刻な状態になっていたと言われる。

食材の調達コストもあがる。

収益が圧迫されることばかり。

なにより景気の先行き不安が
贅沢な外食に対するお客様の気持ちを
どんどん冷ましていく。

ただ本当の理由は、彼のお店が対象とした
お客様の気持ちの変化にあるのだろうとボクは思う。

ジェイミー・オリヴァーがレストラン経営を本格化し、
加速的に店を増やしたのが2008年のこと。
2000年前後の世界的な不景気からイギリスの経済が復活し
小さなバブルが生まれつつあった頃と一致する。

そこで彼が狙ったのが中産階級。

それまで贅沢な外食に対して臆病だった人たちにとって、
縁遠かったイタリア料理やフランス料理といった
専門料理を手軽な値段で、気軽に楽しんでもらうというのが
彼が作ったお店のテーマ、コンセプト。

そして今。
彼らの外食に対する姿勢が
大きく変わり始めているのでしょう。
今まで食べたことがない料理に対する好奇心や、
プロでなくては作り出すことができない
繊細で独創的な料理に対する関心は、
景気がよくて社会のみんなが未来に対する
明るい展望を抱けるときに限って発揮されるもの。
ちょうど日本の平成前後に起こったことが、
イギリスで今、起こっているんだということなのでしょう。

世界中でおこる
「ちょっとした贅沢をたのしむ外食」に対する
ニーズや関心が薄れる現象。
なんだかすごくさみしいなぁ‥‥、と思って
それで寄り道しました。

そんな時代でも元気なオーストラリア的レストランは
どういう存在なのか‥‥。
来週のテーマとします。

2019-05-30-THU