おいしい店とのつきあい方。

005 コロナ時代の飲食店。その2
空っぽの町で。

1週間ごとに状況が変わる。
飲食店に限らず、世界の状況がそういう状態なので
週に1度の更新というのがもどかしくさえある。
理由のない気忙しさとでもいいますか‥‥。
なにをたよりに考え、
なにを目的に書けばいいのかすら
迷ってしまう今日この頃。

ほぼ空っぽの町を歩くと、
それでも営業をしている店や
テイクアウトに活路を見出そうと
試行錯誤する店がたくさんあります。
ボクの家の近所にある、アメリカからやってきた
ちょっと上等なハンバーガーチェーンのお店には
UberEatsのリュックをしょった人が
ひっきりなしに出入りして人気の様子。
数ヶ月前まではパッとしない店のムードが一新しました。

デリバリーはともかく、
テイクアウトに関しては
外出自粛のルールが厳しくなったらままならなくなる。
そうなったら、
どうにかテイクアウトで売上を作れないかと、
今、苦心しているお店の試行錯誤は無駄になる。
無駄になるけど、やってみなくては今の売上を作れない。
さまざまな行動に対して答えが出せない。
さまざまな状況に対して答えを見出すことができない、
という状況が、なんとも厳しくなやましい。

そういえば、先週の終盤から
しばらく休業というお店が増えた。
それも1ヶ月近くという休業です。

飲食業は古い蒸気機関車のような産業。
動きはじめるために時間と準備を要し、
動きはじめると止まろうにも
すぐに止まることがむつかしい。
同時に飲食店は「し続ける」ことでお客様の信頼をえ、
おなじみさんを手にすることができる商売。
その飲食店がお客様に信用してもらうために
営業を休止するという。
なんと厳しく哀しいこと。
店単位で考えても大変なことなのに、
今、産業全体がゆっくり止まろうとしているのです。
再び動きはじめるときに
どれほどのエネルギーを必要とするんだろうかと
今から心配してしまう。

営業を続けるお店もお客様は激減ですから
経営の引き締めを行わなくてはならなくなる。
経費削減で一番効果があるのは
パートやアルバイトのシフトを減らすコト。
ただ正社員と違って働く時間や日数が減れば
ダイレクトに収入にはねかえってくる彼らに、
出てこなくていいということは、
経営者として本来したくないこと。
苦渋の選択です。

地方都市で飲食店舗を10軒ほど経営している
堅実な会社の経営者が、
悩みながらもアルバイトに
しばらくお休みしてくれないか‥‥、
とおそるおそるたのんでみた。
もし、そんなことをされたら困りますと言われたら
赤字がでることも覚悟の上で
今まで通りに働いてもらおうと思いながら、
おそるおそると。
そしたらホッとしたような表情をして、
しょうがないですものねと答える。
いいの? と聞いたら、
「友だちから、いつまで接客の仕事をしてるの? 
って聞かれることが多くなって、
私の方からやめさせていただけませんかと
言おうと思っていたんです」
‥‥、と。

飲食店を経営していると、
営業をやめてしまうと
家賃のような固定経費が払えなくなる。
だから売上に合わせた人数で
お店を開けることばかり考えてしまう。
お客様の目を気にしながら営業してたら、
働いている人たちが
この状況をどう思っているかを
考えることが後回しになる。
確かに、店で働いている自分たちは
厳格な衛生基準に従って、
毎日体温を測っているし
手の消毒も怠りなくおこなっている。
なのに外からやってくる、
どこの誰だかわからないお客様たちは
本当に安全なんだろうかって
お店で働いている人が思っても仕方ない。

お店の人が信頼できないお客様。
お客様を信用することができないお店の人たち。
頭の中で、もし自分が感染したらどうしようと思って
相手を見てしまうと、
自分は被害者、相手は加害者というふうに見えてしまう。
けれどこの問題の加害者は
ただただ新型コロナウイルスだけ。
他のすべてが被害者なのです。
だからこういうときこそ
互いを信用しあわないといけないのだけど、
どう信用すればいいのかもわからない。

今のことばかり考えていると、
日本の飲食業が壊れてしまう。
それに従って食の文化までが崩れてしまうと
絶望的になるばかり。
だから来週は、未来のことを考えましょう。
この現状を教訓として、
どんな飲食店がボクたちの未来の生活を
豊かにしてくれるのか。
小さな夢を語りましょう。

2020-04-16-THU

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