おいしい店とのつきあい方。

028 破壊と創造。その6
あたらしいお店をさがす。

さて、ボクらは
今、一体どんな危機に直面しているんだろう。

お腹がすいて仕方がない。
もしそういう危機しか思いつかないのであれば、
ことを構えてワザワザ戦争など仕掛ける必要はない。
ただ闇雲に、槍を一本、小脇にかかえて
飲食店に突入すればよい。
戦略、戦術など関係なく、
ただただ食べてお腹いっぱいになれば
「空腹を癒やす」という目的は達成される。

でも、お腹が空いているわけでもないのに、
お店のことを考えて気もそぞろになってしまう。
ときには食事をしながらも、
次はどのお店で何を食べようと考えたりする。
どうも「お腹が空いてしょうがない」という危機よりも、
重大な危機が世の中にはある。
それもたくさん。

あの馴染みの店にご無沙汰しちゃってるから、
忘れられるんじゃないかしら。
最近、同じお店にばかり行ってて
あたらしい店に行ってないんだよね。
そもそも今の時期に、
本当に安心できるお店ってあるんだろうか‥‥、と、
危機の種類はさまざまにある。
どれも解決には入念な手順をとらなくてはならない危機で、
例えば「最近、あたらしい店に行ってない」という
危機を例にとって説明してみましょうか。

こういうボクも最近、
あたらしい店に行く機会がすごく減った。
歳を重ねると新しいものに対する興味を
徐々になくしてしまうもの。
それにだいたい新しくできるお店というのは、
若い人たちの好みに合わせてできることがほとんど。
だから果たしてボクが行ってたのしめるものかどうか
不安になったりする。
それにくわえて、贔屓の店はどんどん増えます。
そういうお店に行っていると、新しい店に行く機会が減る。
しょうがないことなのかもしれないなぁ‥‥、
って思いもします。
でも、このままだと自分で
自分がおじぃちゃんになっちゃったことを
認めたみたいでちょっとくやしい。

ちょっとした危機的状況です。

さぁ、どうやってあたらしいお店を探しましょうか‥‥。

まず「あたらしい」という言葉が意味するところを
整理しなくちゃいけません。
ともかくできたてのほやほや。
あたらしければどんな店でもいいんだ‥‥、
というのであれば危機克服は簡単。
街を歩けば新規オープンの看板を
そこここに発見することができる。
ショッピングセンターのような大型商業施設が
ひとつできれば、そこはあたらしいお店の宝庫となります。
再開発ビルに至っては、街まるごとが真新しくて、
そこにできるお店もピカピカ。
出来たばかりが勢揃い。

とは言え、最近の商業施設や再開発ビルの中に
出店できるお店はほとんどがチェーン店。
どこかで見たことのあるお店ばかりで、
「今までにない」とか「どこにもない」とまで言えない、
ハードウェアとしてのあたらしさがあるだけ。
けれどそれでもあたらしいことにかわりない。

チェーン店。
例えばマクドナルドのようなお店でも
できたばかりの店の状態は
他のお店とまるで違ったものになる。
スタッフはみんなういういしくて、
マクドナルドらしさが教育でインプットされたばかりの
やる気溢れた状態です。
慣れない作業にときに
ちょっとギクシャクしたりすることもあるけれど、
一生懸命な空気に少々のことは許せてしまう。

そう言いながら、
マクドナルドのニューオープンのお店をおいかけて
その高揚感をたのしむことが趣味だった友人がいたけれど、
その気持もわからなくない。
けれど、それはまるで毎晩、
運命の女性を探してシングルバーをわたりあるく
バーホッパーのようでもあって、
ボクの考える「あたらしい店を求める」やりかたとは
違うなぁ‥‥。

さて「あたらしい」。
ボクが今必要としている「あたらしいお店」とは
一体どういうお店なのでしょう。
今ここにある危機の分析。
また来週。

2020-10-08-THU

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© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN