みうら |
ああ、もう九州が出てくること
はないんですね。 |
ほぼ日 |
そうなんですよ。 |
みうら |
出てきたら、十州ですもんね。 |
ほぼ日 |
(みうらさんの引いた県くじを見る)
あ‥‥次は、南を一気に制覇で、
沖縄県です。 |
みうら |
いまの人は「へんかん」っていうと、
パソコンの漢字変換だと
思ってる人が多いでしょう。
へんかんというと、ぼくらの世代では
当然、沖縄返還です。
小学生のときには、
まだパスポートが要りましたからね。 |
ほぼ日 |
なるほど、返還は1972年ですね。 |
みうら |
沖縄県にはたくさん島があるというので、
ぼくはいま、しらみつぶしに行ってます。
こういうビジュアルの人間にとって
沖縄が似合わないことくらいは
知ってますよ。
みんなから「何しに行ってるんだよ」って
言われているという噂も
耳には届いてないけど、知ってます。
でもオレが沖縄が好きだって
いいじゃないですか。
沖縄といえば、ダイビングをしたり、
自然が大好きだったりする人が大半という
エコなイメージがありますよ。
‥‥オレだって、好きなんですよ。
そりゃ、オレのイメージからして
青森県のキリストの墓行っとけ、
と言われがちなのもわかりますが、
でも「オレだって」
と言いたいところがあるんです。
自腹で行ってるわけですから。
「泳げんの?」などとも言われがちですが、
泳げないですよ。
泳げないうえに、島に行きますとね、
車で回らなきゃなんないじゃん、
という不安がありますね?
免許もないです。
泳げなくて免許もない人間が
沖縄県に行ってはいけないんですか、
ということを、
バシっと言いたいわけですよ。 |
ほぼ日 |
たしか、飛行機も‥‥。 |
みうら |
飛行機も苦手でした。
もともと、ぼくらは
パニック映画の世代ですので、
「ポセイドン アドベンチャー」で船、
「サブウェイ パニック」で地下鉄、
「エアポート」シリーズで飛行機、
3つの乗りものが全滅なんです。
乗ったら機長がアラン・ドロンだったり、
チャールトン・ヘストンの場合は
気をつけろ、というとこですよ。 |
ほぼ日 |
はあ。 |
みうら |
そんな障害を越えて
沖縄県を好きなわけです。
船もすっごい苦手ですけども、乗って、
久米島に行ったり、波照間島にも
黒島にも行きました。
それを人に報告すると必ず
「やけてねぇじゃねえか」と言われます。
沖縄県に行くと
やけなきゃダメなんですか、と
もう一回言いたいです。
白いままで帰って来ても、
それも沖縄県なんですよ。
ぼくは、3か月ほど前、
石垣島に行きましたが、
なぜやけなかったか、
理由ははっきりしています。
石垣島鍾乳洞と具志堅用高記念館、
このふたつしか行ってないからです。
具志堅用高記念館は、
こう言ったらなんですけど、
入口にいる人が、やる気がないです。
|
ほぼ日 |
‥‥はははは。 |
みうら |
その日は定休日だったんでしょうか、
ちょっとわからないんですけども
入口におじさんは、おられたんです。
そこに具志堅用高さんの
グッズが売っていました。
ぼくは当然欲しいわけですよ、
「具志堅用高さんの
写真が入った写ルンです」
が。 |
ほぼ日 |
はははは。 |
みうら |
ぼくは「写ルンです」を集めてるんです。
各土地の「写ルンです」があるということも
おいおいみなさんに
言っていかなきゃならないですけども、
当然、具志堅用高さんのも
押さえたいんです。
けれども、そのおじさんは
「いまは、わかんねぇ」と言うんです。
「おじさんがいるじゃないですか」
って、ぼくは何回も言ったんですけど、
「いや、わかんない」
ということで、売る気がない。
あちこち開けるのもめんどくさいし、
いくらかもわかんないし、
という感じでした。
それが‥‥なんて言うんですかね、
沖縄のよさの「ベスト10」には
入るところでしょう。
つまり、商売っ気がないわけですよ。 |
ほぼ日 |
ああ、なるほど。 |
みうら |
もう一方の石垣島の鍾乳洞も
びっくりしますよ。
鍾乳洞の奥、暗いところから、
突然、ピカッと光ってきますから。 |
ほぼ日 |
光が? |
みうら |
「なんだ?!」と思うわけですよ。
それは、鍾乳洞の暗闇の中に、
カメラを持ったおじさんが
立ってるからなんです。
そんで、無防備になった
我々を撮ってきます。
怖いですよ。
まさかそんなところで、待ち受けてるなんて
思わないじゃないですか。 |
ほぼ日 |
よく、遊園地のアトラクションで
オートで撮られるやつがありますが、
そこは手動で‥‥。 |
みうら |
ええ。お台場の観覧車だって、
降りたところに
撮られた写真が売っています。
ですからぼくは、気をつけてはいましたよ。
気をつけてたけど、さすがに鍾乳洞は
のん気にしてました、地下ですから。
ピカーッと光ってきて、
数分後、出口のところに写真が
貼り出してありました。
「よかったら買ってください」
って言うんです。買いたいです。
それはもう、買わしてください。
陽気なディズニーランドとかならいいです。
しかし、わりと陰気とされている鍾乳洞に
ずっと売れずに残っている自分の写真が
どんなものかを考えてみてください。 |
ほぼ日 |
買うしかないですね。 |
みうら |
それからねぇ‥‥沖縄県は、
島ごとに話がありますので、
終わらないかもしれない。
|
ほぼ日 |
沖縄県で連載したいくらいです。 |
みうら |
このお面を見てください。
このお面は、毎年、夏の終わり頃に
波照間島で行なわれている
ムシャーマというお祭りの、
木彫りのお面です。
これは、ミルクさまと呼ばれています。 |
ほぼ日 |
ミルク? |
みうら |
その呼称は、
弥勒菩薩からきたのではないかと
言われています。
ここで、
ちょっと話は昔へさかのぼりまして、
ぼくがはじめて沖縄県に行ったのは
30歳になる手前の、ぎりぎりのときでした。
糸井事務所の石井という奴と
「30までに1回、ナンパがしたい」
ということで、行ったんです。
|
ほぼ日 |
我々の先輩にあたる方と。 |
みうら |
次に、どこにナンパを
仕掛けに行けばいいかを
そこの大将である
糸井さんに訊いたんですよ。 |
ほぼ日 |
我々の社長にあたる方に。 |
みうら |
「沖縄がよかろう」ということで、
ぼくらは決断しました。
ツアーに参加すれば、
羽田空港からモテモテだと聞いたんですが、
計画が遅かったのか、すでに
ツアーはどこもいっぱいでした。
唯一残っていたのが、
ひめゆりの塔観光ツアーでした。
ぼくと石井は、
そのツアーに申し込みました。
空港には、老若男女の
「若男女」がいなくて「老」でした。
「老」の状態で飛行機乗ったぼくと石井は
ここは許してやる、
ということになりました。
石井は免許を持っているので、
赤のカブリオレを
レンタカーで手配していました。
当然、ナンパする役は、助手席のほうです。
「オレかよ」と窓を開け、
何回か声を出そうとしたんですけど、
のどから出ることはなかったです。
空港も許してやる、
ということになりました。
ムーンビーチというところは、
モテモテだと聞いてましたんで
「明日の朝行ってモテモテになろう」
と計画していたところ、寝坊して
昼過ぎに起きてしまい、行ったら夕方で、
もうほとんどの人が帰っていました。
ムーンビーチは許してやろう、
ということになりました。 |
ほぼ日 |
はあ。 |
みうら |
当時はディスコが大流行でした。
ディスコに行ってナンパだ、
とういことになり、
行きましたら、
米軍の方がたくさん来ておられて、
背が高いんです。
これはダメだということで、
ディスコも許してやる、ということに
なりました。 |
ほぼ日 |
はやばやと。 |
みうら |
よーし、次の日は万座ビーチだ! |
ほぼ日 |
いよいよ! |
みうら |
万座ビーチには、教訓をいかして
ちゃんと朝から行きました
「オレら、一緒にいるから
声がかけにくいんだ。
別々ならかけられるにちがいない」
という相談をして、
ぼくはビーチ担当、石井は海担当になり、
分かれて行動しました。
ビーチで30分ほどすごし、
「石井、帰ってこねぇなぁ」思っていたところ、
石井が帰ってきて、
「少し泳げるようになった」
と言いました。 |
ほぼ日 |
はははははははは。 |
みうら |
ナンパをしに行ったんじゃないのか、と
問い質したいところに
「少し泳げるようになった」という
報告を聞いて、びっくりしました。
あいつも泳げなかったんですね。 |
ほぼ日 |
それは‥‥おふたりの友情の旅に
心あたたまります。
で、ミルクさまのお面は‥‥。 |
みうら |
ええ、いまから20年ほど前のそのとき、
石井とはじめて行った沖縄県の、
国際通りのお店で、
このお面を見かけました。
3万円近くしたと思います。
パッと見て、欲しいと思ったんですが、
すごく高いのでやめました。
それが、5年ほど前に沖縄県に行ったとき、
同じ国際通りのそのお店に、
まだ、かけてありました。 |
ほぼ日 |
すごい。 |
みうら |
ものすごい時を経て、かけてあったんです。
「売れて売れて何度でもかけてるよ!」
という感じではなかったです。
なぜかというと、ビニールのカバーが
ものすごいことになってましたから。
よーし、ぼくも、もう大人だ。
ナンパは、もういい。 |
ほぼ日 |
20年たって、
ナンパはいい、と。 |
みうら |
ナンパより、このミルク菩薩のお面が欲しい、
ということで、購入しました。
ぼくはこういうときに必ず、
領収書を取るというケチ勘定があります。
その店のおばさんに
「すいません、領収書、お願いします」
と告げ、領収著をいただきました。
見たら、
「ミルク代3万円」 |
ほぼ日 |
但し書きが。 |
みうら |
「上様、ミルク代3万円」って、
どういうことでしょうか。
相手はよかれと思って書いたんでしょうが、
それは、落とせません。
どんな仕事ならこの領収書を
使えるんでしょうか。
だいなしな領収書をもらって帰った思い出、
それがぼくの沖縄県の思い出です。 |
ほぼ日 |
具志堅用高記念館の売店のおじさん、
鍾乳洞の写真おじさん、ナンパ、
ということで、
あまり王道は出てきませんでしたが。 |
みうら |
ぼくは、こういうタイプの人間ですから
王道をめざしたらモテるわけがない、
と思って、やってきました。
小学校のときから。人がゴジラと言うなら
ガッパと言わなければなりませんでした。
ですからずっと「何か見つけてやろう」と思って
生きてきたふしがあります。
そのうち、日本各地をめぐって
「ああ、発見!」と、
カメラを持っていなくても
こめかみのあたりで「ピピッ!」と
音がするようになりました。
自分の頭の中の自動照準が
ピピッ! ピピッ! ピピッ!
これは言ってみれば、
軽くおかしくなってるんですけれども、
それでも、沖縄県はすごいんです。
本島はさすがに照準が合いますが、
離島に行ったら、
まったくネタが拾えません。 |
ほぼ日 |
「妙なもの」がないんですね。 |
みうら |
ネタがなくて
石垣にへたり込んでしまう
始末です。
焦りました。もう何もない、
ぼくが写真を撮るものは何もない。
へたって、へたって
波照間島に行ったときには、
波照間の「波」という字を撮影し、
『アウトドア般若心経』で使って
ギリギリでした。
あとは、きれいな夕日、きれいな海、
そしてきれいな家並み、
ぼくの入り込む隙がまったくないんです。
3日目に、ぼくはカメラを置きました。
手ぶらで歩くこと、それは、
ぼくの解放でした。
解放だ、オレはもう返還だ。 |
ほぼ日 |
自分の支配から返還ですね。 |
みうら |
伊良部島にも行きました。
びっくりしました。海と陸だけでした。
宮古島にも行きました。
そこの演習場では、
飛行機がゴーって飛んでました。
「あの胴体着陸した飛行機がいる」
と言われて、
思わず「胴体着陸ですか」なんて口走り、
カバンからカメラを出しました。
でも、すぐに虚しいことだとわかって
カメラをぽーんと置きました。
沖縄は、そういうサブカルを
一掃してくれます。ですから、
サブカルでお悩みの貴兄に
ひとこと言いたいです。
それは「沖縄に行け、しかも島」
ということです。
小さい離島がいい。
何もないぞ。
お前の探しものは、机の中も、
引き出しの中も、どこを探してもない、
「それより、ぼくと踊りませんか」
そう沖縄県は言ってくれます。 |
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今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。 |