第3回 書くの好きですか?

糸井 いまは「ほぼ日」があるおかげで、
考えかけのこととか、書きかけのことも、
そのままぜんぶ出せちゃうんですよ。
ですから、小説のときに感じた、
「思いついたときがいちばんたのしいんだよな」
っていうジレンマはもう感じなくてすむというか。
それを思いついたいちばんたのしいときに、
「思いついただけなんだけどさ」って
そのたのしい部分を書けちゃいますからね。
白岩 そうか、そういう感じなんですね。
ぼくの場合は、思いついてから書くんじゃなく、
書きながら書くことが出てくるので、
「思いついたことを作業として書いていく」
っていう感覚はあんまりないんですよね。
糸井 手書きですか? タイピング?
白岩 手書きじゃないです。パソコンです、はい。
糸井 つまり、タイピングする手が、
その筋肉がつぎの動きを要請するんでしょうね。
白岩 そうなんですかね。
あの、文章って、出てきたあと、
いちばん最初の読者が
自分になるわけじゃないですか。
糸井 そうですね。
白岩 だから、その書いてる自分は
いったい誰なんや? っていうと
よくわかんなくなっちゃうんですよね。
糸井 ああ、わかんないですよね。
白岩 実際に書き出したら、
書いてる主体がいなくなって、
出てきたものに対して自分がどう考えるかとか、
それをどう追っていくかっていうことの
くり返しになるので、ぼくはあんまりそれを
めんどくさいと思ったことはないんですよね。
糸井 なるほどね。あの、作家の方って
「主人公が動き出したら
 もうこっちのもんだ」とか、
「キャラクターがわかったら、
 後は勝手にやってくれるから」って、
よくおっしゃいますよね。
あれはかなりほんとうだってことですね。
白岩 そうですね、けっこうほんとうです。
7割くらいは、ほんとうですね。
糸井 7割か(笑)。
白岩 はい、7割くらいだと思います。うん。
糸井 で、3割はこう、道をつけてあげるというか。
白岩 はい。その3割も絶対必要だと思います。
糸井 そうですよね。で、7割は勝手に動いていく。
今度の『空に唄う』に出てくる
おじいさんも、基本的には
どんどん勝手に動いていった感じですか。
白岩 ああ、どうだろう。あの人って、
そもそもぼくのなかにあるのかどうかが
よくわからないキャラクターなんですよね。
いまのぼくとは年齢もかなり違いますし、
お坊さんという仕事もぼくは知らないので。
だから、あのおじいさんの内面は、
たぶんぼくには書けない。
糸井 そうですね、ええ。
白岩 そもそも、ぼくのなかで、
小説に出てくる登場人物って、
半分想像で、半分未知なんですね。
糸井 ああ。
白岩 だから、完全にわかってる部分は、
ひとつもないような気がしていて。
糸井 なるほどね。
でも、わかってる部分がないからこそ、
まるで見てきたかのように
それを書くのがたのしいわけでしょ?
読んだ人が「見たの?」っていうような。
白岩 あー、そうですね。うん。
そう思わせることができたら
いいなと思いますけどね。
糸井 やっぱそういうとこって
たのしそうだなあって思うんですよ。
で、その、知らないおじいさんのことを
見て来たように書けるときって、
最初の読者の自分が気持ちいいんだろうなあと。
白岩 ああ、なるほど。
糸井 それをきっとたのしんでて、
だからこの人は
書くのが好きなんだろうなぁと思ったり。
白岩 書くの、好きなんですかね。
わかんないですけどね、自分では。
糸井さんは書くの好きですか?
糸井 ぼく、大っ嫌いです。
白岩 大嫌いですか(笑)。
糸井 断言しますね。
白岩 大嫌いだけど毎日書けるんですか?
糸井 書けるというよりは
書かなきゃなんないからしてるだけで、
遊んでていいって言われたら
書かないでしょうね。
白岩 そうですか。でも、量でいうと、
すごく書かれてるなって
いつもホームページを
毎日拝見しながら思うんですけども、
糸井 それは自分でも驚きます。
白岩 とんでもない量ですよね。
糸井 ただ、なんていうんでしょう、
わかってることしか書いてないですからね。
わかってないことは、ぼくは書けないんで。
白岩 ああ、なるほど。
糸井 わかりかけのことだったら、
わかりかけのことなんだよって
正直に言わないと書けないんです。
だから、「書いてる量」というよりは
「思ってる時間」が多いんじゃないかな。
白岩 「思ってる時間」?
糸井 うん。それは広告のときでも同じですね。
だから、方法論としては
すごく隣り合わせかもしれない。
白岩 あ、そうか、そうか。
でも、方法論は同じでも、
表現されるものは同じじゃないですよね。
昔の、広告のころに書いていたものと
いま書いているものとで、
ことばの変遷みたいなものってありますか?
糸井 あります。
わかりやすいところでいうと、
広告やってるときはお金をもらうんで、
「お前にしか書けない」って
言ってもらわないと困るんですよ。
白岩 ああー。
糸井 「誰にでも書けるように見えて
 お前しか書けない」
っていうところに着地するのが、
ギャラとしてはいちばん高いんですよ。
白岩 作家性みたいなところですね。
糸井 そうですね。
そういう要素を入れないと、
つぎにまた頼んでもらえないわけですから。
白岩 その要素と企業側の思惑っていうのは
ぶつからないもんなんですか?
糸井 ぶつからないんです。
白岩 ぶつからないんだ。
糸井 うん。
白岩 すげぇ。そうなんだ。
糸井 それはもう、合わせていくんです。
話し合ったり、探り合ったり、教え合ったり。
白岩 そうか、そうか。
糸井 企業がなにをしたいのか。
それはどういう方向のことなのか。
どういう表現ならうまくいくのか。
どっちかが、やりたいことを
100パーセントやるってことはありえないんです。
たとえば、強欲な会社があって、
とにかくお客が買うだけでいいんだよ
って言われても、そんなの書けないんです。
白岩 うん。
糸井 やっぱり、買手としての自分がいるから。
「わかんないことは書けない」
っていうのと同じで、
まず、自分を説得しなきゃなんないんですよ。
白岩 ああ。
糸井 そこがぼくのいちばん重要な方法論で、
いまも変わってないんじゃないかな。
白岩 なるほど。
(続きます)
2009-07-23-THU
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