糸井 | 先日、村松友視さんと話したときに、 「オレはたまたま書き下ろしっていうのが 好きな作家だったんで すごくたのしいんだよね」って おっしゃってたんですよ。 つまり、書き下ろしをしているあいだは 仕事をしているということだし、 それを誰かに預けたら本になって、 「それがオレの仕事なんだ」って 思えることの健康さみたいなものがあって 「悪くないなぁって思ってんだよね」って。 |
白岩 | ああ、なるほど。 |
糸井 | そういう考えもあるなぁと思ったんですけど。 これが、書き下ろしができないという人だと、 たとえば月イチの連載がベースだとすると、 その場所がなくなったとたんに さびしくなっちゃうと思うんですよ。 |
白岩 | そうですね。 場がないっていうのは確かにつらいんですよね。 もう、それを取られてしまったら どうしようもないっていうか‥‥。 |
糸井 | しかし、そういうことを、 ひとりの作家がそんなにも 考えなきゃいけないというのは、 いま特有の問題なのか、 それとも昔から変わらないことなのか。 |
白岩 | 場が持てないっていうことに関してですか? |
糸井 | うん。そもそも、職業作家っていうのが きちんと成立した時代って、 日本文芸史の中で そんなに長くないのかもしれないですね。 菊池寛が「文藝春秋」を出したのは 書けないし、場も持てないし、お金にならない、 っていう人たちの場をつくったわけですよね。 あとは、その、漱石にしても森鴎外にしても 作家のほかに職業がありましたし。 |
白岩 | そうですね。 |
糸井 | もちろん、いくらかの例外は どの時代にもありますけど、 おおづかみにいえば、 いまは作家じゃ食えないっていうより、 そもそも食えてた時代がひじょうに短かった ということがいえるんじゃないかなぁ。 |
白岩 | うーん‥‥じゃあ、今後も、 食える方向性ってのは難しいんですかね? |
糸井 | いや、それはわかんない、どうなんだろう。 まぁ、少なくとも今後は、 純文学とか大衆文学とかいう垣根みたいなものは どんどん崩れていくでしょうから、 「作家」「小説」というくくりからして、 どうなるかはわからないと思いますけどね。 |
白岩 | そうですねぇ‥‥。 あの、「場」という意味では、 糸井さんはインターネットの上に 自分の場をつくられたじゃないですか。 |
糸井 | はい。 |
白岩 | そのときは、どういう思いで 新しい「場」をつくられたんですか? |
糸井 | 乱暴にいえば そのときいた場所がイヤだったからですね。 |
白岩 | 広告の世界が? |
糸井 | うん。広告の世界で、自分がいた場所が、 すごくこう、未来を見て惨めだったんですよ。 そのときはまだセーフだったんですけど、 「まだセーフ」っていうくらいのことって ようするにアウトなんですよ。 |
白岩 | あ、そうか(笑)。 |
糸井 | わざわざ「セーフ」っていうようなことは 「アウト」なんですよ。 |
白岩 | セーフっていうことにしてるっていうふうな。 |
糸井 | そうですね。 で、それはイヤだったんですが、 なにしろぼくはほっとくと何もしない人なんで、 とにかく、ここじゃない場所に 引っ越したかったんですね。 |
白岩 | その場所がインターネットだったんですね。 それは、偶然、出会ったんですか? |
糸井 | そうですね。 そのときはインターネットという場所が やっぱりすばらしく思えたんです。 なんていうか、「おもしれぇぞ!」って はっきり言えるような場所だった。 |
白岩 | あの、ぼく自身も、勝手に 「小説」をそういう場所に思ってるんです。 すごく可能性があるメディアだと ぼくは感じてるんです。 けど、ま、あんまり、 みんなは理解してくれない(笑)。 |
糸井 | おおむね、そういうものは 理解はされないでしょう。 |
白岩 | うん。なんでなんですかね? |
糸井 | しょうがないんですよ。 「好きではじめたこと」って 理解されなくてもしょうがないんです。 |
白岩 | あ、そっか。 |
糸井 | うん。 |
白岩 | 理解させる必要もないのかもしれない。 |
糸井 | あの、たとえばね、 青山とか渋谷とかをずっと歩いてるとね、 いま、どんどんレストランが 潰れていってるんですよ。 もう、笑っちゃうくらい、店が閉まってる。 |
白岩 | はい。 |
糸井 | で、そういう店を見ながら よく行く蕎麦屋に入ったんですけどね、 その店は、お客さんがいないころもあったけど、 潰れなかったんですよ、けっきょく。 で、なにが違うのかなぁと考えたんですけど、 ひとつわかったのは、 「これで食っていけるぞ」とか 「これやったら儲かるぞ」とか 「こうしたらお客さんが来るぞ」とか そういう理由ではじめた人たちの店は 潰れるんですよ。 |
白岩 | ああーー。 |
糸井 | 一方で、ほかになんにもなくって その店をやってる人っていうのは、 味が悪かろうが、お客さんが来なかろうが、 潰さないんです。 |
白岩 | うん。 |
糸井 | ぼくのよく行くその蕎麦屋は お客さんが来るようになったんですけど、 仮にあの店が、 お客さんが来ないままだったとしても、 たぶん、借金くらいはするかもしれないけど、 とにかくなんとか我慢して、 なんとかなるまでやると思うんですよ。 |
白岩 | ああ、その根本的な違い。 |
糸井 | うん。「お前、食えてんの?」 っていうタイプのことじゃなくって、 「ほかになんにもないから オレ、これやってるよ」っていうのは 潰さないでいるんですよね。 |
白岩 | そっか、そっか。 |
糸井 | だから、「好き」ってすげえことでね。 |
白岩 | はい(笑)。 |
(続きます) | |
2009-07-27-MON |