糸井 | 白岩さんは、どういう自分が いちばん儲かるのかとか考えないですよね? |
白岩 | そうですね。うん。 お金のことは、関わってないですね、自分は。 |
糸井 | あの、たとえば、 「じゃんじゃん整形手術してもいい」 っていうタイプの人、いるじゃないですか。 |
白岩 | はい、はい。 |
糸井 | まぁ、誰かが割り切って そうやってどんどん変わっていくのは、 他人としては、ちょっと愉快ですよね。 |
白岩 | そうですね。 |
糸井 | でも、自分がそれをしない理由って なんだろうって考えるんですよ。 |
白岩 | ああ(笑)。 |
糸井 | ほどよく不細工だったり、 もうちょっと背が欲しかったりしても、 その自分とずっとやっていくわけで、 それって、さっきの「潰さないレストラン」の 話に近いかもしれないですね。 |
白岩 | あー、そうかー。 |
糸井 | だって、ばりばり自分を変えてね、 「いちばんモテる男になってやる!」みたいに 思ったってかまわないわけですよ。 |
白岩 | 「いちばんモテる男」に なりたくないわけじゃないですけど、 1日だけでいいですよね。 |
糸井 | うらやましくはない。 |
白岩 | そうですね。 価値を置いてるとこが ぜんぜん違うんでしょうね。 |
糸井 | そうなんだろうなぁ。 いや、おもしろいですね。 ぼくらは若いころに そういう現実的な考え方って あんまりしてなかったと思うなぁ。 |
白岩 | そうなんですか。 |
糸井 | やっぱりだから、 世の中が世知辛くなったんでしょうね。 |
白岩 | 考えざるを得なくなったっていうのはあります。 |
糸井 | こんな子に考えさせちゃダメだって ぼくは思いますけどね。 |
白岩 | あ、そうですか。 まだ考えなくていい年代ですか。 |
糸井 | そんなことはぜんぜん考えないで、 バカなことしか思わずに35ぐらいまで過ごして、 たいへんなことにもなるけど そこまでに吸収した栄養がついてる、 っていう感じだったんじゃないかなぁ、ぼくらは。 いまの子たちはみんな、そんな感じですか? |
白岩 | いや、わかんないですけど。 でも、ぼくが思ってるだけかもしれないですけど、 なんていうか、こう、見渡したときに 助けてくれるような人が いないような気がするんですよ。 |
糸井 | あーー。 |
白岩 | なんていうか、 起こってることの速度がすごく速くて。 実際、ぼくのまわりの友だちも 大勢仕事辞めてますし。 |
糸井 | そうですか。 |
白岩 | はい。ぼくの友だちって、 やっぱり広告とかデザインの業界に 進んでる人が多いんですけど、 情報をずっと取って出ししていくなかで、 「これになんの意味があるんやろう?」 と感じてしまったり、 しっかりと考えて辞めてしまったら そのつぎがなかったりっていう感じで。 社会のある種の セーフティネットみたいなものがなくて、 だから、ま、みんな、不安なんでしょうけど。 そういうことってみんな考えてると思うし、 この年齢になって「考えなあかんやろ」って 思ってるのは自然なことかもしれない。 |
糸井 | いま、おいくつでしたっけ? |
白岩 | 僕、25です。 |
糸井 | あー、25っつったらもうね、 タリラリラーンでしたね、ぼく。 |
白岩 | タリラリラーンでしたか(笑)。 |
糸井 | うん。 |
白岩 | もう広告の世界には入られてたんですか? |
糸井 | ええ、いちおう、 ちっちゃいプロダクションにいて。 で、なんていうのかな、 そのときいた場所っていうのはたのしくてね、 それなりにいろいろ感じつつも、 このまんまかなぁ、どっちでもいいや、みたいな。 ほんとになにも考えてなかったな。 |
白岩 | あー。 「どっちでもいいや」っていうのは まず思えないですね。 |
糸井 | そうでしょうね。 だから、それがやっぱり、ぼくらの時代が 右肩上がりだったということでしょうね。 |
白岩 | ああ、そうか。 |
糸井 | 申しわけありません、ほんとに。 |
白岩 | (笑) |
糸井 | いや、だってね、自分のせいじゃなく、 ラクしてたっていうことですからね。 いや、ほんとに申しわけない、それは。 ほんとになにも考えてなかったもん。 |
白岩 | 考えてなかった。 |
糸井 | うん。そのくせ、生意気なことを言ったりね。 読みもしない全集をそろえてみたり、 関係ないよなーって知りつつ 政治的なお芝居を観に行ってみたり。 |
白岩 | そうかー。そんなに考えなくていいのかなぁ。 |
糸井 | だけど、なんていうんだろう、 国民総生産みたいなことでいうと、 当時の何も考えてない25歳のぼくらと、 いま不安がってる25歳の白岩さんたちを比べたら、 ぼくらのほうが得ていたもののレベルは ずっと低かったと思いますよ。 買えるものの少なさとか、 食えるものの小ささとか、 その、贅沢度みたいなものが。 |
白岩 | ああ、はい。 |
糸井 | 贅沢度でいうとぼくらの若いころの方が ずーっと低かったのにへっちゃらで、 いまの子たちの方がたっぷりしてるんだけど へっちゃらじゃないっていうのは、 これはちょっと切ないですね。 |
白岩 | そうですね。 へっちゃらな人もいるにはいるんですけどね、 そういう人たちを見たときに、 同世代として「大丈夫か?」って やっぱり思ってしまったりするので。 どうなんですかねー、時代なのか、人なのか。 |
糸井 | どうなんでしょうねぇ。 ぼくよりもっと上の人たちは もっと貧乏だったと思うんですけどね。 |
白岩 | ああ、そういえば、ぼくより年上の方、 40代、50代の方にお会いすると、 「お前、ちょっと考え過ぎや」 って言われるんですね。 |
糸井 | ああ、そうですか(笑)。 |
白岩 | なんでそんなに考えるん、 もっと好きなことを考えずにやったらええねんて みんな、言うんですね。 |
糸井 | 関西弁だから関西の人ですね。 |
白岩 | そうですね、関西の人しか そんなこと言わないかもしれない(笑)。 東京の人は余計なこと言わないから。 |
糸井 | 関西の人は上手ですよね、そういう言い方が。 関西、とくに京都なのかもしれないけど、 店主と常連のお客さんが 店のカウンター越しに 「そんなん、あかんがな」みたいなことを 両方で言い合ってて、 たいして繁盛してるわけでもないのに、 すごく明るく元気に 毎日やってたりするじゃないですか。 |
白岩 | やってます、やってます(笑)。 大阪のおばちゃんなんかも究極の セーフティネットみたいなもんですからね。 もう、歩きながら全員に声かけてるし。 |
糸井 | 「なんとかなる感」ね(笑)。 |
白岩 | そうそう(笑)。 でも、なんていうか、 前の世代はなんとかなったかもしれんけど、 オレらの世代、なんとかならへんで、 っていう気持ちがすごいあって。 |
糸井 | うん。でもね、考えすぎなのかもしれないけど、 いったん考えはじめちゃった人は、 「もっと考えればいいんじゃない?」って ぼくはニッコニコ笑いながら言いたいですね。 |
白岩 | (笑) |
糸井 | せっかく、ここまで来ちゃったんだからさ。 その、数学の問題を解くのと同じで、 せっかく、ここまで来ちゃったんだから、 お前しかぶち当たらない壁ってものがあるから、 それを超えればなにか発見があるぞって、 こう、囁いてみたいですね。 そういうぼくも、やっぱり、 考え過ぎた部分はあるもの。 |
白岩 | あ、そうですか。 |
糸井 | あるよ、あるよ。 その、余計なこと考えてたおかげで いつまでも持ち越し続けた 宿題っていうのがあってさ。 で、何年も経ってから、 「あ、あれ、ここで解いてたじゃん」みたいな、 そういう喜びって、ありますから。 |
白岩 | へぇ(笑)。 |
(続きます) | |
2009-07-28-TUE |