白岩 | やっぱり、ぼくらの世代というのは 孤立している面があると思うんですけど、 実感としては、孤立してる反面、 というよりもむしろ孤立しているがゆえに つながりを求めているところがあって。 その、「孤立しているがゆえのつながり」 というものに対して、ぼくは すごくポジティブなものを感じるんですね。 |
糸井 | ああ、はい。 |
白岩 | 今回の『空に唄う』を書いているときは、 すごくそれを意識したんです。 自分がどんなつながりによって 成り立っているのかということを すごく考えさせられたというか。 |
糸井 | まさしくそうですよね。 手を伸ばせばなにかに 触れるかもしれないんだけど、 伸ばした先になにもなかった。 だけど伸ばした行為のなかに 自分のなにかが生まれてきた、みたいな。 そういう構造ですよね? |
白岩 | あーー、そうですね。 |
糸井 | その表し方は見事だなぁと思うんです。 若い子たちの構造って こういうことなんだろうなって思って。 つまり、この主人公の子が 伸ばした手が伸びていく、 そのコマのなかにこそ、希望がある。 そういうお話なのかな。 |
白岩 | そういう話だ、よく考えたら(笑)。 自分でもなに書いてるか わかってないところもたくさんあって、 いろんな人の感想を聞いたときに、 はじめて実感できるっていうこともあって。 うかがっていて、なるほどと思いました。 |
糸井 | で、「これ以上は書かない」っていう けっこう強い確信がありますよね。 |
白岩 | あ、それはあります。 |
糸井 | ね。だから、わかるところまで書いて、 それ以上は書かないと決めたこと、 止めたところがいちばんの意志ですよね。 |
白岩 | はい、そうですね。 |
糸井 | でも、きっと同世代の読者の人たちは、 「お前、作家だったら、 もう2、3ミリ先まで書いてくれよ」 って思うんだろうね。 |
白岩 | そうでしょうね。書かないですけど。 |
糸井 | 書けないよね。わかんないもん。 |
白岩 | わかんないです。 |
糸井 | わかんないもんね。 |
白岩 | そうですね。 |
糸井 | 書き続けるだけなら、 きっといくらでも書けただろうけど。 |
白岩 | 変な形で、つくりたくなかったんです。 つくるのって簡単じゃないですか。 |
糸井 | そうかもしれないね。 |
白岩 | 現実の世界、救いってそんなに 天から降って来るものじゃなくって、 自分の中で折り合いをつけたり、 妥協したりするなかで見つかってくもんだし、 だからきっといまのエンターテインメントに 慣れてる人が読んだら ちょっと物足りなく感じるとか、 なんでもうちょっとつくってくれへんの? と思うんでしょうけど。 |
糸井 | 中学生くらいだったら怒るかもしれないね。 |
白岩 | 怒ると思います(笑)。 前の『野ブタ。をプロデュース』も 同じような感じで止めたので 怒られましたから。 |
糸井 | だから、やっぱりそれが意思ですよね。 「これ以上書きません」というのが作家の意思。 読者も、編集者も、 それを変えられなかったんですね。 |
白岩 | でも、そのあたりのことって すごく自然に決まっていったんです。 たとえばこの話のラストって ほんとにちょっと上向いた瞬間に 終わる感じなんですけど、 その「上向く瞬間」っていうのが いちばん間違ってない気がしたんですね。 人間って、「これがいい」と思って それをやっていくときに、どうしても、 自分を騙していく部分があると思うんですよ。 その、自分を騙していく、 自己満足のようなところまでいって終わったら、 今回の小説を書いた意味がないような気がして。 だから、「上向く瞬間」で終わるのが、 いちばん、真理からずれないというか、 真理から動いていないときに終わっておきたい っていう気持ちがあったんですね。 |
糸井 | うーん、なるほど。 |
白岩 | なんか、そういう気がして。 |
糸井 | ひょっとしたら、この主人公のつづきが、 違う小説になるかもしれないですね。 |
白岩 | あるかもしれないですね。 |
糸井 | ぼくは、なんていうか、この主人公の、 「自信がある」っていう乗り切り方が すごくおもしろかったな。 |
白岩 | 「自信がある」? |
糸井 | お通夜のお勤めをしなきゃいけなくなって、 「お前に任せる」なんて言われて、 どうするのかなと思ったら、 「案外自信があるから」って 乗り越えていくじゃないですか。 |
白岩 | あー、そこ言われたの、はじめてだ。そっか。 |
糸井 | ああいうところ、たとえばテレビドラマだったら もっといくらでも失敗させたり心配させたり っていうことで描いていくんだろうけど、 「自信があるから」で行けちゃうのは 読んでて、おもしろかったですよ。 どうするんだろう、ああ、なんとかした、 みたいなことがポツポツあってね。 そういう「この人しか書かないところ」が ある小説は、やっぱりおもしろいですね。 |
白岩 | それはうれしいです、ほんとに。 そうか、そういう見方もあるんだなあ。 |
糸井 | 読者ってやっぱり 「自分だったらどうするだろう?」 って想像しながら、こう、 丸太の橋を渡っていくみたいなところがあって、 そこで作者が違う橋を用意してくれたり、 違う橋が予想どおりだったっていうこともあるし、 ああ気持ちがいい、っていう騙され方もあるし。 |
白岩 | ああ、そうか、そうか。 |
糸井 | その意味では、この小説の 安定した側に裏切るっていうのは好きだなあ。 |
白岩 | 「安定した側に裏切る」。 |
糸井 | うん、つまり、 不安定だからドラマって起こるじゃない? |
白岩 | ああーー。 |
糸井 | それを安定した側に裏切るっていう。 |
白岩 | それは新しい言葉だ。安定した側に裏切る。 |
糸井 | だからね、そういう話を書くこの人は、 きっとそういう人なんだなぁと思うんです。 |
白岩 | あ、ぼくがですか? |
糸井 | そう。だから、なんていうか、 こうして実際に会うのが すごい心配じゃなくなりますよね。 |
白岩 | (笑) |
(続きます) | |
2009-07-29-WED |