第7回 これ以上は書かない

白岩 やっぱり、ぼくらの世代というのは
孤立している面があると思うんですけど、
実感としては、孤立してる反面、
というよりもむしろ孤立しているがゆえに
つながりを求めているところがあって。
その、「孤立しているがゆえのつながり」
というものに対して、ぼくは
すごくポジティブなものを感じるんですね。
糸井 ああ、はい。
白岩 今回の『空に唄う』を書いているときは、
すごくそれを意識したんです。
自分がどんなつながりによって
成り立っているのかということを
すごく考えさせられたというか。
糸井 まさしくそうですよね。
手を伸ばせばなにかに
触れるかもしれないんだけど、
伸ばした先になにもなかった。
だけど伸ばした行為のなかに
自分のなにかが生まれてきた、みたいな。
そういう構造ですよね?
白岩 あーー、そうですね。
糸井 その表し方は見事だなぁと思うんです。
若い子たちの構造って
こういうことなんだろうなって思って。
つまり、この主人公の子が
伸ばした手が伸びていく、
そのコマのなかにこそ、希望がある。
そういうお話なのかな。
白岩 そういう話だ、よく考えたら(笑)。
自分でもなに書いてるか
わかってないところもたくさんあって、
いろんな人の感想を聞いたときに、
はじめて実感できるっていうこともあって。
うかがっていて、なるほどと思いました。
糸井 で、「これ以上は書かない」っていう
けっこう強い確信がありますよね。
白岩 あ、それはあります。
糸井 ね。だから、わかるところまで書いて、
それ以上は書かないと決めたこと、
止めたところがいちばんの意志ですよね。
白岩 はい、そうですね。
糸井 でも、きっと同世代の読者の人たちは、
「お前、作家だったら、
 もう2、3ミリ先まで書いてくれよ」
って思うんだろうね。
白岩 そうでしょうね。書かないですけど。
糸井 書けないよね。わかんないもん。
白岩 わかんないです。
糸井 わかんないもんね。
白岩 そうですね。
糸井 書き続けるだけなら、
きっといくらでも書けただろうけど。
白岩 変な形で、つくりたくなかったんです。
つくるのって簡単じゃないですか。
糸井 そうかもしれないね。
白岩 現実の世界、救いってそんなに
天から降って来るものじゃなくって、
自分の中で折り合いをつけたり、
妥協したりするなかで見つかってくもんだし、
だからきっといまのエンターテインメントに
慣れてる人が読んだら
ちょっと物足りなく感じるとか、
なんでもうちょっとつくってくれへんの?
と思うんでしょうけど。
糸井 中学生くらいだったら怒るかもしれないね。
白岩 怒ると思います(笑)。
前の『野ブタ。をプロデュース』も
同じような感じで止めたので
怒られましたから。
糸井 だから、やっぱりそれが意思ですよね。
「これ以上書きません」というのが作家の意思。
読者も、編集者も、
それを変えられなかったんですね。
白岩 でも、そのあたりのことって
すごく自然に決まっていったんです。
たとえばこの話のラストって
ほんとにちょっと上向いた瞬間に
終わる感じなんですけど、
その「上向く瞬間」っていうのが
いちばん間違ってない気がしたんですね。
人間って、「これがいい」と思って
それをやっていくときに、どうしても、
自分を騙していく部分があると思うんですよ。
その、自分を騙していく、
自己満足のようなところまでいって終わったら、
今回の小説を書いた意味がないような気がして。
だから、「上向く瞬間」で終わるのが、
いちばん、真理からずれないというか、
真理から動いていないときに終わっておきたい
っていう気持ちがあったんですね。
糸井 うーん、なるほど。
白岩 なんか、そういう気がして。
糸井 ひょっとしたら、この主人公のつづきが、
違う小説になるかもしれないですね。
白岩 あるかもしれないですね。
糸井 ぼくは、なんていうか、この主人公の、
「自信がある」っていう乗り切り方が
すごくおもしろかったな。
白岩 「自信がある」?
糸井 お通夜のお勤めをしなきゃいけなくなって、
「お前に任せる」なんて言われて、
どうするのかなと思ったら、
「案外自信があるから」って
乗り越えていくじゃないですか。
白岩 あー、そこ言われたの、はじめてだ。そっか。
糸井 ああいうところ、たとえばテレビドラマだったら
もっといくらでも失敗させたり心配させたり
っていうことで描いていくんだろうけど、
「自信があるから」で行けちゃうのは
読んでて、おもしろかったですよ。
どうするんだろう、ああ、なんとかした、
みたいなことがポツポツあってね。
そういう「この人しか書かないところ」が
ある小説は、やっぱりおもしろいですね。
白岩 それはうれしいです、ほんとに。
そうか、そういう見方もあるんだなあ。
糸井 読者ってやっぱり
「自分だったらどうするだろう?」
って想像しながら、こう、
丸太の橋を渡っていくみたいなところがあって、
そこで作者が違う橋を用意してくれたり、
違う橋が予想どおりだったっていうこともあるし、
ああ気持ちがいい、っていう騙され方もあるし。
白岩 ああ、そうか、そうか。
糸井 その意味では、この小説の
安定した側に裏切るっていうのは好きだなあ。
白岩 「安定した側に裏切る」。
糸井 うん、つまり、
不安定だからドラマって起こるじゃない?
白岩 ああーー。
糸井 それを安定した側に裏切るっていう。
白岩 それは新しい言葉だ。安定した側に裏切る。
糸井 だからね、そういう話を書くこの人は、
きっとそういう人なんだなぁと思うんです。
白岩 あ、ぼくがですか?
糸井 そう。だから、なんていうか、
こうして実際に会うのが
すごい心配じゃなくなりますよね。
白岩 (笑)
(続きます)
2009-07-29-WED
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