白岩 | 「安定した側に裏切る」ということにも つながるのかもしれませんけど、 ぼくが、広告というものをすごく好きなのは、 人を突き放さないというか、 すごく人を信じているところなんです。 あんなにも「届くこと」を前提に つくられているものって、ないじゃないですか。 |
糸井 | ああ、はい、はい、はい。 |
白岩 | 絵とか、小説なんかは、 見られたり読まれたりしなくてもいいというか、 そういう面ってあると思うんですけど、 広告ってほんとに見られる人を必要としていて、 その、子どもみたいに当たり前に そこを疑わずにつくってるところが すごく人間を信じてる感じがして好きなんです。 |
糸井 | それは、いま現役で広告をやってる人が聞いたら すごくうれしいでしょうね。 |
白岩 | あ、そうなんですか。 |
糸井 | うん、現役じゃないぼくでも うれしかったもん、いま(笑)。 |
白岩 | (笑) |
糸井 | 言い方を変えるとね、 「誰かいる」と思ってるんですよ。 |
白岩 | ああ。 |
糸井 | やっぱり広告って、セールスとは違うんですね。 セールスって1対1なんで、 一生懸命やると口説けるというかね、 「相手をどこかに連れて行く」 っていうようなことなんですよね。 一方で広告っていうのは、 このメッセージは誰かには届くし、 誰かが信じてくれるし、 誰かが笑ってくれるはずだっていう、 そういう「思い」なんですよね。 マスっていうもののなかにいる ほんのわずかかもしれない誰か。 そういう人と会えますようにっていう 思いとか願いに似たものなんです。 ポピュラーソングはみんな、そうですけどね。 |
白岩 | あ、そうですね。 |
糸井 | うん、だからぼくは、 ポピュラーソングがやっぱり好きですね。 |
白岩 | ぼくも好きなんです、ポピュラーソング。 |
糸井 | ああ、そうですか。 |
白岩 | はい。ポピュラーソングの世界で ビッグアーチストと言われる人には なぜか昔からひかれます。 あと、漫画とか読むにしても、どうしても、 『スラムダンク』とか『ドラゴンボール』とか、 器が大きいものにひかれてしまう。 やっぱり、なんていうか、 「人を拒否しない力」っていうのが 共通してぼくのひかれるもので、 それって、絶対に必要だと思うんですね。 |
糸井 | ああ、わかります。 そのあたりはずっとぼくが考え続けている テーマでもあるんですよ。 |
白岩 | ああ、そうですか。 |
糸井 | なんていうだろうな、 平凡とか、普遍とか、大勢とか、 俗っぽさとか、低さっていうと 悪く言いすぎだけど、そういうものをぜんぶ、 いっしょくたにした鍋みたいなものがあって。 |
白岩 | はい、はい。 でも、おいしいんですよね。 |
糸井 | おいしいんですよねぇ(笑)。 そういう例として挙げるのは ちょっと失礼かもしれないけど、 昔、ぼくはファミレスっていうところに 行ったことがなかったんですよ。 ところが釣りをはじめたときに 若い子に連れられてはじめて行ったら、 「なんてすばらしいんだ!」と思って。 |
白岩 | はい(笑)。 |
糸井 | オレ、毎日来てもいいわって 思ったことがあったんですけど、 なんだろうなぁ、 「それ以上を望まなければぜんぶあります」 っていうようなよさがありますよね。 |
白岩 | 「それ以上を望まなければ」。 そうか。そうですね。 |
糸井 | でも、たぶん、ずっといると、 それ以上のことが欲しくなるんでしょうね。 で、もっともっとずっといると、 また愛しはじめたりね。 そのあたりは、もう何層にもなってることで。 |
白岩 | それ、すごくつかみたい実態だけど、 きっと、つかめないんでしょうね。 |
糸井 | うん。少なくとも、 自分の主語をどこかに置かないと まったく解明できないでしょうね。 一回、「じゃあオレはこれが好き」 っていうところに置いてから、 構図をつかみ直さないと。 |
白岩 | そこからなんですね。 |
糸井 | うん。それはね、ほんとに、 しょっちゅう考えることなんです。 なんていうんだろうな、 「こんな平凡なことばが なんで心を打つんだろう」ということについて 「わーかったぁ!」って言いたい気持ちが ずっとあるんですよねぇ。 何十億人もいる人間がそれぞれに、 ある瞬間、あることばを口にすることで 詩人になれるんじゃないかとかね、 そういうことを言いたくなるわけですよ。 |
白岩 | ああ、うん。 |
糸井 | あるんですよ、きっとそれはね。 それが世間一般の価値を 生みだすかどうかは別にしてね。 |
白岩 | 価値って、人によって違いますしね。 |
糸井 | そうそう。 価値なんてものは、歴史の遺物なんだから。 |
白岩 | 「歴史の遺物」。すごいことばだ(笑)。 |
糸井 | だって、ほとんどの価値は、 これから先になくなるかもしれない、 っていうようなものなんだから。 |
白岩 | そうですね、怪しいもんですね。 |
糸井 | 怪しいもんなんだからさ。 だから、そんなことにとらわれずに、 自分のいちばん好きなところでは、 あらゆる人のことばが詩であるっていうふうに なっていったほうがいいんじゃないかなぁとかね。 価値を追っかけるとつかまえられないから、 無価値になんないと。 |
白岩 | 無価値が価値を生む。 |
糸井 | だって、価値っていう概念そのものが なかった時代があるわけでしょ。 おサルに金と銀の区別はつかないわけで、 もっというと人間の社会では 役に立つとか立たないとかっていうことが できてきて価値が生まれたわけだけど、 それだけがぜんぶじゃないよね。 たとえばその、なんでもいいんだけど、 「たいへんだ、逃げなきゃ!」っていうときに そこにいる子犬をひょいっと 拾って逃げたとしたら、 その価値は説明できないじゃないですか。 |
白岩 | できないですね。 |
糸井 | だけど、いいじゃないですか。 |
白岩 | はい。 |
糸井 | 「そんなものは置いていけ!」 って言われるんだろうけど、 それをわかったうえで拾うっていうのは、 もうことばじゃないですよね。 |
白岩 | うん、ことばにならない。 |
糸井 | でも、あるはずだっていうのは 言いたいですよね。 |
白岩 | はい、信じたいですね。 |
(続きます) | |
2009-07-30-THU |