●実は増築!
今回の計画敷地の下には地下鉄の駅があります。
そこは建築物の範囲にあるわけですから、
このタワーは、大規模な再開発である一方で、
古い地下鉄の駅の増築でもあるという、
ちょっと変わった位置づけでもあるのです。
●第2展望台は29階!
東京スカイツリーで一番高いフロアは、
第2展望台で、その高さは450m。
通常、高層オフィスビルの1階分の高さ(階高)は
4.1〜4.4mくらいですが、
仮に、少し高めの4.5mだとすると、
450mの高さにあるフロアは
「100階」に相当します。
でも、東京スカイツリーでは「29階」なんです。
これは、電波塔ですから
オフィスビルのようにフロアが積層していなくて、
フロアが飛び飛びになっているから。
工事現場の「お知らせ看板」を見ていただくと、
階数に31階と書いてありますが、
それは、実は隣に建つ
「東京スカイツリー イーストタワー」
のものなんです。
手続き上一体的に扱っていますから看板では
いちばん階数のある「31階」の表示になるのでした。
●変更申請6回!
工事に取りかかる前には「建築確認申請」という
届出を行政等へ提出して、それが認められなければ
工事を始めることができません。
この手続きは資料をそろえるのに苦労するものです。
一方で、工事開始後に、
設計を変更することがあります。
工事とは、
図面という抽象的なものから、
現物という具象的なものへの
移行期間でもありますから
その間に、たとえば
「ここにチケット売場をつけたいから、
この壁をどかしたい」や
「新たに、ここに大きな通信用アンテナをつけたい」
などといった、程度の差はあるにせよ、
変更が生じることがあるのです。
現在は、2005年の「耐震偽装問題」を受けて、
2007年から建築基準法が改正されており、
一定の誤記や、
簡易な追加説明で適法性が判断できる場合等、
ごく軽微な修正以外は、
建築確認申請書の訂正は
ほぼ不可能になっています。
となると、工事開始後に計画を変更するには
変更申請として、
「建築確認申請」で必要とした資料一式を
出し直すことになるのです。
特に東京スカイツリーは前例のないものですから
変更する際も、手続き上、
大臣認定を取得し直す内容もあり、
1回でも大変なこの作業を6回行っているのです。
●浮世絵を意識!?
デザインをスタートさせた当初、
古今東西のタワーを調べることはもちろん、
江戸文化についても参考としました。
ヴォリュームスタディとして、
歌川広重の「江戸名所一覧双六」を用いて
敷地にあたるところにタワーのヴォリュームを
コラージュして検討してみたり、
同じく広重の「両国回向院元柳橋」からは
風景の構図として、
富士山と三角形
(この絵では櫓が三角形の構図を生んでいます)
の関係を考察しています。
また、菱川師宣の「見返り美人図」も
タワーの立ち姿の参考としています。
デザインとして、浮世絵からダイレクトに
引用しているわけではありませんが、
何らかの影響は受けていそうです。
今となっては、いろいろなところから
東京スカイツリーが見えて、
葛飾北斎の「冨嶽三十六景」さながらですね。
●実は伸びる?
鉄道では、
夏場の熱でレールが膨張することを考慮して、
レールとレールのつなぎ目に少し隙間を空けて、
そこでレールの伸び代を吸収していいます。
ガタン、ゴトンの音はこの隙間があるから。
ただ、最近のレールはすごく長いものを使って
レールの隙間も斜めにすることで
騒音を抑えているのだそうです。
……と、レール=鉄が熱によって
けっこう伸びるんだ〜! という話は
どこかで聞いたことがあるんじゃないでしょうか。
では、鉄骨タワーの東京スカイツリーは?
物質の性質として、
標準温度から温度の上昇または下降によって
膨張または収縮することは免れません。
では、設計上、どのようにしているかというと、
構造設計用の「温度荷重」として
タワー全体に標準温度±30℃を設定し、
構造安全性を確認しています。
「温度荷重」とは、部材が膨張または収縮したときに
部材を変形させる、
温度変化による荷重(=力)のことです。
たとえば、一本の鉄の棒の両脇に
とても大きな錘を置いて、
この鉄の棒を火で暖めたとします。
すると、鉄の棒は熱により膨張して伸びたいのですが、
錘がじゃまをして自由に伸びることができません。
これは逆に見れば、
鉄の棒の両脇から押す力(圧縮力)が作用した
のと、同じことになるのです。
東京スカイツリーの平面の
正三角形の頂点に位置する柱を思い浮かべてください。
この柱は気温の上昇に伴い伸びようとしますが、
その柱に接合されている斜材などがそれを邪魔します。
こうして生じた力は、
自重や地震によって生じる力に加算されて、
その値が規定の値以下になることを検証することで、
それぞれの部材の安全性を確認しています。
ちなみに、東京スカイツリーは、実際には
網目のレース状に鉄骨が組まれているのですが、
これをエイヤと単純な1本の鉄の棒とみなして、
素材の線膨張係数から単純に計算した場合、
50℃だと40センチ伸びることになります。
また、ミクロな話ですが、
日当たりの良い側と日陰との温度差により、
水平方向に変形するということがあります。
もちろん、安全性に問題を生じる話ではないのですが、
工事において鉄骨を建てていくときの風と同様に
スカイツリーをまっすぐたてる上では
とても厄介者になったのでした。
以上、意外な小ネタ集でした。 |