美しいテーブルコーディネートと、
お茶を淹れる姿の、きりりとしたかっこよさ。
茶人・富士華名(ふじばな)さんは、
ふらっと入った茶寮でお茶に魅せられて以来、
20年以上、中国茶、台湾茶、日本茶を研究してきました。
東京都内のアトリエで開くレッスンでは、
お茶だけでなく、フルーツティーやカクテルなど、
さまざまな飲み方を提案しています。
いいお茶は、時間が経つほど味わいを増し、
はじめましての人が集う茶会を盛りあげてくれる、
と富士華名さんは言います。
お茶淹れの技術から、お茶を科学的に理解する力、
そして茶器選びなどしつらえのセンスまで、
一期一会の場を総合的に作りあげる富士華名さん。
撮影当日は、貴重な茶葉と旬の果物を用意し、
シンクーを象徴する深紅のセッティングで、
私たちを迎えてくださいました。
写真:石田真澄
富士華名さんプロフィール >>
茶人。富士華名茶寮研究所主宰。
東京都内のアトリエでレッスンを開催。
YoutubeやSNSでも、お茶のたのしさを発信する。
茶人名の富士は富士山、華名はなんとバナナとのこと。
- ──
- コロナで自宅から出られなかったとき、
富士華名さんのお茶淹れ写真や動画を見て、
なんてすがすがしいんだろうって、
気持ちが安らかになって、深呼吸していました。
今日は、シンクーのカラー「深紅」を意識した、
紅のお皿も用意してくださったんですよね。
そういう心遣いが、もう、うれしいです。
- 富士華名
- この色、今日どうしても使いたくて(笑)。
今日は、1種類めは、白茶のアイスティーを。
2種類めは岩茶(がんちゃ)をお淹れします。
そのあとで、野生の生茶と、
ジャスミンティーにスイカをあわせたカクテルも。
- ──
- たのしみです。
このアトリエを開かれて、何年ですか?
- 富士華名
- 2019年だから、もう3年ですね。
今は月に3回、8人程度のレッスンを開いています。
- ──
- 中国茶を飲みはじめたきっかけは、
なんだったんでしょう?
- 富士華名
- 20年くらい前、10代の学生だった頃、
中国茶やさんが家の近くにできたんです。
中国茶とはなんぞや!って、
ボーイフレンドと入ってみたんです。
- ──
- 中国茶がブームになりかけの頃。
- 富士華名
- そう、そう。
お客さんもそんなにいなくて、ほぼ貸し切りで。
私、じつは、デートって苦痛だったんですよ(笑)。
食事にいっても、食べるのが遅くて、
気を遣ってしまったりして。
でも、お茶は、お菓子をいただきながら、
自分のペースで楽しめて、
気がついたら3時間も経っていたんです。
帰り道、楽しかったね!って。
それから、1週間後に彼の家に遊びに行ったら、
茶器セットが用意されていて。
- ──
- えー!
- 富士華名
- 彼も気に入ったみたいで、
お店と同じセットを買ってたんです。
でも淹れ方が分からないから、本屋さんに行って、
ふんふん、こういうふうに淹れるんだって。
それがはじまりです。
お茶ってすごくたのしいなって、
そのときに思ったんですよね。
- ──
- なるほど。
- 富士華名
- 彼とは別れてしまったんですけど、
社会人になっても、お茶は好きでずっと飲んでて。
でも、ほら、大変じゃないですか、社会人って。
- ──
- 大変ですよね、分かります(笑)
- 富士華名
- 「今日はちゃんと会社に行けるかな」って日もあるし、
満員電車に揺られて、辛い日もあって。
そんなときでも、ていねいに淹れたお茶を飲むと、
自分を自分で癒やすことができるんですよ。
甘いものも、ちょっと欲しくなって、
で、ちょっと食べると、元気になって。
今こんなことで悩んでいるけど、もしかしたら、
こっちの方向にいったらいいんじゃないかなって、
自分で答えを出せることもあるんですよ。
学生時代の彼とのお茶も、そのとき思い出して。
ああ、習おうと思ったんです。
- ──
- そして、先生のもとへ。
- 富士華名
- いろんな先生に習いました。
先生によって淹れ方も違うし、決まりごともないし、
自由でいいんだなと分かったんですよね。
- ──
- 富士華名さんも、
いずれは先生になろうとして?
- 富士華名
- いえ、そういうのはなくて、ただ、知りたかった。
本や雑誌に載っているお茶の味を知りたい一心でした。
でもねえ、飲ませてくれないんです、先生は(笑)。
- ──
- というと?
- 富士華名
- 日本では、いい茶葉を手に入れるのは難しいんですよ。
でも、なぜ飲ませてくれないか分かったのは、10年後です。
- ──
- なるほど、持っていないから、
飲ませることができなかったんですね。
今は富士華名さんご自身が先生になって、
いろんな種類の、おいしい茶葉を集めて。
- 富士華名
- ええ、おもしろい出会いがあって。
あるときSNSで、粋にお茶を飲む方を見つけて、
コメントをしたんですよ。そしたら、そのかたが、
私のバイヤーになってくださったんです。
- ──
- 茶葉の味わいは、やっぱり、違いますか。
- 富士華名
- そうですね。全然違いますね。
たとえば、茶葉って、
フレッシュなときがおいしいかというと、
そうでもなくて。岩茶なんかは、焙煎したては、
火の気が強くて、鉄瓶と合わないから、
開封して半年から1年間は熟成させるんです。
おいしくなるときと、そうでもないときと、
見極めがむずかしいです。
(淹れたお茶を飲みながら)
うん、今日のは、すごくいいですよね。
- ──
- つねにお茶と対話していないと、
見極められない。
- 富士華名
- お茶ってね、命がけで作られてるんですよ。
収穫して、炭をおこして、鍋に葉を入れて、
巻きあげるようにして水分を飛ばしながら、
6時間火を通すんですよ。
すこし休ませて、また6時間‥‥。
神と呼ばれるような焙煎師が、
これを3セット繰り返すんです。
焦げたら、商品の価値としては、終わりです。
煙を吸うので、肺も傷めてしまいますし。
- ──
- すごい世界ですね。
その茶葉を、プロとしてちゃんと淹れる責任。
- 富士華名
- 今はもう失敗はしませんけど、昔は(笑)。
先生と同じ茶葉を使っても、全然味が出せない。
茶葉を30g買って、最後の5gで、
やっと思い通りの味が出せたときは、もう、
泣いちゃうくらいうれしかったです。
- ──
- 淹れ方の所作も、すごくきれいです。
- 富士華名
- ありがとうございます。
私のお茶は、堅苦しいルールはないんです。
でも、必ずお湯がまっすぐに落ちるよう淹れます。
自然と同じく、雨がまっすぐ茶葉に落ちるように。
あとは、余分な空気を入れないように、
茶杯の真ん中をめがけて注いでいます。
空気を淹れてしまうと、
味の密度が弱くなってしまうというか。
今も、しゃべりながら数えてますよ。
何秒、何分‥‥って(笑)。
- ──
- おいしさの裏付けが、ちゃんとある。
- 富士華名
- じつは水も、同じブランドを3つブレンドしています。
湧き水だから、季節によって、
水の質が変わってしまうんです。
1種類だけだと、お茶の味がうまく出なくて、
「この味を淹れたい」と狙った味が出ないんです。
だからお茶会があるときは、朝、水も全部試飲して。
- ──
- 朝一番は味覚がするどいから‥‥?
- 富士華名
- いいえ(笑)、ペットボトルのふたをあけたら、
フレッシュなうちに使いたいじゃないですか。
前の晩にあけちゃうと、味が変わってしまうから。
- ──
- そこまで‥‥!
- 富士華名
- ふふふ、はまると面白い世界ですよ。
死ぬまで追い続けられるでしょうね。
- ──
- 果物を使ったり、カクテルのレシピも
たくさんお持ちですよね。
はじめて見たとき、びっくりしました。
どうしてこんなレシピを思いつくのだろう?って。
- 富士華名
- ありがとうございます(笑)。
お茶は究極、茶葉、お湯、火だけで淹れます。
でも、カクテルにはシロップや果物を足せるので、
そこがすごく面白いですね。
たとえば、緑茶は花の香りが足りないから、
華やかにするにはどうしよう?
っていうといころから発想していくんです。
だったら薔薇を使ってみようかな、とか。
生け花みたいに、花そのものが美しくて、そこに、
自分なりの美しさを足すことで、さらに良くできる。
私は、そういう考え方をしています。
ただ混ぜるだけだと、つまらない。
- ──
- おもしろいですね。
- 富士華名
- そうそう、私がお茶席でカクテルをはじめた
2017、18年くらいって、
ほかの茶人さんから叩かれたんですよ。
「お茶自体がおいしいのに、ありえない」って。
でも、あと、2、3年したら、私みたいに
カクテルを作る人もたくさん出てくると思いますよ。
- ──
- でも、なかなか、真似できないと思います。
- 富士華名
- それ、じつは、生徒さんからも言われます。
SNSでレシピを見たからって、真似できない。
お茶がどんな性質をもっていて、
どんな風に抽出されて、どんな風に味が変化していくか、
お茶の科学を知らないと、作れないんだと思うんです。
一煎めと二煎めはお茶として飲んで、三煎めでカクテル、
四煎めでまたお茶に戻るとか、こんな自由なたのしみ方は、
やっぱり、お茶にしかできないことです。
盛り上がりますよ、お茶席のカクテル。
席についた人同士が仲良くなって、一期一会で。
- ──
- 世界観を作って、うつくしく魅せるのも、
富士華名さんならではだと思います。
- 富士華名
- ありがとうございます。
茶器を見に来る生徒さんも多いんですよ。
たとえばこれは(手元にある茶器を指して)、
300種類のなかから選んだ量産品なんです。
あるお店のかたに勧められて。
飲み口、口にあたる形、薄さ‥‥全部良いからって。
買ってみたら、やっぱり、お茶の味は抜群で。
でもね、かっこよくないでしょ(笑)!
だから、既製品に見えないように工夫しています。
- ──
- 小物の合わせ方、すごく素敵です。
- 富士華名
- 生徒さんからも、どんな茶器を
揃えたらいいか相談されるんです。
でも、私は茶器よりも、断然、
茶葉にお金をかけてほしいと思いますね。
- ──
- あの、富士華名さんのお茶を、もっと気軽に、
たとえばお店で飲めたりしたらいいなって思うんですが。
- 富士華名
- お店は、いまはまったく考えていないけれど、
そうですねえ‥‥もしご縁があれば。
でもねえ、やりたいこと自体はたくさんあるんですよ。
- ──
- 知りたいです。
- 富士華名
- まず、健全なほうから(笑)。
子どもの茶会を開いてみたいですね。
子どものときに体験したことって、
大人になって思い出したりもするじゃないですか。
台所に茶器があって、お茶を淹れてあるだけでも、
すごくうれしい光景じゃないですか?
「お母さん、飲む?」なんて言って、
お互いにちょっとお茶を淹れあったりしてね。
こういうことが身についていれば、
大人になっても、お茶をたのしめますよ。
お茶って、冷めてもおいしいですし。
- ──
- たしかに。お茶を淹れるって、
それだけで、日常のひと区切りになるというか。
会話も生まれますよね。
- 富士華名
- 健全じゃないほうは(笑)、
お客さんが葉巻を吸いながら、
私はとなりでお茶を淹れたいんです。
ちょっと香港マフィアっぽい雰囲気で。
お茶菓子は、フライドポテトにクリームチーズ、
そこにトリュフソースをかけて、お茶はプーアール茶。
0時からはじめて、日の出とともに、
始発で解散したりとかして。
いいじゃないですか、大人の遊び。
- ──
- 素敵。吸うのと、飲むのと。
同じ葉っぱだから相性も良さそう。
- 富士華名
- 何煎も飲み続けられて、そのたびに味が変わって、
その間にいろんな深い話しができて。
お茶って、本当に、一生追い続けられますよ。
かさばらないし、賞味期限もないし(笑)。
- ──
- 今日はおいしいお茶と、
いろんなお話、ありがとうございました。
- 富士華名
- こちらこそ、ありがとうございました。
スキンケア好きに響く美容液です。
お茶も、スキンケアも、
よく観察して、分析するのが好きです。
自分のためだけにお茶を淹れるときには、
まず、体が求めているお茶を選びます。
胃の調子が悪かったら、岩茶を。
岩茶には胃を動かす作用があるので。
むくんでいるときは、水分が流れる紅茶。
便秘気味なら白茶‥‥といったふうに。
意識をぐーっと集中させると、
お茶が体のどこを通っていくか分かるんです。
胃へ流れていくお茶もあれば、
末梢神経のほうまで水分がいって、
体が温まっていくお茶もあって。そういうときって、
お風呂に入っているような感覚になるんです。
スキンケアも、同じく。
分析好きな私としては、
スターティング、すごく気に入りました。
どんな小さな感想も忘れないようにしたいと思って、
スマホにちゃんとメモしています。
まず、手のひらにのせてなじませると、
手の温度で、するっと、
なめらかな状態になるのを感じます。
それを、肌に触れるか触れないかくらいの、
やさしいタッチでほおになじませるんです。
なるべく摩擦を加えず、2、3分かけて、
ていねいに水分を入れていくイメージです。
肌が水分をじゅうぶんに受け入れると、
油膜が張って、ぴんっ!とサインがあります。
このとき、肌がワントーンあがるような気がします。
朝起きた時にベタッとしていなくて、それなのに、
肌が守られている感じがするのもいいですね。
今って、注入したり、レーザーしたり、
すごく簡単にできてしまうじゃないですか。
でも私は、あえて、化粧品の成分と手指の感覚によって、
肌がどうかわっていくのか、見てみたいんです。
そんな私にとって、スターティングは、
あんな風にも、こんな風にも使ってみたいなと
研究心を刺激してくれる、
たのもしい美容液だなと思いました。