惠谷 今回シグネチャーを バージョンアップするにあたって、 素材とパターンに手を加えました。

どんなデザインに変わったんですか？

惠谷 一見すると変化がわからないと思うのですが、 アウターに響きにくくするために 胸の部分のダーツをギャザーに変えました。

ダーツは、胸の膨らみを包むための立体裁断ですよね。

惠谷 布が薄くてやわらかいので、 一枚布では丸みをカバーできないんです。 そのためにダーツで立体的な形にしていたのですが、 アウターに響いてしまうという声をいただきまして。

アウターに響きにくいってなると、 ツルッとした下着ですか？

惠谷 アウターに響かない下着というのは、 多くがモールドやフリーカットなど 表面がツルッとしたデザインのものだと思います。 私の場合は「必ず立体にして、 きれいなシルエットでつくること」を 大事にしているので、 立体の膨らみをギャザーにして アンダーのところに集めました。

アンダーとよばれるあたりなので、 トップとの差でちょうど響かないんですね。

惠谷 そうなんです。 もともとの華奢で女性らしいデザインは 残したかったのですが、 ギャザーだとかわいらしくなっちゃうんですね。 なので、これは「ノッチ」といって、 胸の高さを出したい部分にだけギャザーを入れて 大人の女性が似合うブラに。 オペラ座の衣裳室にいたときに、 ビスチェをつくるときの基本のパターンから 引用させてもらいました。

配色も落ち着いた感じですよね。

惠谷 ギャザーで子どもっぽくなったらどうしよう、 と思っていたので、 同系色のチュールを選んでくださったことで ぐっと大人っぽくなりましたよね。

上品で大人っぽい印象が強かったので、 フランスのマダムをイメージして フランス語の色名をつけたんです。

惠谷 とても素敵だと思います。

素材に関しては、たしか一度、 アップデートしましたよね？

惠谷 はい。前回もアップデートしましたが、 今回はさらに、よりピリング（毛玉）が起きにくいように、 糸の構造をバージョンアップしたんです。

糸の構造‥‥。

惠谷 くわしくお話しすると、 私はトレーサービリティのある 天然繊維か天然由来の繊維を なるべく使いたいと思っているので、 今回も再生セルロース繊維という 天然由来のひとつである「レーヨン」と ポリウレタンを混合しています。 そこに、「MVS」という特殊な加工によって ピリングが起きにくいように、 糸の撚りの回転数を変えて毛羽立ちを少なくしました。

たしかに前は、 ふわっとしている感じがありましたもんね。

惠谷 ふわふわが抑えられたからといって タッチはやわらかいままなので 安心してもらえたらと思います。 着心地を合わせるために、生地の伸度の違いで、 パターンの箇所によって ２ミリぐらい調整していますけれど、 まったくわからないと思います（笑）。

細やかに調整くださってありがたいです。

惠谷 やわらかな着心地や 身体になじむフィット感は変わらないので、 洗濯をした後がいちばん生地の違いを 実感していただきやすいかなと思います。

洗濯をすると、 以前よりもピリングが起きにくいんですね。

惠谷 そうですね、いわゆる抗ピリング加工をしています。 でも、長くきれいに着てもらうためには 乾燥機は控えてくださいね。

‥‥心当たりのある乗組員に伝えておきます（笑）。 わからなくなってしまうのですが、 レーヨンは化学繊維ではないんですよね？

惠谷 勘違いされている方も多いのですが、 保湿性が高い、天然由来の再生セルロース繊維です。 また、ブラの胸の裏地や ショーツ「エア」のクロッチ部分など、 肌にあたる部分はこれまで通り綿100%です。

生地はバージョンアップしたけれど、 さわってもわからないものですね。

惠谷 そうですね。 もともとのシグネチャーの生地の 気持ちよさや肌なじみのよさは、 みなさんからも好評だったので、 そこは変わらないように工夫しました。

今は日本でつくるのが 大変になってきているって聞きます。

惠谷 そうなんです。 これは素材も縫製もすべて日本なのですが、 円安の影響でほかの国の方々も 日本の工場にオーダーをかけているので、とても大変そうで。 私はこれまでお付き合いのある技術力の高い工場さんと ずっとご一緒しているんですけれど、 つくってもらえてよかったなと思います。