池谷 |
睡眠というのは、一種独特の生理現象なんです。 私たちの脳がやっていることは、 大きく分けて、 ●情報を集めてくる ●それを保管しておく というプロセスがあります。 コンピュータだと、 情報を集めることと、 ハードディスクに保存することを同時に行います。 でも、どうやら脳は それができないみたいです。 「まず集めておいて、あとで保存する」 これを交互にやるんです。 起きているときは意識レベルが常に高いけれども、 睡眠に入ると、意識レベルにゆらぎが生じます。 レベルの上下を何度かくり返し、やがて人は起きます。 だいたいこんな感じです。 情報を集めることができる時間は 当然起きているわけですが、 情報の保存は 意識レベルの低いときにやります。 |
糸井 |
だから、深い眠りのときに 脳細胞がフルに働くんですね。 |
池谷 |
たぶん、そういうことだと思います。 私は海馬の専門家なんですが、 なかでもCA3野という場所の 専門なんです。 |
糸井 |
CA3、ですか。 |
池谷 |
CA3は、昼間に情報を集めます。 保管場所は大脳皮質。 このCA3で、睡眠中、 それもとくに深い眠りのときに、 すごくおもしろいことが起こるんですよ。 それはですね、情報の圧縮です。 |
糸井 |
ヘぇ! |
池谷 |
ネズミの実験の話が もっともわかりやすいので、 それで説明します。 実験で、ネズミを歩かせます。 ある場所に行ったときに 特定のニューロンが活動します。 「場所A」のニューロンは 「場所A」に行ったときにだけ活動する。 「場所B」のニューロンは 「場所B」だけで活動する。 そういうしくみになっています。 ですから、研究者はネズミを見ていなくても、 海馬から記録されるニューロンの 電気信号をモニターで見ているだけで ネズミがどこをどう歩いているかわかります。 |
糸井 |
頭の中はすごいことになってるんだね(笑)。 |
池谷 |
起きてるあいだ、ネズミに同じ経路を A→B→C→D、A→B→C→Dと 何度も歩かせます。 そうするとモニターでも A→B→C→D、A→B→C→Dと出ます。 その直後、ネズミを寝かせます。 すると、眠りの浅いとき、つまり 夢をみているときに、ちゃんと A→B→C→D、A→B→C→Dって、 ニューロンが活動するんですよ。 |
糸井 |
え‥‥?! |
池谷 |
起きていたときと同じ順番で、です。 おそらく、A→B→C→Dの夢を見てるんでしょう。 夢の中で、寝ながら A→B→C→D、A→B→C→Dを体験します。 では、眠りの深いときには、 脳ではいったい何が起こっているのでしょうか。 それはですね、 やっぱりA→B→C→Dを再生しますが、 ものすごい早送りでやるんです。 最速で100倍以上の速さになります。 それが、深い眠りで 海馬のCA3がやっていることなんです。 |
糸井 |
圧縮した、速い再生を。 |
池谷 |
はい、やっています。 起きてるときはA→B→C→D、 夢を見てるときもA→B→C→Dだけど、 深い眠りのときだけ、とっても速く ABCD!、ABCD!です。 CA3が、記憶を圧縮するんです。 圧縮すると、今度はそれが 大脳皮質に戻ります。 リップルと呼ばれる、大脳皮質に届く脳波が出て、 情報が大脳皮質に戻り、保管されます。 |
糸井 |
それ用の脳波がちゃんと出るんですね。 不思議です。 (つづきます) |
2007-11-28-WED