6無罪が金で買えるとは?


糸井 しかし、O.J.シンプソンのような事件が
混じってくると、
弁護士が強い場合は強いのかなあ、なんて
思っちゃったりするんですが。
周防 でもね、O.J.シンプソンはそもそも、
検察の有罪立証がひどかったんです。
糸井 あ、そうなんですか。
周防 えっとですね、とても参考になる本があって、
四宮啓さんという弁護士の方が書かれた
『O.J.シンプソンはなぜ無罪になったか』
という本、
陪審員制というものの理解を助けてくれる、
いい本です。
四宮さんは端的に、
「無罪は金で買えます」って言うんですが、
それはどういうことかというと、
アメリカでは、お金を払わないと
まともな弁護士が雇えないんですよ。
だから貧しい人たちの裁判には冤罪が多いんです。
糸井 そうなんですか。

周防 きちんと弁護さえしてくれれば
無罪になる事件がいっぱいあるんです。
でも、お金のない人たちは
まともな弁護士を雇えないから
有罪になっている。
金があったら彼らは無罪になるから、
そういう意味で「無罪は金で買える」んです。
悪いやつが大枚はたいて
優秀な弁護士いっぱい雇えば
無罪が買えるんだよという話ではないです。
そういう誤解がちょっとあることと、
それに加えてO.J.シンプソンの事件は、
人種問題にすり替えられてますが、
そうではなくて、実際の検察官の
有罪立証が、失敗してるんです。
糸井 ひどかった?
周防 はい。これはほんとうに
ひどいことをやっているんですね。
ところが民事では、
O.J.シンプソンは負けた。
簡単に言うと、刑事裁判は100%有罪、
つまり、柔道で言えば
検察が一本勝ちできなければ無罪ですが、
民事には判定勝ちがある。
糸井 つまり検察の大ミスというところが
突かれたわけだ。
周防 大ミスですね。
アメリカの場合は陪審員制で
検察官控訴がありませんから、
一審で無罪になったら確定。
だから彼は無罪なんです。
糸井 なるほど。そうか、それが聞けてよかった。
でも、「金で買える」が
誤解されて伝わる背景が、
やっぱりあるような気もするんですよ。
ルールという道具を
上手に使いこなす悪い人、という
知恵者グループみたいなものが
世の中の上澄みにいるでしょう。
犯罪すれすれのところを行こうとして、
捕まってしまった人もいます。
周防 ええ。
糸井 そういう人たちの天下になることは
いやだなって気持ちが
みんなの中には、あります。
つまり、悪くて頭のいいやつの
言うとおりになっちゃうのはいやだ、
という庶民感情が、
どこかのところで
「うー、裁け!」と、
リンチを望んでいるのかもしれません。
周防 ありますね。
糸井 なんだかね、そういった
二層構造になってるような気がするんですよ。
周防 うん、うん。
糸井 優秀な弁護士っていうのと
尊敬できるすばらしい弁護士っていうのとは
また違うでしょうし、
ややこしいですね、そのへんは。
周防 これだけいろんなルールがあるとね。

(つづきます!)

2007-02-19-MON


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