糸井 | 僕らの世代は、どう自分が間違ったか、 自分が尊敬できないものに どういうふうについていったか、 そういう負の記録は覚えていようというところで 今の自分があるわけです。 だから、その意味ではね、 こんな世代に触れちゃった奴らはかなわんな、 って気持ちはあるんですけど、 でも、こんなふうに描けてる人が ちゃんと現れてきたんで、 な〜んか、うれしかったんですよ。 それをちゃんと役者の人たちが 理解してるじゃないですか。 |
周防 | はい。役者さん、すごくよかったです。 現場にいるときは それぞれ必死でやってるんで、 そんなに引いて見られなかったんですけど、 初のラッシュを観たときに、 「うわっ、キャスティングうまくいったんだな!」 と、ほんとうに思いました。 |
糸井 | でしょう。 おそらく、資料を読み込んだり 取材してる分量で比べたら、 監督と役者って100対1ぐらい 違うかもしれないけど、 そこを役者さんたちは、 一気に掴み取ってくれたんじゃないでしょうか。 |
周防 | 今回の脚本は、セリフが多すぎて、 ただでさえ台本が分厚いので、 ト書きをほとんど書いてないんですよ。 これでト書きを書いたら、 「監督こんなに厚いです」なんて 文句言われちゃうといやだから、 もうト書きオミット!(笑) ですから、シナリオはほとんどセリフだけなんです。 その部分をきちんと肉体化してくれているのは、 役者さんの力なんです。 |
糸井 | たいしたもんです。 水槽に薬入れないことを信じたいって気持ちと 同じですね。 |
周防 | でもね、法律談義しましたよ。 シーンに関係ないところでいっぱいやりました。 なんでそういうふうになってるのかとか、 こういうこともあるんですよとか。 演技についての話はあまり してないんですよ。 |
糸井 | なるほど。つまり、 演技者として答えを出すのは君の仕事だけど、 その前提になる世界はこうですよ、 という世界観ですね。 |
周防 | そうです。どうしてこういう場なのかを いっぱい話しました。 |
糸井 | 留置場は見学に行かれたりしたんですか。 |
周防 | 使用していない留置場を見ました。 新しくできた留置場を取材した映像を 見たりもしましたが、とてもきれいでしたね。 これから使うとこだから なおさらなんでしょうけど。 映画に出てくるのは、 最新式ではないけれども古くはない、 今いちばん多く見られる スタンダードタイプにしてあります。 |
糸井 | 捕まって「こんなはずじゃない」と思った 主人公の子も、 「こんな汚いところに押し込められて」 という悲しみは訴えてなかったですね。 |
周防 | はい。でも、検察庁の地下にあって 検察官の取調べを待つ 「同行室」という部屋のことは、 映画の取材をしているときに、 みなさんおっしゃっていました。 小部屋から、 大物政治家が待つような 特別室みたいなところまで あるらしいですけど、 背もたれが直角の木の椅子で 私語も禁止で動いちゃダメで、 取り調べに呼ばれるまで待つんです。 「お茶をひく」という言い方があるんですけど、 取り調べもしないのに呼ばれて、 1日そのままで帰されるとか、 そういう意地悪もされるという部屋だそうです。 |
糸井 | 意地悪というか、 当然だと思ってますよね、 呼ぶ側は。 |
周防 | はい。拷問に近いものがあるそうです。 みなさん、とにかくあそこがいちばん つらかったとおっしゃっていました。 その場所がどういうものであるかは 裁判官も知らないようです。 あそこは検察庁の地下にあっても 検察庁の管轄じゃなくて、 警察の管轄なんですって。警察に貸してるんです。 だから、原則的に検察官も知らないって言います。 |
糸井 | そうですか(笑)。 明らかに環境の暴力を加えてますね。 そういうところでの ジャブみたいな拷問は、効きます。 「みんな自白してるのに君だけだね」的な 嘘もさんざんつきますよ。 ギターの速弾きみたいに テクのひとつだと思ってんじゃないかな。 |
周防 | そうみたいですね。 「いま家族を調べてる。 ほんとうはおまえの弟が怪しいんだ」 と言われて、 弟なのかなと思って、かばうつもりで 自分のほうに捜査の目を向けるために 自白に近いようなことを言ってしまうとか。 そういう脅しはテクニックとしてあると言われます。 |
糸井 | それはフルにあるでしょうね、きっと。 |
周防 | 警察は日々罪人とつきあってるわけです。 だから、悪いやつは嘘をつく、と思います。 自白しないのは、 悪いやつが悪いことをやってんだけど 嘘つきだから自白しないだけだという 発想ですね。 だから、いくらでも責められるんでしょうね。 |
糸井 | 練習しちゃって うまくなりやがって!って 思ったりするかもしれないですね。 (つづきます) |
2007-02-25-SUN |