高橋 |
当時のぼくには、わかりませんでした。
家も財産も流されて
家族や友だちが亡くなったりしたときに
「何で写真なんか探すんだ?」
ということが、わからなかったんです。
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糸井 |
うん。
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高橋 |
でも、カメラマンの仕事をしていたので、
あるていど
技術的は役に立つこともあるかと思って、
「手伝いますよ」と言いました。
だから、その先生には
「みなさんの気持ちはわかんないけど、
写真がどう機能するのか、
興味があるから手伝うのが半分です」
って言ったんです。
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糸井 |
正直にね。なるほど。
たぶん、その当時って
「現地の人のために」と言って向かった人も
当然いただろうけど、
「よくわかんないけど」って行った人だって
たくさんいたと思うんです。
つまり、自分の頭が整理できてた人って
けっこう少なかったと思う。
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高橋 |
そうでしょうね。
ぼくも、初めて行った松島で
現地の居酒屋の酔っぱらいのおっさんたちに
よくしてもらったんですが、
最初「お前ら何しに来たんだ?」って(笑)。
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糸井 |
ぼくたちも、ちょうど同じころに
はじめて気仙沼や山元町へ行ったんですけど、
どういう顔をしていいか‥‥。
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高橋 |
わかんないですよね。
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糸井 |
単純に「報道」という意識がなかったら
悲しいほうにカメラを向けられないです。
撮っていいんでしょうかという気持ちが、
やっぱり、すごくありましたから。
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高橋 |
はじめて山元町の体育館に行ったときに
写真がずらっと並んでいました。
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糸井 |
うわー‥‥こんなに。
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高橋 |
「これを、ぜんぶデータ化したい」って。
心のなかでは、無理だろうと思いました。
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糸井 |
すごい量だもんね。
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高橋 |
ほんと、すごかったです。
でも「はい、やりましょう!」って
言っちゃった手前‥‥。
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糸井 |
言っちゃったんだ。
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高橋 |
ええ、「やりましょう!」というか‥‥
「がんばりましょう」というか。
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糸井 |
写真家の仲間が、何人もいたんですか?
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高橋 |
いや、ぜんぜんいませんでした。
ボランティアの学生ががんばってました。
東北大とか京大とかの大学生なんですけど、
ゴールデンウイークに
大学生が合コンもしないで写真を洗って。
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糸井 |
それ、技術は要らないの?
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高橋 |
要らないですね。要るのは「根気」です。
バラバラになった写真を、
ひとつひとつ、水で洗っていくんです。
アルバム自体は、ブラシで泥を落として、
雑巾で拭って、で、綺麗になったら
複写して、データ化していくという作業。
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糸井 |
複写っていうのはつまり、
写真そのものをカメラで撮影していくって
作業ですよね。
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高橋 |
そうですね、ひとつひとつ。
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糸井 |
朝から晩まで。
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高橋 |
基本的には、太陽が沈むまでやってました。
自然光で撮ってましたから。
毎日、宮城病院の研修施設みたいな建物に
寝泊りしながら‥‥。
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糸井 |
人は増えていったんですか、その後?
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高橋 |
何かしら写真に関係していて
「自分にも何かできないかな?」という人は
たくさんいたので
「洗浄複写会」という名前にして募集したら
たくさんボランティアで来てくれて。
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糸井 |
へえ。
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高橋 |
瓦礫の処理だったりとか
「体力勝負!」みたいな仕事はできなくても
写真を洗うだけなら、誰にでもできるし。
延べ人数で、700人くらいかなあ。
5月くらいからはじめて、秋になるまで。
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糸井 |
ずっといたわけじゃないですよね、そこに。
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高橋 |
ぼくも、自分のカメラの仕事があるので
行ったり来たりですけど、
週末だったりとか、
なるべく行くようにはしていました。
洗浄チームと複写チームにわかれて
ぼくみたいな誰かが現場を仕切るんですね。
で、洗浄は誰でもできるんですが
結局、カメラマンがいっぱい集まったので、
複写チームは
専門家が見たほうがいいだろうってことで。
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糸井 |
なるほど。
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高橋 |
なので、現場には
そのつど行ける写真家が行ってたんです。
ボランティアの人たちに
カメラの操作方法を説明したりとかして。
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糸井 |
それだけ、みんなやる気で
個々人が自主的に動けるチームがあったら、
強いだろうなあ。
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高橋 |
いや、ぼくもそう思いました。
なんだか「カメラマンすごいな」と(笑)。
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糸井 |
うん、すごいよ!(笑)
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高橋 |
カメラマンみたいにフリーで仕事してる人って
「我が強い」ってイメージがあって、
「カメラマン集めたら喧嘩するかもな」と
最初は、ちょっと心配してたんです。
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糸井 |
うん。思う、思う。
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高橋 |
でも現場には、写真を勉強している学生から
かなり第一線でお仕事をされてるベテランまで
いたんですけど、
喧嘩なんて、まったくゼロでした。
むしろ、すごくいい先輩・後輩関係を見ました。
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糸井 |
最高ですね、それ。
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高橋 |
ベテランは、若い人に「技術」を教える。
「こう撮ったほうが映り込みが少ないよ」とか。
で、学生は「はい!」みたいな感じで学びつつ、
体力勝負みたいなところは、ぼくらに任せてと。
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糸井 |
最高のチームができてたんだね。
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高橋 |
そうかもしれないです、はい。
<つづきます> |