武田双雲ー糸井重里 HOME 言葉について、書について、 「いつでも帰ってこれる場所」について


第2回 遊でもなく雄でもなく悠
糸井 大学はIT系なんですよね、たしか。
武田 東京理科大の情報学科というところで‥‥
具体的にはコンピュータ関係です。
糸井 こうやって話すと、なるほどと思うんだけど、
知ったときは、やっぱり意外でしたね。
武田 でもまぁ、4年間、通ったというだけで
ぜんぜん詳しくはないし‥‥
なにしろ、あんまり興味がなかった(笑)。
糸井 コンピュータに?
武田 ただ、宇宙のこととかは、大好きなんです。

今でも、物理学や量子力学は好きですし、
科学者のかたと
対談させていただくのとか、ワクワクして。
糸井 へぇ。
武田 でも、現代人の「伝えたい」という欲求って、
ほんとに、すごいなと思いますね。

世界中をインターネットでつないだり、
衛星を飛ばして
同時配信とか双方向通信をやってみたり‥‥
してるじゃないですか。
糸井 ええ。
武田 つながりたい、伝えたい、伝わりたい‥‥という
人間の「コミュニケーション欲」が、
こわいくらいのスピードで、満たされていく。
糸井 うん。
武田 ひとりひとりのワクを越えてつながってるから、
個人では制御できないところまで
いってしまってるような‥‥その怖さがあって。

伝達してほしくないものまで、
ものすごい速度で、伝達されてしまうというか。
糸井 情報過多と言っちゃえばカンタンなんだけど、
そういう状況で、武田さんは、どうしてる?
武田 切り捨てる‥‥ですね。

あるいは「オレは絶対にこう思う」という
エゴの部分のボリュームを増やす。
糸井 それは‥‥正しいかもね。
武田 たぶん掃除といっしょだと思うんです。

膨大な量の情報を処理してそうな
佐藤可士和さんなんか、
天才的な「片付け上手」ですから。
糸井 あれは‥‥何なんだろう。

なんというか「子ども」みたいですよね、
あの「徹底した片付けぶり」は(笑)。
武田 可士和さんと本(『書本』『しょぼん』)を
つくったときに、
「ちょっと抑えてない?」って言われて。
糸井 武田さんが?
武田 そんなこと言われたのって、はじめてだったんです。

まずは「ぶわあーっ!」と散らかしちゃって、
まわりの人にさんざん迷惑をかけて、
で、「ごめんなさい」って謝るタイプだったので。
糸井 なんとなくわかるなぁ(笑)。
武田 でも、最近では、大人になったのか‥‥
プロデューサー的な発言も
するらしいんですよ、たまーにですけど。

そうすると可士和さんが「もったいない」って。

「遠慮なしに、散らかしてもらっていい。
 オレは片付けたい人だから」って。
糸井 なるほどね。
武田 「もう、ぶわあーっと吐き散らしてくれ、
 そこではじめて、オレが片付けられる」と。

「そしたら、すごいものができるから」と。
糸井 つまり可士和くんは「キャッチャー」なんだね。
武田 そうそう、そうなんです。
糸井 ぼくといるときの可士和くんは
わりに「ピッチャー」に見えますけどね。
武田 ああ! そうか‥‥そのときは、
糸井さんが「キャッチャー」になるんだ。
糸井 それってつまり、順番なんですよ。

ぼくはぼくで、むかし、
「キャッチャー」になってもらった相手というのが
いますからね。
武田 失礼ですけど、今‥‥おいくつなんですか?
糸井 60です。
武田 60歳ですか?
糸井 うん。
武田 ってことは‥‥ぼく、ぜんぜんお歳を知らなくて、
スイマセン、
今ちょっとびっくりしてるんですが‥‥60歳?
糸井 そう。
武田 ぼく、両親が56歳なんですけど‥‥。
糸井 子どもですねぇ(笑)。
武田 このあいだ、いっしょにライブをやった
泉谷しげるさんも還暦でしたけど‥‥。

60歳って、すごい人たちが、いすぎ!
なんだ、この異常な‥‥60歳のすごさは!
糸井 ま、団塊の世代って人数は多いからねぇ(笑)。
武田 いや、それだけじゃなくて、
なんだろう、その、カッコよさというか‥‥。
糸井 まぁ‥‥そのへんはよくわからないけど、
最近、猛烈にカッコいいと思ったのは
オリンピックのボルトだけどね、オレは。
武田 え? えー‥‥と、男子100メートルの?
糸井 うん、最後、フィニッシュのとき、
もう金メダルがほとんど決まってる状況で‥‥
横を向いて、テープ切ったでしょ?

あれはもう‥‥
なんなんだっていうぐらい、カッコよかった。
武田 ああ、ありましたね、うん。
‥‥どういう気持ちなんでしょう、あれ。
糸井 うーん、そうですねぇ。

「オレは、この先が、どうなってるか知ってる」。
武田 ああ‥‥。
糸井 「だから、前なんか見なくたって、いいんだ」と。
武田 ああ‥‥。
糸井 つまり、目のまえには誰もいなくて、
テープだけがあって、
さらにその先には、金メダルがある。
武田 なんか‥‥そこに美学を感じるのって、
糸井さんならではというか。
糸井 いっしょに決勝で走った選手たちのことを、
敵であると同時に、
友だちでもあると感じたんじゃないかなぁ。

だから「なあ、みんな」って感じ。
あの場面に、セリフをはめ込むとしたら。
武田 オリンピックの決勝という極限的な状況のなかで、
「身体運動」として出てきた、
自然な動きだったからこそ‥‥美しかったんだ。
糸井 そう、美しいし、すてきで、カッコよかった。
武田 「なあ、みんな」っていうのは‥‥。
糸井 「オレ、勝っただろ?」でもあるし、
「いっしょに走ってくれて、ありがとう」でもあるし、
「ほら、みんな見てるぜ」でもあるし‥‥。
武田 ぼくが、あの場面を書で表現するとしたら、
悠久の「悠」‥‥ですかね。
糸井 悠‥‥。なるほど、ぴったりだわ、それ。
武田 何でそう思ったのかわからないけど、
いま、ぽっと出てきた。

遊びの「遊」でもなく、
英雄の「雄」でもなく‥‥「悠」です。
糸井 ‥‥おもしろい脳みそだねぇ。

<つづきます>

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2008-12-23-TUE

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